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《四月、若葉.》

 若葉の黄緑がまぶしい季節。街中すべての木々が新鮮な空気を纏っているように感じられるほどだ。

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 新入社員、新人さん。四月は新しい人材が活躍しだす季節でもある。スーパーのレジに立つ「研修中」の札を胸元につける彼ら、彼女たち。初めから手際がいい方から、こちらのほうがお店の「先輩」だからじっくり見守ろうと思う方まで人それぞれに個性はある。

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 祖母の介護を自宅でしているわたしたち家族は、週に一度、訪問入浴をお願いしている。専門の会社から三人のチームでいらして彼女をお風呂に入れてくださるのだ。そのうち一人は看護師さんだから、余計に安心して祖母の身をあずけられる。

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 狭いリビングにぴったり収まる組み立て式のバスタブ。その中で祖母の頭から足先までが手際よく綺麗に洗われていく。仕上げにはボディークリームも塗ってもらえるから、お風呂上がりの彼女の体はぴかぴかと輝いている。いい香りもする。

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 そんな四月のある日。その浴槽からお湯がこぼれてしまった。少しばかり濡れる絨毯。この日来ていた三人の方はいずれも新人さんのようで、いらした時から何やらバタバタとしていたのだ。

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 母とわたしのそわそわとする気持ちをよそに、元気に「大丈夫!お風呂気持ちいいよ。」と言う祖母。こういうところが昔から好きなのだよなと思う。スタッフの方々もその言葉にほっとしている様子だった。

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 漂うちょっぴり不穏な空気を察して、気を利かせてそのセリフを口にできる祖母。「乾くから大丈夫よ。」とつけ足す彼女をみていると、認知症であることを忘れてしまうほどだ。悪気のないあやまちは責める必要もなくて、それを明るく包み込めることこそ尊いと、祖母に教えられる。

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 先週のことがあったからか、今日の入浴はいつにもまして丁寧だった。「いい湯だな〜」と歌う祖母に、今度はスタッフの皆さんとわたしたち家族の笑い声がこぼれる。

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