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少し昔の話をしよう episode 1

さて、少し昔の話をしようか。三十年くらい前、僕がまだ子供だったころの話。いや、「僕」よりも「僕たち」と言ったほうが適切かもしれないな。そのころ僕の周りには、今と違って何人かの仲間がいたのだから。幸せではなかったけど、少なくともあの頃、僕は孤独じゃなかった。
 すべてのはじまりは、そう、ある夏の日のことだった。うだるような暑さのなかで、僕は、友達の祐樹、蓮、千花と一緒に、森の中で遊んでいた。その森というのが、田舎によくある「いわくつきの森」というやつで、小さなころから町の大人たちから、「あそこには絶対に入っちゃいかん」なんて言われていたんだ。よくある話だけど、「入っちゃいけない」て言われると、子供っていうのは無性にそこに入ってみたくなるもので、その時の僕たちもそうだった。みんなでその「呪いの森」に入って何かしるしをつけてきて、学校のみんなに自慢してやろうっていう、実に子供らしい思考回路で、僕たちはそこに足を踏み入れてしまったのだ。
 最初はよかったんだ。最初のうちはまだ外からの光が入ってきたおかげで森は明るかったし、呪いの森に入ったという背徳感でみんな気分が高揚していたから。
 「なんだよ、全然ヨユーじゃん。何かオバケでも出てくるのかと思ったのにさー」
 そんなことを言っていたのは祐樹だったろうか。確か、近くにあった木を蹴飛ばしながらそんなことを大声で叫んでいたような気がする。
 少しして、何か祠のようなものが道の先に見えた。
僕は、「ああ、これでゴールなんだな」と思い、内心ほっとしていた。正直に言うと、僕はその森に入るのが怖かったのだ。両親や祖父母から、何度も言い聞かせられてきたから。仲良し四人組だった祐樹、蓮、千花につれられて森の中に入ってしまったが、僕はずーっと怖くて帰りたいと思っていた。
 近くで見るとその祠には何枚もお札が張られていて、いかにも「呪いの森」という感じで僕たちの子供心をかきたてた。その時かきたてられたのが恐怖心だけならよかったのだが、それは僕たちの好奇心までもを引き付けた。
 「なあ、このお札はがして持って帰ろうぜ。これ見せたらみんな俺らのこと信じるだろ」
かなり興奮した様子で祐樹が言った。
 「ああ、そうだな。一人一枚はがして持って帰ろうぜ」
すぐに連も同調した。四人の中で唯一の女子だった千花だけは反対していたが、僕もお札を持ち帰ることに賛成したのをみて、しぶしぶといった様子で諦めていた。あの時首を縦に振らずに千花と二人で帰っていれば、少しはマシな結末になっていたかもしれないのに…。祐樹や蓮に負けたくないという思いや、わざとらしく張ってあるお札をはがしてやりたいという、やっかみにも似た好奇心が、僕の頭を縦に動かしたのだ。

 それがいけなかったんだ。

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