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舞台「ねじまき鳥クロニクル」見た(ネタバレあり)

先輩に誘ってもらって舞台「ねじまき鳥クロニクル」を見に行った。舞台を見るのは初めて。場所は東京芸術劇場。


たてものすごい

ねじまき鳥クロニクルは3年前に1度読んだことがある。浪人生の頃の私は電車の中で村上春樹をハードカバーで読むのがかっけえと思っていた。家から予備校まで2駅なのに。歩け。

内容は程よく忘れた状態で観劇した。公演時間は3時間で、原作は分厚いハードカバーで3冊分のシリーズなのでどうまとめるんだろう…と思っていたが、すごく面白かった。あの、しっかり本を読んでも全容を把握できかねる話を1本の劇にする技術がすごい。
役者さんの演技が素晴らしかった。岡田トオルが喋った瞬間に、村上春樹作品の主人公の喋り方だ、と納得できた。笠原メイも笠原メイすぎて、笠原メイだ〜〜!って思った。馬鹿の感想。笠原メイのね、喋ってる内容が好きなんですよ。死の塊の話も好きだし、涙の影の話も好きなんです。あひるの人たちってなに。かわいい。私が真似して「あひるの人たち」って言っても馬鹿女になるだけだが笠原メイなのでかわいい。メイが切手の柄になってる演出がすごく好きです。

登場人物たちが会話している時に急に出てくるダンサーさんによる演技が素晴らしかった。私は村上春樹の文体が好きなんですが、舞台には語り手がいない分、地の文がもつ不思議な雰囲気をダンサーによる演出が担っていたような気がする。特に間宮さんが喋っている時の明かりの演出がとても好きでした。あと加納クレタが喋ってる時にソファから人がたくさん出てくるシーンも好きだった。

やっぱり改めて物語を追ってもわけがわからないところはたくさんあるが、今本を読んだら、浪人生の頃よりたくさんのものを受け取れるんじゃないかと思った。

舞台一部最後の笠原メイが岡田トオルに怒るシーン、本で最初に読んだ時は何に怒っているのかさっぱりわからなかったけれど、今は当時よりはわかるような気がする。舞台を見て、「世界は空虚で、自分の中にあるぐちゃぐちゃしたものしか本当じゃない」というセリフに共感して少し泣いてしまった。完全にそのセリフの意味を理解できてるわけじゃない。でも、理解できなくても、そのセリフに共感することはできる。なにか自分の中にある言葉にできないようなものを乱暴に掴まれたような気持ちになった。なんで村上春樹は、意味わかんないけど共感できる言葉を使えるんだろう。1番強い。まっすぐで明快な言葉では、まっすぐで明快なことがらしか表せない。だから意味わかんないことは意味わかんない言葉でしか表せないんだ。村上春樹の本を読んでいても、ずっと意味のわからないことが起きていて、なんだかふわふわと淡々と話が進んでいくなと思うけれど、意外と全部彼の強烈な実感を伴って描かれているのかもしれない。

3年前には「岡田トオルがいる世界」と「綿谷ノボルがいて、久美子が連れていかれた世界」の比喩もよくわからなかったけれど、今は何となくわかる気がする。
この話には生理とか妊娠とか女性にまつわる痛みや苦しみに関する話がたくさん出てくる。そういう苦痛は、綿谷ノボルの世界に属するものなのだろう。だからそちら側の世界では、沢山の女性が苦しんでいる。
村上春樹作品はフェミニズムの観点から批判的に語られることも少なくない。彼の作品に登場するヒロインは、主人公とセックスをするための役回りとして描かれることが多い(私はその事実に不快感は覚えないが、まあ批判されるのもわかる)。しかし、ねじまき鳥クロニクルに登場する女性たちは、他の作品に出てくる女性たちよりも人間くさい。その人間くささの部分を、「綿谷ノボルの世界」に託して描いたのではないだろうか。
ろくに読み返さずに村上春樹作品の考察すんの、まじ危険だな。ファン層的に。許してくださいね。
あのなんか、全然関係ないんですけど、一部の声の大きい馬鹿のせいでフェミニズム自体が過激な思想みたいな扱いされてるの、まじカスじゃないですか?上の文章を書きながら「こういうことを書くとフェミニストと思われて敬遠されるかしら…」みたいなことを思ったのだが、別に私は女なんだから女の観点からものを語るのはごく自然なことであって、それを「フェミニスト笑」みたいなくくり方をする人の方がお馬鹿なのだから、別に書きたいことは書きたいように書こうと思いました。

全然関係ない批判で終わるのよくないな。総括します。
今日舞台を見て、前に本を読んだ時よりも感じ取るものは多くあったので、また是非本を読み返したいなと思いました。綿谷ノボルは何なのかとか、舞台では簡潔に描かれていたシナモンとナツメグの話とか、ちゃんと読んでまた感想を書きたいなって思います。あとは、舞台って生であるとか、1つのステージで全部を演じるとか、映像作品よりも制約が多いがゆえに生まれる面白い演出があるのだなと思いました。機会があれば他の舞台も見てみたいな。

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