見出し画像

NFTは未発表研究を生き返らせるか:はやりのIT用語と研究活動④

 NFTの理解のために、代替性トークン(FT)である暗号資産の話を前記事で解説しました。代替できない固有のトークンであるNFTはデジタル空間での情報に価値を与えます。研究世界のメタバース・VR/AR利用を踏まえた上で、NFTが研究でどう使われるのかを考えてみた。(小野堅太郎)

 人間の感覚からすると、目で見えて触れる物は「存在」します。だから、人間社会において、経済活動として物々交換が始まりました。交易が拡大してくると、物を「お金」という社会的価値保障のある腐らない物質に置き換えるようになり、いつしかそれが経済の柱になりました。そしてお金は存在を失いつつあり、クレジットカードや電子マネーなどのデジタル情報として取引されるようになってしまいました。

 物であろうと、お金であろうと、電子マネーであろうと、コピーされたら困ります。コピーで量産されると価値は暴落します。「価値あるモノ」は「存在」を失うほど便利になる反面、コピーが簡単になっていきました。そこで、偽造防止のために各時代の最新テクノロジーが使われてきました。暗号資産はなんとかこの枠内に入ったわけですが、NFTはまだ入っていません。

 つまり、NFTで扱われる情報はコピーし放題です。NFTは「オリジナルである証拠」を提供しますが、複製は止めれません。Twitter初投稿やアート分野でNFTが話題になりましたが、情報自体はコピー可能なわけです。

 しかし、このNFTの性質は研究にはうってつけではないかと考えています。NFTには、記録・証拠としての価値は十二分にあるわけです。特許論争ではいつも「一番初めは誰か?」になります。すべての研究が改竄できないようにNFT化されているとしたら、こんなに強い根拠はありません。

 論文として公表される実験・アイデアはほんの一部です。教授室の論文やデータが棚に入りきれず、床に積み上げていたのですが、歩く場所がなくなったので思い切って捨てる作業を始めました。その作業中、過去のデータや論文から「その時の研究アイデア」を思い出しました。研究初めの10年分をようやく廃棄しましたが、三割ぐらいしか論文にできていませんでした。残りの2割程度は他の研究者により既に証明・報告され、5割は未だ未解決の研究分野でした。

 他の研究者により証明されてしまった二割の未発表データは使いようがありません。あの時もっと知識があったら、お金があったら、人がいたら、私もそこに名を連ねることができたかもしれません。今更論文にしても、二番煎じ、追認にしかなりません。20年前の論文の3〜5倍のデータを要求する最近の研究事情を考えると、思い切って捨てる判断をしました。

 残った五割分は、データは残して論文だけを捨てたのですが、さて、どうしましょう。10年も前のデータです。今やっている研究を止めることはできないので、追加実験して論文にする時間はありません。将来、大学院生が大量に増えるようなことがあれば、やってもらえるでしょうが、そんな日はいつくるのか。なら、実験方法と一緒にまとめてネットで公表し、「誰でも使っていいですよ。ただし、論文に名前入れてね。」とするのはどうでしょうか。

 そこで、「あれ、NFTとして上げたらいいんじゃね」と思ったのである。ネットに公開すれば、誰かに同じ実験をマネされて、自分の優先権は消滅してしまいます。あしかし、NFTならブロックチェーンを使うので、改竄防止に加えてタイムスタンプ付きでP2P保存できる。マネされても後でいくらでも優先権を主張できます。

 もちろん、データをNFT化する手間を考えると「やらない」となってしまいますが、もし将来、研究にまつわる諸々を簡単にNFT化して研究者コミュニティで公開するような時代になったらどうなるでしょうか。VR/ARを利用した実験のリアル記録とロボット自動実験を付属したデータシートがNFTとして、研究者メタバースで公開されるとしたらどうなるでしょうか。

 実験データNFTは、確かな情報としてネット上に記録され、改竄されることなく、複数の人たちにコピーされ(再現実験)るも優先権を保持し、自然科学に貢献し続ける訳です。これまでは、論文がその役割を担っていたのですが、論文化できない中途半端な未発表データは社会に公開されずお蔵入りとなっていたわけです。NFTは、これらの未発表データを社会で共有するチャンスを提供します。

 実験データが未発表となる原因には、「その時代の常識に反しており、常識を覆すほどの証拠が提示でいない」であったり、「それぞれのデータに相反する矛盾があって、それを説明できる理論か思いつかない」ということがあります。これらは、未来に誰かが追加実験や新理論によって発表してくれるかもしれません。10年後か、100年後かはわかりませんが、情報の渦の中で誰かが見つけてくれて、論文にまとめれるレベルに持っていってくれるかもしれません。現在では、再実験して論文化するわけですが、NFTとして証拠としての担保があれば再実験はいりません。実験者の優先権も保持され、それを利用した科学者の時間・金銭・労力を大きく排除でき、SDGsな研究が可能となります。いや、そもそも、論文化しなくとも、NFT実験データのハッシュ値を組み込んだチェーンブロックとして新たなNFTとして発表すればいいわけです。論文は不要となり、データNFT、論理NFT、解析NFT、メタ解析NFT、翻訳NFTなどが世界的に共有されることになります。情報のコピーはし放題です。科学が社会に完全開放されます。

 なーんてことを考えてみました。ウチの部下や大学院生に「論文に出来なかったら、研究してない人と同じ」とキツイ言葉をいつも言ってますが、NFTはこの状況を変える可能性を秘めています。研究者としての努力・成果を適切に人類史に残す手段としてNFTには注目しています。他にも、NFTには収益化やその分配指定などもできますので、実験データビジネスなんてのも出てくるでしょう。楽しみです♪

これまでの関連記事はこちら👇




全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。