見出し画像

《夏、パリパリ.》

 トマト、オクラ、なす、とうもろこし。

 夏野菜の美味しい季節がやってきた。その中でも「きゅうり」を思わず買いたくなってしまうのにはちょっとした「おバカ」な理由がある。

 94歳の祖母。大の自慢は、歯が全部自分のものであることだ。このことは歯医者さんや看護師さんにも「すごいですね!」といつも褒めていただく。わたしの作る料理を毎日美味しそうに食べてくれるのも、その健康な「歯」のおかげなのだろう。

 さて、我が家のきゅうりの食べ方は至ってシンプルだ。ほとんどが和え物。梅干しと塩昆布、ツナと塩昆布、ワカメとしらす。さらには、自家製の梅ジャムとクリームチーズのそれもよく初夏には登場する。

 「じーっ。」食卓でわたしに向けられるあやしげな視線。これを発しているのは、隣に座る祖母だ。そちらを見ると、きゅうりをパリパリ言わせ、やはりドヤ顔をしている。いつものあの褒め言葉を待っているようなのだ。「歯がいいね。」の。これについつい「目も耳も顔もいいけど、歯もいいんだね!」とつけ足してしまうのは、旺盛なサービス精神を彼女から受け継いでいるからなのかもしれない。

 いつものようにあっさり「うん。」と言っては向き直り、またパリパリの音を響かせる。そして、またあの顔だ。認知症のある祖母なので、この儀式は何度か繰り返される。

 それでも、またその表情を見たくて、こりずにきゅうりを買っては和え物にしてしまうわたし。この孫バカっぷりは、夏の暑さの中でも健在なようだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?