新規事業の目的の明確化


企業の永続的な成長に欠かせない新規事業

これまでの記事で「新規事業とはそもそも何か」や「新規事業のステップ」についてご紹介してきました。
今回は、「新規事業はなぜ必要なのかという目的」についてご紹介します。

新規事業が必要になる理由は、一言でいうと「企業の継続・成長のため」というのに集約されます。
企業の継続・成長のためには、既存事業を行っているだけでは難しく、新規事業を実施する必要性があるということです。
新規事業を実施する目的を体系化すると、以下のように整理出来ると思います。

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大きく分けると3つのパターンに分かれます。1つ目がリスクヘッジ、2つ目が成長、3つ目が機会です。それぞれどのようなことか説明していきます。


今の仕事はいつかなくなる?! 想定されるリスク

新規事業を行う理由の1つ目は、リスクヘッジです。
このリスクヘッジは2つの観点が考えられます。
1つ目のリスクはプロダクトライフサイクル、つまり事業の寿命の問題です。
プロダクトライフサイクルの詳細については別な機会で詳しく触れたいと思いますが、簡単にいうと、製品・サービスの市場を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」と分けて、製品・サービスが現在どのフェーズにいるのかを分析・把握するためのものです。
ここで注目したいのは、どんな製品でもいずれは衰退するということです。
今成長していても、将来的には市場が成熟し、その後衰退していきます。技術面や経済面、社会面などの環境が大きく変化するので、これまでの枠組みの製品・サービスとは全く違う発想の新しい製品・サービスに置き変えられてしまうのです。
プロダクトライフサイクルのスピードは速いものもあれば、非常に遅いものもありますが、一部の例外は除き、新しいことを何もしなければいずれ衰退してしまいます。
なにもしなければ衰退するのであれば、企業を永続させることができません。そのため新規事業を検討する必要があります。

2つ目のリスクは、突然の環境変化へのリスク対応です。
現在多くの企業が影響を受けている、新型コロナウイルスが直近ではわかりやすい例です。2019年の段階では、緊急事態宣言が発出され、多くの店舗が営業を自粛するなんてことは誰も想像していなかったと思います。
会社は多くがリモートワークでの勤務となり、学校は臨時休校になりました。
こんなことが起こるなんてだれも予想できません。
新型コロナウイルス以外でも、リーマンショックや東日本大震災など社会的にマイナスとなる大きな出来事がこれまでも幾度となくありました。

最近の環境変化でいうと、リモートワークの進展があります。
リモートワークが進むと、プラスになる業界、マイナスになる業界とはっきり分かれます。
例えば、Web会議システムやチャットシステム、パソコン等の電子機器、住宅街にある飲食店などはプラス要因です。
逆に、電車や飛行機等の人の移動に関連する業界、紙やハンコなどを販売する業界、オフィス街にある飲食店などはマイナス要因です。
さらには、環境変化は新型コロナウイルスのような社会全体に大きな影響を及ぼす要因だけではありません。
市場や自社といったミクロの観点でも、新たな競合の出現、代替製品の新登場、仕入単価の大幅な向上、大口取引先との契約解除など考えられるリスク要因は多々あります。

今の時代、将来何が起こるかわかりません。
リスクが顕在化した後に対処方法を検討していては、手遅れになってしまう可能性があります。
リスクが顕在化する前に新規事業を検討することが求められる時代になっていると思います。


ビジョンの実現! 経営人材の育成

新規事業を行う理由の2つ目は、成長のためです。この成長も2つの観点が考えられます。

1つ目の観点は、目標・ビジョン実現のために売上をストレートに上げにいきたいということです。ここでいうビジョンとは、短期ないしは中長期の視点で、既存事業のみではとても実現できないような売上・利益の目標を設定している成長志向が高い企業のビジョンです。どんなに既存事業で頑張っても既存事業の市場規模や将来性ではビジョンの実現が困難だとしたら、新規事業に進出し、別な事業で売上・利益を確保する必要があります。

2つ目の観点は次の経営者や管理者人材の育成のため、つまり人の成長です。
新規事業はアイデアの創出、仮説、検証など多くのステップを踏んで実現します。
また、ローンチ後も定期的な改善が必要ですし、組織面など考えなければならないことは山積みです。
新規事業を生み出し、事業をスケールさせる経験を積むことは、新規事業に関わった人材にとって非常に大きな経験になります。
この経験を積むことが、将来の経営者や管理者人材の育成につながるため、人材育成目的で新規事業を実施するという理由もあります。


資産の有効活用や既存事業とのシナジーの高さ

新規事業を行う理由の3つ目は、機会の活用です。機会の活用も2つの観点が考えられます。1つ目は、オフィスや設備、人材などの有効活用のためです。既存事業の縮小や業務効率化の実現などにより、既存事業で利用していたオフィスや店舗などのスペース、設備や人材などの資産に余裕が生まれることがあります(これを「組織スラック」と呼んだりもします)。この余裕がある資産を有効活用する手段の1つとして、新規事業が選択肢に挙がります。このケースの場合は、新規設備投資額を低く抑えて新規事業を実行できる可能性が高いというメリットもあります。

2つ目は、既存事業との相乗効果が高く、成功可能性が高い場合です。新規事業は、すでに稼働している既存事業に比べて成功可能性は低く、リスクが高いのが一般的です。ですが、既存事業との相乗効果が高い場合など、新規事業領域で圧倒的な競争優位を保持している場合は新規事業の成功可能性が高まるため、新規参入すべきという判断になります。


まとめ

新規事業は、これまで行ってきた既存事業とは異なります。
既存事業と比較した場合、対象とするターゲット、製品・サービスの内容、販売・流通方法、必要となるその他のノウハウなど、ほぼ全ての要素が変化します。
したがって、既存事業よりも成功のハードルは高くなることが多いです。
さらに、新規事業を行おうとすると、新たな投資が必要になったり、既存事業に投下していた設備や人材などのリソースが分散したり、既存事業に追加で投下可能なリソースが縮小したりします。
そのため、やみくもに新規事業を行えばよいというわけではなく、「リスクヘッジ」「成長」「機会」といった新規事業を行うべき理由が自社にとってあるかどうか最初に検討するのが良いと思います。


著:森本晃弘NS.CPA


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