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【日記】ホームシック

そこはかとなく、家に帰りたくなる時がある。

一人暮らしをして、1.75年位になる。一人暮らしをするということは、1週間同じおかずを食べ続けることだ。冷蔵庫の中身を自分で補充することだ。フローリングに落ちた髪の毛を拾うことだ。結露を拭くことだ。自分の生活を、自分で紡ごうとすることだ。

初めてそこそこ長く親元を離れたのは、中学3年生の時に、2週間オーストラリアに行った時だった。1週間目で無性に家に帰りたくなって、これがホームシックだな、と思った。一人暮らしを始めてからは、不思議とそんなことはなかった。寮にいて騒がしかったからかもしれない。勉強することに必死で、他のことを考える暇があまりなかったからかもしれないし、別の問題を抱えていたこともあった。

渡英して半年でワンルームの部屋を借りて、完全に一人暮らしになった。もう少しで一年になる。課題が煮詰まったり、嫌なことがあったりすると、東京に帰りたくなることが多かった。東京でしたいことと、食べたいものと、会いたい人を順繰りに思い浮かべる。趣味で作っているアルバムを眺める。これは、ホームシックというよりは現実逃避だ。未だに、大きな駅に行って、さまざまな場所への発着便を告げるアナウンスを聞くと、東京の家に帰りたくなる。絶対に電車で帰ることはできないのに、このまま電車に乗れば帰れるような気持ちがする。旅行に行って、1人でホテルの部屋にいると、東京の家に帰りたくなる。ロンドンの自分の部屋よりも、もっともっと遠くの東京まで帰ってしまおうか、と思う。

そのような点において、遠くへの旅行はあまり得策ではない。うまくバランスを取らないと、東京に帰りたくなってしまう。アルバイトで接客をしていて、お客さん同士が日本語で話しているのを聞くと、たまに東京に帰りたくなる。もう慣れてきた。突然周りが日本にぐいと戻されたような気がして、バイト先を出たらそこは日本で、歩いて家に帰れそうな気がする。そんなことはなくて、お腹がすいたなあ、と思いながら、大英博物館の前を通って、アパートの部屋に帰る。

私が現在住んでいるマンションは、とても良いマンションだ。下手くそな和訳みたいになってしまった。朝7時くらいに廊下に出ると、卵とベーコンを焼くいい匂いがする。ああ、美味しい朝ごはんの匂いだ!と思う。大学から17時くらいに帰ってくると、美味しい匂いがする。ミートボールを何かしている匂いだったり、ガーリックを炒めている香りだったり、チーズの匂いだったり。廊下を歩いているうちにお腹がぐうとなって、自分の部屋に飛び込んで、豆腐を食べる(豆腐を白米の代わりに食べているから。どちらも白くておかずのお供にちょうどいいから、あまり変わらない)。ジャンキーなマックやKFCでも、大学寮の不健康な匂いでもなくて、おうちの晩ごはんの匂い、と言う感じがする。そういう、「おうちに帰ってきた時のご飯の匂い」は、一人暮らしをして失ったものだ。廊下でいい匂いがしていても、私は食べることはないし、部屋に入って仕舞えば美味しい匂いはしない。

いつになったらホームシックを感じなくなるのだろうか。東京の実家はいつまでもあるわけではない。私はいつか「完全に一人暮らし」をすることになるし、その背後からは、いつか奨学金も、大学も、親もいなくなってしまう。友達がいようが恋人がなんだろうが、家は自分のものだ。自分のものにしなくてはならない。
一人暮らしをすることとは。

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