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【大学の話】 Concept of Security:完結編

●始めに

私が今年一番苦しんでいるモジュール(今となっては試験を終わらせたので「苦しんだ」になったのだが)、「Concepts of Security (安全保障の概念)」の復習セッションで先生が言った。

「このモジュールの、オーバーオールのメッセージを考えろ」

試験問題に対して回答を作りながら、オーバーオールのメッセージを考えるのに48時間で750字× 2は短いんじゃないですか、と思った。

難しい科目には、それだけ理解のための労力と時間をかける。Concepts of Security も同様で、毎週うめき苦しみながら哲学的な文書を読みまくったので、以下に思ったことや学んだことをまとめておきたいと思う。ほら、振り返りの時間を作るって大事だからさ。

●モジュールの意義

国際関係論のモジュールだ。1年の時に国際関係論導入①/②を受講して、リアリズム・リベラリズムなど主要な理論をさらった話はどこかに書いたと思う。

これだわ。

その後、それに積み重ねる形で安全保障の概念を学ぶ。国際関係論導入においては視点別に区切っていたものを、今度は概念別に区切ったと言い替えるとわかりやすいかもしれない。実際、同じテーマでも(たとえば人間の安全保障とか)、リアリズム的な視点とか、リベラリズム的な視点とか、異なる視点から語ることができる。

●学んだこと(コースの概要)

安全保障の概念は、こんな感じで発展してきた。ただし、それぞれの区分の中で着眼点が違ったり、フィーチャーする内容が違ったりするのでホモジェナスではないことに留意されたい。

①Traditional

世界大戦を経た、国家を安全保障の中心主体とし、戦争を安全保障の手段としてみなす視点。国家領土の保全と主権の尊重に対する危機を脅威(Threat)とみなす。

この国家中心的な安全保障の概念から、水平的(国家以外のアクター・戦争以外の手段)に視野を広げていくか、垂直的(国家ー社会ー個人)に視野を広げていくか、もしくはその前提自体を疑うかと言った形で膨らんでいく。

②Neo-Traditional

Traditionalから離れて、国家を安全保障の中心主体としながらも、安全保障の手段は戦争以外のものになりうる。国家領土の保全及びその他の既存価値に対する危機を脅威(Threat)とみなす。この分野には、いくつか重要な概念があって、

a. Securitisation (安全保障化):安全保障のプロレスの中にSecutiriser(特定の問題を脅威として定義する主体)、Referent Object(脅威の対象となっている主体)、Audience(問題を脅威であると認める[approve]主体)を認めることで、特定問題を脅威としてみなすまでのプロセスを理解しようとすること

Waever

b. Sectoral Appraoch (セクター手法):安全保障のReferent Object(脅威の対象となっている主体)を、経済的・社会的・文化的・政治的・環境的に分類することで、より幅広い問題を捉えようとする手法

Buzan

などを通して、Traditionalを超えた理解を進めようとする。アベリストウィス学派から始まり、コペンハーゲン学派、及びそれを社会学的に発展させたパリ学派などが代表的。アベリストウィスは国際関係論が初めて大学で教えられた土地としても有名だ。

ほんでここから下は区分が漠然としているのだけれど、まあ行ける範囲で書き連ねていこう。

③Critical

上記①②とは違って、「こういうものを見るべき」ということを訴える視点。国家を超えて、社会・個人に広げる垂直的な拡大を目指している視点ということもできる。

a. Human Security (人間の安全保障):‘human security means freedom from pervasive threats to people’s rights, their safety or even their lives.
いわゆるNegativeな自由の概念。

b. Emancipation (解放):‘freeing of people (as individuals and groups’ from those physical and human constraints which stop them carrying out what they would freely choose to do.’ 
いわゆるPositiveな自由の概念の追求。

Booth

④Risk Society Paradigm

③においては、脅威(Threat)を前提としていたのだけれど、この辺から実は'Threat'の前提自体が間違っているのでは?という疑問に移り変わっていく。「そこに脅威があるから対応する」のではなくて、「そこに何かあるかもしれないから何かする」という漠然としたものに対応しているのではないか?と考えるようになる。その中でも、いくつかの分類があるのだけれど、ここでは2つ。

a. Global Risk Management: Risk/resilience
「危機」になりうるものに対して、それを分散することで対処しようとする。たとえば環境問題とか、テロの危機とかは、「その原因を完全に廃絶する」ことはできなくて、その影響を様々なアクターの間でいかに分散するかを考える。それをさらに深めていくとResilienceという概念に繋がって「何があるかわからないが何か起こった時に対応できる柔軟性もしくは分離性を維持する」方法での対応になっていく。Known unknown(何かあることはわかっているがよくはわからない)から、unknown unknown(あるのかすらわからない)への展開だ。

b. Critical Risk Study: Biopolitics, governmentality
もう一つは、生政治の概念だ。制度を被統治主体の外側においていた時代から、被統治主体を取り込んだ統治へ。ただしこちらではResilienceとは異なって、Riskを計算することができるという点において、もうちょっとはっきりとした何かに対応している。

⑤その他、位置付けづらい視点

で最後に、Everyday securityという視点と、Ontological security(存在論的安全保障)というより広範囲にわたる視点がある。

●個人的に面白いなと思ったこと

フーコー

安全保障の概念をやって一つ良かったのは、フーコーの生政治・統治性の概念について(ある程度強制的に)読むことになったことだ。ベンサムのパノプティコンを発展させた形として触れることは多くあるが、ちゃんとやったのははじめてだったからだ。完全に理解したとは言えないものの、「統治を内面化する」及び「統治の対象を作り出すことで統治する」ということがどういうことなのか、ちょっと覗き見できたような気がする。

アイデンティティ関係

アイデンティティが侵されると感じた時、国家は(もしくはその他のアクターは)安全保障のための手段を取ることがある。それの究極例が文化・民族に起因する紛争だ。安全保障のジレンマという、こちらの軍備を増やすと必然的に相手の軍備を増やすことにつながってしまうという理論があるが、アイデンティティについてもこのジレンマが起こる可能性があるというそれは、たとえば歴史問題の対応とかにおいても、一つの「安全保障」の形として分析することができるのではないだろうか?と思った。

現在、未来、将来の関係

これが一番大きい。Riskの概念において、Modernityと将来の予見性、及び将来を必然的に支配する(colonise)ことについては述べた。同時に、過去に起こった事象は必ず今日を支配し、今日は必ず将来を支配し、不確実性を累積していく。
同時に、地理学の知識を流用して、過去のトラウマ的記憶やいわゆるCollective memoryというものが脅威・危機の認識に影響しうるという内容は、集団記憶・社会記憶(過去)を今日に繋ぐという点でも興味深いと思った。

●おわりに

このコースは、来年の「ヨーロッパの安全保障」という通年の重い授業に続いていくのだが、これは取るか悩んでいる。というのは、「個人的に面白いなと思ったこと」セクションでも触れたけれど、私の興味は「アイデンティティ(個人レベル)」が「政治(国レベル)」にどう表出し、「外国関係(国際関係レベル)」にどう現れてくるかという、個人レベルを中心としたところにあり(個人→国際)、逆方向ではない(国際→個人)ではないということだ。一方できちんとこれを理解することができたのは、国際関係論、特に地理学の知識を適応する中で、Individual-state-internationalもしくはideology—society-stateの関係性を表現しようとする取り組みが見られたためであり、その認知をすることができたことは大きかったと思う。また、個人→国際の関係を表現するにおいて、国際関係論側からの視点を持っておくことは有益になると考える。

さっき試験が終わったところなので、成績が終わっていたら嫌だなと思う。年30単位までは捨てることができるので、最悪捨てるけど、まあ頑張って勉強したのでいい点数が出て欲しいな…ナマステ…

●Reference

直接に本文内でレファレンスしたものではないが、難解なリーデイングを理解するために参照していた教科書。印象としてはWilliams and MacDonald (2018)を前提の知識としているものの、先生のメッセージとしてはPeoples & Vaughan-Williams (2021) の方で語られるクリティカルな視点を伝えたいんだろうなと思った。実際コースの編成は後者の方に依存している上で先生の工夫が入っていることが多いなと思った。

Peoples, C. & Vaughan-Williams, N. (2021) Critical security studies : an introduction / Columba Peoples and Nick Vaughan-Williams. 3rd edition. Abingdon, Oxon: Routledge.

Williams, P. and MacDonald, M. (eds.) (2018) Security Studies: An Introduction, 3rd edition (Routledge)

先生も超人じゃないから、わからないときは先生が参考にしているっぽい教科書を探そう!メタ認知最高!


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