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researchmapを知っていますか?:研究者たちのデジタル履歴書①

 研究者の業績管理は、経歴が長くなってくると大変である。医療系大学に所属するなら、研究だけでなく、教育や臨床の実績もある。これら積み重なった業績は、自らの大学人としての足跡を示すことになり、近年は社会に公開することが求められている。2020年にグレードアップしたresearchmapについて紹介してみる。(小野堅太郎)

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 まず、皆さん、researchmapを知っていますか?。研究者ではない方のほとんどが知らないのではないかと思います。では、「研究者なら全員知っています。」と言いたいところですが、そうでもありません。知ってはいても、「使用していない」方が、かなりいるのは確かです。

 researchmapができるまでを、小野の経験も踏まえて話してみます。

 科学技術振興機構(略称JST)というのがあります。研究者にとってはかなりありがたい組織で、研究の創発・活性化や研究成果の広報・普及など研究にまつわる様々なことを助けてくれています。1996年に日本科学技術情報センターと新技術事業団が統合されて設立されました。1998年に研究者情報をまとめる「研究開発支援総合ディレクトリ (ReaD)」というのができます。このReaDに2002年から、国立情報学研究所で行ってきた「研究活動の調査」が組み込まれます。翌年、JSTは、小泉政権下で例にもれず独立行政法人化します。

 2007年にReaDの大きな改変があり、このころから毎年各研究者にReaD更新のお願いが来るようになったので、小野はまじめに業績の登録作業をした記憶があります。2009年に、JSTから「J-GLOBAL」という文献・特許・研究者・研究機関・化学物質などの総合検索データベースがリリースされ、そこに「ReaD」が表示されるようになります。この辺から更新のお願いが来なくなったようで、ReaDの更新を小野はやらなくなってしまいました(単純に忘れていた)。

 同じく2009年、情報・システム研究機構 (ROIS;2004年に先の国立情報学研究所と他3研究所をとりまとめた大学共同利用機関法人)が、ReaDと内容的にかぶる「Researchmap(Rが大文字)」という研究者情報サービスが立ち上がったようです(小野は知りませんでした)。国立情報学研究所の新井紀子教授たちによる取り組みです。新井教授といえば「AI vs.教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社、2018年)でベストセラーを出し、TV等でもご存じの方が多いと思います。小野が尊敬する研究者のお一人です。

 さて、2011年、ROISのResearchmapは、JSTのReaDと統合することになり、JST事業としてReaD&Researchmapとなります(前年にブームとなった「事業仕分け」の影響があったのでしょうか?)。2014年に名称が現在の「researchmap(rが小文字)」となります。そして、2018年、研究者の生命線でもある科学研究費の申請前、「researchmapが科研審査に使用されるから、入力してないとヤバいよ!」との噂が研究者たちに一気に広がります。噂ですので「ヤバい」わけでは結局なかったのですが、科研費を申請する研究者たちの一部は徹夜してresearchmapを入力しました。

 小野も慌てた一人でした。ReaDからresearchmapへデータは引き継がれていたのですが、小野の業績は2008年で止まっていました。追加10年分の業績入力というと、結構大変です。しかし、いろいろ調べてみると、東京・大阪の研究者はかなりの割合で入力していましたが、地方大学の研究者はさっぱりでした。小野は基本情報と論文業績だけ最新にしてから科研応募を提出しました。結果は、なんと不採択!うーん、researchmapのせいではありません。基盤Cではなく、採択率の低い基盤B(Cより高額)に応募したためと思われます。つらい1年を過ごして、翌年の基盤Cの応募は採択されました。

 そして、2020年2月、JSTはresearchmapがバージョン2に更新され、AIの導入による業績の収集が簡単になりました。かなり便利です。歳を取ってくると、印象の薄い業績は忘れてしまうことも多く、検索で一気に業績追加ができるのは助かります。個々でPC管理するよりも、web上のresearchmapで管理をする方が楽になりました。

 とはいえ、現在でもresearchmapが研究者全体に広がっているとは言えない状態です。時折、「researchmapは普及しないと思うよ」との否定的な声が聞こえてきます。うーんそうでしょうか。研究業績は「研究者の履歴書」です。転職や職位を上げる時には履歴書の提出が求められますが、業績リストはresearchmapで全面対応できます(大学院生も登録できるので、就職にも使えるのでは?)。同じく毎年ある学内での「業績評価」にも使えます。各大学HPでの研究者紹介欄にはresearchmapへのリンクを貼るだけでよいはずです。忙しい研究者の手間を減らす非常に有用なツールだと思います。

 researchmapには他にもいろんな機能があり、その中にフォロー機能があります。フォローした研究者が新しい業績を追加すると、お知らせが届きます。その度に「自分も頑張ろう!」と思わせてくれます。研究者にのみメールアドレスが公開されますので、フォロー機能と合わせて研究者間・研究者ー企業間の交流を深めれる可能性を含んでいます。あくまでも多くの研究者がresearchmapを頻繁に更新することが条件となります。

 この記事を読んで、「researchmapやってみようかな」と思ってくれた研究者・大学院生がいてくれたら幸いです。しかし、ちょっと待ってください。researchmapの前にやっておくべき「英文業績管理システム」があります。ORCiD(オーキッド)とPublons(パブロンズ)です。これらについても紹介していこうと思います。


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