見出し画像

《眩しく透き通る.》

 祖母はずるい。そこが人には可愛く映るから、もっとずるいのだ。

画像4

 わが家では伝統のトランプ遊びがある。子どもの頃、祖母の家へ遊びにいくと祖父母、母、わたしでいつもしていたそのゲームを、彼女の家で日々を過ごすようになったこの頃もよくしている。朝昼晩と食事のあとにはトランプをすることが習慣になっているほどだ。札を配るのが、祖母の役目であることもいつも変わらない。

画像2

 その時にかならず起こるのが、彼女による小さな「不正」だ。裏返しの束をこっそりめくり、強いカードを自分のところへ置いていく。(一緒にプレーする母もわたしもみているところでしているから、こっそりではないのだけれど。)それでも勝ちたい気持ちがまだまだあるその若さにほほえましくなり、みて見ぬふりをしてしまうのだった。

画像3

 そして、祖母は勝つ。最初に選んだ札がいい上に、引きも強い彼女だから当然だ。わたしは負けたことが嬉しくて笑顔で「くやしい!負けた〜!」と言ってしまうのだった。

画像1



 久しぶりに祖母と出かけた先は、病院だった。訪問のお医者さんではできない検査を、総合病院ですることになった。検査を待っていると、突然手をふり始める祖母。

画像5

 視線の先にいたのは、病院スタッフの男性だった。そうなのだ。祖母は、「お兄さん」をみつけることが大の得意で、さらに躊躇することなく自分の存在をアピールするのだ。「順番もう少し待っていてくださいね。」と歩み寄って優しくを声をかけてくださるその方。先程までぐずぐずとしていたと思えない愛らしい表情を祖母は浮かべる。「もう。ちゃっかりしてるんだから。」とその様子にマスクの下でつい笑みをこぼしてしまうわたしだった。

画像6

 お会計を待っている間。遠くにいるお兄さんに今度は「ありがとう」と言いながら手をふる祖母。先ほどとはまたちがう男性に、ふたたび目を輝かせる彼女。お世話になった科の方ではないたまたま通りがかったスタッフの男性にまで声をかけたことに、自分でも笑ってしまっていた。そんな祖母をみて、またくすくすと笑ってしまうわたしだ。

画像7


 そういえば、テレビの取材を受けた時にも顔が好みのカメラマンさんに、何度も投げキッスをしていた。その様子は全国放送までされた。素敵なお兄ちゃんとも言っていたし、放送されなかったところでは、「愛しちゃったのよ〜」と懐かしい曲のワンフレーズを歌って差し上げていた。

画像8

 
 ずるいと書いたけれど、祖母はただ正直なだけなのかもしれない。勝ちたい気持ちも、好意も表に出すことをためらってしまうわたしには、それを恥じらうことなくさらっとみせてしまう彼女がちょっとずるくみえてしまうだけのかもしれない。そして、それがものすごく魅力的に映るのは、祖母のもつ素直さが眩しく透き通るものだからなのだと気づかされる。

画像8







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?