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《稲と宝石.》

 「金色にきらきら輝いてる」
窓の外をみつめながら、そう思った。

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旅に向かう列車は、埼玉県を走っている。10月中旬のこの日、稲が収穫の時期を迎えていた。

黄金色のまばゆい光を放つその光景にあっという間に心を奪われた。

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 ふと思い出したのが、ジョセフィーヌだった。ナポレオンの妻、そして皇后となった女性だ。フランスのジュエリーメゾンChaumet(ショーメ)の初代ミューズでもある彼女が、「麦」を宝石のモチーフにしたという話が今ようやく腑に落ちた。華やかな薔薇や色彩豊かな蝶や鳥でなく、どうして麦なのだろうと当時わからなかった答えが、目の前には広がっていた。

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 稲や麦は人々の命を育み、富を生む。社会の豊さがここから萌芽することを彼女はよく知っていて、尊び敬う気持ちから初の公式の場で身につけるティアラに「風にそよぐ麦」のものを選んだのかもしれないと思いを馳せながら、秋の豊さを味わうわたしの旅は始まった。

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