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今、平沢進のMVを気に入っている事実に、何故か納得している自分がいる(オススメMV #150)

こんにちは、吉田です。
オススメMV(MusicVideo)を紹介する連載の150回目です。(連載のマガジンはこちら)

皆さん、「平沢進」という方をご存じでしょうか?
大昔、テクノポップという音楽ジャンルが一世を風靡した時代に「テクノ御三家」といわれたバンドがあり、そうちの1つが「P-MODEL」なのですが、そのバンドの中心メンバーが今回の主役となる平沢進さんとなります。

「テクノ御三家」とは、その「P-MODEL」に「ヒカシュー」と「プラスチックス」を加えた3グループなのですが、私はヒカシューには若干ハマったものの、P-MODELとプラスチックスにはほとんどハマることなく、平沢進さんについても名前を知っているぐらいの状態でした。
しかし、数ヶ月前にYouTubeでレコメンドされて観たMVがきっかけで平沢進さんのMVを観るようになり、続いて楽曲も聴くようになった頃にはなぜか分からないまま平沢進さんにハマって楽曲を聴く日々が続いていました。
そして最近、ようやくその「なぜハマっているのか?」の理由がある程度整理できたので、本連載で取り上げることにした次第です。

まずは、その平沢進さんと出会った記念すべきMVを紹介します。
平沢進の「BEACON」です。どうぞ!

白髪というかシルバーヘアーで黒のロングコートをまとった初老の男性の存在感が際立つMVですが、この男性こそ平沢進その人となります。
冒頭の細かいカット割りと激しい動きからワンカット映像とつながる「動」と「静」をうまく使い分けた技ありMVでもあります。

平沢進さんは、上にも書きましたが「P-MODEL」というバンドの中心人物なのですが、「P-MODEL」は1979年に結成され2000年より無期限活動停止中となっており、その後「核P=MODEL」として再開はしているものの、実際は平沢進さんのソロ活動がほとんどのようです。
今回、あらためて平沢進さんのことについて調べたのですが、思った以上にディープな方で、全く消化しきれていないまま今に至っています。
信者的なファンが多く、その方々から「師匠」と呼ばれているようです。
SNSの「X」(旧Twitter)で情報発信されることが多いようですが、ネット=インターネットとなる以前、パソコン通信(いわゆる「パソ通」ですね。懐かしい!)の掲示板でファンに情報発信されていたりと、これだけでもタダモノじゃない感が満載です。
また、ライブには定評があり、過去のライブ映像をYouTube等で拝見しましたが、確かに1度は観てみたいと思わせる独特の世界観のライブで、平沢進さん自身が結構なご年齢であることから、早めのライブ参加が必須だなと思っているところです。(ご興味ある方は、YouTubeにも多数のライブ動画がアップされていますので観てみてください)

この「BEACON」ですが、2021年リリースの14thアルバム「BEACON」のタイトルチューンで、MVはYouTubeで翌2022年に公開されています。
このMVをYouTubeでレコメンドされて視聴したことが平沢進さんとの出会いなのですが、洗練された楽曲とMVの虜(とりこ)になり、いつものように遡って平沢進さんの作品を視聴していくことになります。
そして、その中で衝撃の作品と遭遇することになるのですが、その話はあとに回し、まずはMVの解説に参りましょう。

この「BEACON」のMVの特徴は、「動」と「静」の組み合わせと、モノクロの映像の中での薄い青色の長方形およびその中で回転する光の筋です。

まずは「動」と「静」ですが、冒頭の22秒は細かいカット割りの映像で、強い印象付けにより読者の意識を引き込む狙いがあると思われます。
そして、それ以降はカット割りは比較的長く、かつ早い動きの映像もなく、メインは平沢進さんが定点で演奏するシーンとなり、いわば冒頭が「動」で続く以降が「静」となっている2部構成となります。
また、後半の「静」の部分も更に3部に分かれており、まず平沢進さんの演奏を中心とした映像で、この部分には(のちほど解説する)薄い青色の長方形が表示され、続いてはその青い長方形が表示されない平沢進さんがギターを床に置いている映像となり、また青い長方形が表示される平沢進さんの演奏の映像に戻り終焉を迎える...という組み合わせです。
この2部構成+後半の3部構成が、動きが少なく、かつ色彩表現がほとんどない印象付けが弱い映像にもかかわらず、楽曲とバランスの取れたちょうどよい印象付けを与えていると思われます。

そしてもう1つが薄い青色の長方形とその中で回転する光の筋です。
ほとんどを占める平沢進さんの演奏シーンは、モノクロの映像の中心に薄い青色の長方形が表示されるという不思議な構図となっています。
この薄い青色の長方形の出現の仕方もイケていて、冒頭の細かなカット割りが続くいわば「動」の部分の途中、7秒あたりで横幅一杯に青色の長方形が表示され、徐々に小さくなってゆき縮小がとまったと同時に平沢進さんの演奏が始まる...という絶妙なタイミングで構成されています。
モノクロの映像の中の青色の長方形という不思議な構図が、他に類を見ない独特の印象を与えていることは明白です。
そして、その薄い青色の長方形の中で回転する光の筋も印象的であり、このMVを構成する特徴のひとつにもなっています。
実は、この回転する光の筋は、楽曲のタイトルでもあり、かつアルバムのタイトルでもある「BEACON」を意味しています。
「BEACON」とは、信号を発信する装置と言う意味もありますが、広義には「灯台」を意味しており、この回転する光の筋は灯台から発せられるサーチライトの光の筋を意味しているのです。

そして、ここで2つのMVとLyricVideoをご覧いただきます。
それは、14thアルバム「BEACON」に収録されている「TIMELINEの終わり」という楽曲のMVとLyricVideo(歌詞の表示をメインにしているMV)で、上の「BEACON」のMVと大きく関連しているのです。

では、まず「BEACON」のMVの4か月前に公開されたMV。
平沢進の「TIMELINEの終わり」です。

激しい動きのない静かな映像のMVです。
平沢進さんの立ち位置も全く変わらず、単調とも言えますが、楽曲とのマッチングが良く、MVとしては味わいのある良作に仕上がっています。

上の「BEACON」のMVとは違い、完全にモノクロだけの映像で、かつ動きが少なく、カット割りに至っては全くなくワンカットで、表現は良くないですが「地味なMV」となっています。
前回の連載で影で遊ぶMVを紹介しましたが、同じ影を使っていながらも全く影で遊ぶことはなく、ただ単に平沢進さんの影が表示されているという「ここまで手を加えないなんて、なぜなんだ...」とすら思える印象付けの弱いMVとなっています。(参考までに前回の連載はコチラ⇒「影で遊ぶMVでは...」
「BEACON」のMVは「静」の映像が中心ではあるものの、冒頭に「動」の部分があり、「静」の中にもカット割りもありましたが、この「TIMELINEの終わり」は完全に「静」のMVとなっています。

そして、上の「TIMELINEの終わり」のMVから遡ること6か月前、楽曲が収録されている14thアルバムがリリースされる数日前にYouTubeで公開されたLyricVideoがあり、それがコチラ。
平沢進の「TIMELINEの終わり」(LyricVideo)です。

灯台とサーチライトの映像のみで構成されたLyricVideoですが、印象的なのは「青」が基調色となっており、モノクロではないものの「青」のグラデーションだけで表現されているシンプルなLyricVideoです。

同じ映像が続くため正直単調ではありますが、LyricVideoであるためやむなしとも言え、逆にここまで同じ映像にもかかわらず印象付けがそこそこあるのが不思議です。

さて、紹介した2つのMVと1つのLyricVideoをご覧になって、何か気付くことはありませんか?
そうです、「TIMELINEの終わり」のMVとLyricVideoのエッセンスを組み合わせ、更に昇華させたものが「BEACON」のMVなのです。

更に踏み込んで言うと、「TIMELINEの終わり」のLyricVideoには、アルバム「BEACON」のエッセンスが投入されており、その証が「灯台」をモチーフにした映像となっているのです。
「TIMELINEの終わり」のLyricVideoは、アルバム「BEACON」のリリースの前に先行公開されており、アルバムのトレーラーとしての役目も持っているため敢(あ)えて灯台をモチーフに据えたのではないかと推察されます。

いずれにせよ、「BEACON」のMVが楽曲だけでなくアルバム「BEACON」を含めた(「TIMELINEの終わり」のMVとLyricVideoも包含した)作品であることは間違いありません。

この「BEACON」のMVに出会い、平沢進さんのMVおよび楽曲を遡って視聴したところ、1つの気付きと1つの衝撃を受けることになります。

1つの気づきは、以前の平沢進さん(P-MODEL等を含む)のMVを最初に観ていたら、多分平沢進さんにはハマっていなかった...という点。
というのも、平沢進さんの以前のMVは、テンコ盛りと言うか押し出しの強いMVがほとんどで、正直私の好みからは程遠いものばかりなのです。
有名なところでは「TOWN-0 PHASE-5」や「論理空軍」(P-MODEL)などで、二足歩行のロボットの頭の部分のモニターに平沢進さんの顔が表示されていたり、戦闘機の操縦席の部分のモニターに同様に平沢進さんの顔が表示されているなど、インパクトはあるものの自己主張が強いものばかりで、チョット食傷気味な感も否(いな)めません。
逆に言うと、その時代の平沢進さんのMVと出会っていたら、多分今回のようにハマることなく、平沢進さんのスゴさを感じられないまま今に至っていた可能性が高いとも言えます。
その意味では、今回の「BEACON」のMVをレコメンドしてくれたYouTubeには感謝しかありません。

そして1つの衝撃は、神アルバムと断言できる1998年リリースの7thアルバム「救済の技法」との出会いです。
なぜこの神アルバムと今まで接点がなかったのか自分でも不思議ですが、平沢進さんは大手のレコード会社とは契約せず、個人事務所で立ち上げたレーベルで楽曲をリリースされており、そのため一般ユーザーとの接点が極端に少なくなっていたからではないかと推測されます。
この、ある種、孤立無援というか四面楚歌に近い環境の中でも評価が高く、「Rate Your Music」というUSのネットの一般ユーザーの投票だけで順位をつけているサイトで、最高の日本のアルバムで8位と言う恐ろしい順位となっています。
ちなみに、この「Rate Your Music」には私が全く知らないアーティストのアルバムも多数上位に名を連ねており、今1つ1つ聴いているところですが、「えっ、こんなイケてる楽曲がリリースされていたんだ!」と驚くこともあり、如何(いか)にメジャーレーベルに情報統制されているかを思い知らされます。

話を戻して、神アルバム「救済の技法」ですが、中でも以下の3つの楽曲が素晴らしく、リピートして聴きまくっています。
・TOWN-0 PHASE-5
・庭師KING
・MOTHER
「救済の技法」はSpotifyにもありますので、ぜひ一度聞いてみていただければ幸いです。

ここで1つお伝えしたいことがあるのですが、先ほど「TOWN-0 PHASE-5」のMVは好みではないと言いましたが、楽曲のみで聴いたところ印象が全く異なり、超お気に入りの楽曲となっています。
これほどまでにMVで視聴するときと楽曲のみで聴くときの印象が異なる楽曲も珍しく、その点でも私の中で特別な楽曲とも言えます。

今回の平沢進さんの特集はいかがでしたでしょうか。
紹介した3つのMVとLyricVideoもご覧いただきたいのですが、何より神アルバムである「救済の技法」をぜひぜひ聴いてみてください。
皆さんも平沢進ワールドにハマること間違いなしです。

ではまた次回に。

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