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「街角のメルヘン」、この最高のアニメでありMVの素晴らしさを、ぜひ皆さんにお伝えしたい!(オススメMV #127)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の127回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は新春特別番外編として、全編MVのようなアニメを紹介します。
それは、「街角のメルヘン」というアニメです。

以前の回で「ダーティペアとコブラのオープニングアニメは、MVと言わずしてなんと言う!」として、アニメのオープニングを紹介しました。
実はその際に「本当は、このアニメを紹介したんだけどな...」と思っていたのが、今回紹介する「街角のメルヘン」となります。
といっても、オープニングやエンディングがMVっぽいというのではなく、全編がほぼMVのようなアニメです。

本題に入る前に、1つ注意点というか前提をお伝えします。
今回はメインとなる「街角のメルヘン」のYouTubeへのリンクもなく、画像の貼り付けもないという、ほぼテキストのみの殺風景な内容となります。
オフィシャルではない動画がYouTubeにアップされていますが著作権的にリンクを貼れず、かといって私の持っているテレビ放映の録画や特集雑誌の画像を貼るのも同様に著作権的にNGなので、これまで紹介するのを控えてきたという経緯があります。

しかし!
このアニメを皆さんに紹介すべきだ!というある種の使命感が芽生え、今回無理やりに「新春特別番外編」としてお届けすることにした次第です。

では、本題に参りましょう。
そのアニメの正式なタイトルは「Radio City Fantasy 街角のメルヘン」といい、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)の走りともなった作品です。
通常のアニメはテレビ放映のために作られることが多く、映画用に製作されるアニメもあり、DVDなどの物理媒体を介した有料コンテンツはそのあとに提供されることがほとんどです。
しかし、OVAはテレビや映画で使ったアニメの再利用ではなく、最初からDVD等の有料コンテンツとして制作され販売されるアニメとなります。
日本で最初のOVAは「ダロス」というSFアニメが第1作目と第2作目で、「街角のメルヘン」はそれに続く日本で3番目のOVAと言われています。

発売は1984年7月21日と今からなんと40年も昔となりますが、私が「街角のメルヘン」に出会ったのは、発売から2年8か月後の1987年3月の特番アニメ枠でのテレビ放送を視聴したことが出会いです。
どんな経緯で視聴したのかは全く記憶にないのですが、手元に最初から最後までを録画したVHSビデオテープがあることから、予約録画なのかリアルタイムで見ながら録画したのか、いずれにせよ事前に放映されることを認識したうえで録画(&視聴)したと思われます。
今回調べたところ、「アニメだいすき!」という読売テレビが関西ローカルで春休みや夏休みなどにOVAを中心に編成し放送していた特番があり、その初期の放送のようです。
つまり、関西人しか視聴できず、かつ1回のみの貴重な放送によりこの「街角のメルヘン」に出会うことができたという奇跡のような話です。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
この「街角のメルヘン」は、そのタイトルから分かるように派手な戦闘シーンやショッキングは映像は全く出てきません。
至って地味な作品なのですが、クオリティがメチャクチャ高いんです。
全てを語らない脚本もいいですし、キャラクターも抜群、背景も素晴らしく、そしてなにより音楽がイイ!
楽曲にあわせて映像を作ったのではないかと思えるほどマッチングがいいのですが、映像そのものも単体の作品としてすばらしく、二兎を追う者は一兎をも得ずといいますが、二兎を得てしまっているとも思えるほどです。
順番に説明していきましょう。

骨子となるストーリーは、絵本の出版のためにバイトを掛け持ちする青年「浩(ひろし)」と、浩と道でぶつかったことをきっかけにして知り合った「裕子(ゆうこ)」という女性のラブストーリーです。
私は小説でも映画でもラブロマンス系は苦手でほとんど観ないのですが、その中でも数少ないお気に入りが、この「街角のメルヘン」となります。
ラブロマンスと言ってもベタベタではなく、サラッとしているというか淡い感じなのですが、かといって二人の関係が希薄かというと全くそうではなく、強くひかれあっているのが物語の端々で見て取れます。
この「すべてを描き切らない」というスタンスは作品全般で見て取れ、例えば裕子がポスターを持っていることからデザイナー志望のようですが、そのあたりの詳細は描かれていません。
また、ストーリーで重要となる裕子が所属しているであろうヤバそうな団体についても同様ですが、よくよく考えてみるとどんな団体なのかはこの作品では重要ではないため、不要な情報は徹底的にそぎ落としていることが作品の高いクオリティーにつながっていることは明白です。

この素晴らしい脚本を書いたのが、「街角のメルヘン」の生みの親とも言えるこのお方、首藤剛志さんとなります。
ここで首藤剛志さんについて簡単に紹介しましょう。
首藤剛志さんは「魔法のプリンセス ミンキーモモ」や初期の「ポケットモンスター」の脚本を担当されていたことが有名で、私の大好きな「さすがの猿飛」や「ストップ!ひばりくん」の制作にも携わってられた、日本アニメの拡大期を支えてこられた方のおひとりです。
そして、この「街角のメルヘン」は、原案と脚本が首藤さんとなっていますが、元々は首藤さんがまだ無名な18歳の頃に書かれた脚本がベースになっており、それを17年越しに作品として世に出されたわけです。
そこには、執念というか凄まじい思い入れを感じざるを得ず、この「街角のメルヘン」は、まごうことなき首藤さんの作品と言えます。
その想いを持った首藤さんが、アニメ業界で培った人脈を駆使し、最高の人材を集めて制作されたのが、この「街角のメルヘン」なのです。

例えば、キャラクターデザインについて見てみましょう。
「インパクトはないものの印象に残るデザイン」という相反する要素を両立させることで、普通の青年である浩が主役として存在でき、かつ裕子についても強い印象を与えるもののインパクトと呼べるような尖ったイメージはなく、この塩梅(あんばい)が絶妙です。
キャラクターデザインにはメインで天野嘉孝さんが携わっておられるのですが、天野嘉孝さんはのちに大家(たいか)とも言えるべき存在になられているものの、まだこのころはタツノコプロから独立されて間もない頃であり、天野嘉孝さんの起用というのも大英断と言えるでしょう。
ちなみに、私の中での天野嘉孝さんは、「吸血鬼ハンター"D"」から始まり「餓狼伝」に至るまでの小説のイラストの大ファンで、イラストが小説のイメージに与える影響の大きさを知らしめてくれた方でもあります。(ちなみに、餓狼伝はまだ続いているのですが、途中で読まなくなってしまいました...)

また、背景の素晴らしさも「街角のメルヘン」の特徴です。
アニメの背景と言っても私自身あまり気にして観ることが無いのですが、この「街角のメルヘン」だけは別格です。
都会の四季を背景の中で表現されており、それがキャラクターとうまく組み合わされ、されにはストーリーとも連動しているように思えます。
本当に皆さんにも観ていただきたいところですが、残念です...
この背景は、小林七郎さんという方が手掛けておられるのですが、このお方もただモノじゃなく、日本のアニメ界の背景を引っ張ってこられた方で、手書きの背景にこだわって制作され続けたのですが、既に10年以上前に経営されていた会社は解散し、一昨年に鬼籍に入られています。

そして、その素晴らしい脚本と映像に組み合わされる音楽こそ、今回の主役とも言える「ヴァージンVS」(ヴァージン・ヴイズ)となります。
「ヴァージンVS」と言ってもご存じの方は少ないかもしれません。
1981年から3年間だけ活動していたバンドで、当時はテクノポップブームの真っただ中だったのですが、一見テクノポップブームの乗って結成されたようにもみえるものの全く異質な存在で、独自の世界観を持ったバンドとして異彩を放っていたようです。
コーラスを含めて7名前後で構成されるバンドですが、「A児」と名乗る男性がボーカルで、ほとんどの楽曲の詩と曲を書いていたこともあり実質リーダーと思われます。
その「A児」の正体は「あがた森魚」という方で、元々フォークシンガーとして活動されており、1972年には「赤色エレジー」という楽曲で50万枚という大ヒットを飛ばしました。
この50万枚というのは当時ではスゴイ数字で、同年にヒットした山本リンダさんの有名な楽曲「どうにもとまらない」が30万枚ですので、どれだけのヒットかが分かります。
と知ったように書いていますが、その頃のあがた森魚さんはおろか、活動中のヴァージンVSとの接点も全くなく、「街角のメルヘン」の視聴がヴァージンVSとの出会いとなります。

「街角のメルヘン」を初めて視聴し(上に書いたテレビ番組での視聴)、脚本や映像に加えて使用されている楽曲に心を打たれ、ヴァージンVSやあがた森魚さんの他の楽曲を遡って聴いていくことになります。
そこで、あがた森魚さんが大ヒットを飛ばしたことのあるフォークシンガーでありTVドラマにも出演された役者であることを知ったのですが、「赤色エレジー」を含めソロシンガーとしてのあがた森魚さんの楽曲は私との親和性が良くないようで、ほとんどリピートすることなく現在に至っています。
しかし、ヴァージンVSの楽曲にはドはまりしましたが、そのほとんどは「街角のメルヘン」で使われた楽曲ばかりだったというのも、また事実です。

「街角のメルヘン」で使われている12曲は、同年1984年にサントラとしてリリースされた「Radio City Fantasy」に収録されているのですが、ヴァージンVSのベスト盤とでも言えるべき完成度で、サントラだけで聴いても全く感動は衰えることなく、今でもたまにリピートして聞いています。
Spotifyでも配信されているので、ぜひ皆さんに聴いてみていただければと思います。

私が一番好きなシーンは(内容をご覧いただけない中で恐縮ですが)、「百合コレクション」という楽曲が使われているシーンです。
浩と裕子が夜の公園で空想の世界で語り合っている時のこと、暴漢(あるいは悪い仲間)に襲われそうになった裕子を浩が体当たりで助け、二人は暴漢から走って逃げます。
逃げ切った二人が立ち止まり、切れた息を落ち着かしているところで時間は12時になったのですが、片方のパンプスをなくした裕子に対して浩が「まるでシンデレラだね」と声をかけると、うつむいた裕子が「12時のシンデレラ。みじめ...」とつぶやくのです。
と、ここで映像のバックに「百合コレクション」が小さなボリュームで流れ始め、少し間があったあと浩が「シンデレラはいつだってシンデレラさ!」と小さな声で叫びます。
それを聞いた裕子の顔がパッと明るくなり、もう片方のパンプスのひもを指にかけて回しながら歩き始め、そのあとを浩が追いかけるのですが、映像がストップしたと思ったら、アニメから手書きの「浩、裕子、浩と裕子」の3カットの手書きの絵に切り替わるという驚愕のテクニックとなります。
そして、その映像のバックには「百合コレクション」が流れており、もう最高です!
そして、ここでも脚本の腕が冴えています。
暴漢と裕子の関係と裕子の「みじめ」というつぶやきには何か関連があるのではないかという推測や、最後に歩き出した裕子がパンプスを回す様子が裕子のうれしい心情を表しているのではないかという推測など、無駄をそぎ落とし多くを語らない首藤さんの素晴らしい脚本が生きてきています。
また、「百合コレクション」の楽曲もそれ単体でも素晴らしく、曲もいいのですが、幻想的な詩があがた森魚さんの才能を如実に語っているとも思われるほど感動を与えてくれます。
ご興味のある方は、楽曲を聴くだけでなく、ぜひ歌詞も見ていただければと思います。

この日本アニメの至宝とも言える「街角のメルヘン」ですが、OVAリリース時には商業的に成功せず、多くの方の目に留まることもないまま現在に至っているのです。
これは、視聴する方法がないことが原因の一つと思われます。
1984年のOVAとしてビデオテープやレーザーディスク(懐かしい!)での発売後、DVDとしての販売やネット配信などもなく、現在視聴するには中古のメディアを購入するしかないのです...

ちょっとしんみりした話になったので、おまけの話を1つ。
この「作品の中身はほとんどMV」というパターンでは他にもおすすめの作品が2つあるので、最後に紹介しましょう。
1つはアニメ作品で、ダフト・パンクと故松本零士さんによる「インターステラ5555」という2003年に上映されたアニメ映画となります。
正式タイトルは「インターステラ5555:THE 5TORY OF THE 5ECRET 5TAR 5YSTEM」とメチャクチャ長いのですが、全編ダフト・パンクの楽曲のMVで構成されているアニメという変わった作品です。
「インターステラ5555」については、以前の連載で紹介しているので、ご興味ある方はぜひご覧ください。(以前の連載はコチラ⇒「家宝にすべきレッドスパイダーのタイムボカンに、松本零士のダフトパンクの2本立て」

もう1つは、ほぼ全編MVのような実写映画で、2018年にリリースされた「Climax」(邦題:CLIMAX クライマックス)という映画です。
ギャスパー・ノエという鬼才と呼ばれる監督の制作ですが、上で紹介した「インターステラ5555」ほど完全ではないものの、MVとして十分視聴できるほどの楽曲を活かした映像になっており、この映画が好きすぎて4K ULTRA HDのブルーレイソフトまで買ってしまいました。(私が映画のソフトを購入することは稀なことで、それだけこの作品に対する思い入れが分かります)
EDM系の楽曲が14曲も使用されており、その中でも特にお気に入りはセローンの「Supernatrure」のシーンです。
「Climax」の番組宣伝用のダンスシーンの映像がYouTubeで公開されており、ついでと言っては何ですが紹介しましょう。
(メインである「街角のメルヘン」の動画や映像などは何も紹介せず、おまけの「「Climax」のトレーラー動画を紹介するというのはチョット心苦しいですが...)

この「Climax」についても、以前の連載の追記でチラッと紹介していますので、ご興味ある方はご覧ください。(以前の連載はコチラ⇒「超お気に入りの三連発!マーズにキンブラにセローンだーっ」

そして、「街角のメルヘン」は、この2つの作品と比べても勝るとも劣らない完成度なのですが、上に書いた通り今見ることはできません。
ぜひDVDかブルーレイで、できればHDや4Kにリマスタリングして再発売していただきたいと切に願っています。

「街角のメルヘン」は残念ながら観ていただくことはできませんが、ヴァージンVSの「Radio City Fantasy」はSpotifyで聴くことができるので、ぜひ皆さん聴いてみてください。

ではまた次回に。

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