見出し画像

ジェインの成長の軌跡は、ブレードランナー2049をリスペクトしたMVを観ても明らかだ(オススメMV #137)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の137回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は、フランスのアーティスト「ジェイン」の特集となります。
前回の「シンプルイズベストのカネコアヤノ、テンコ盛りのジェイン、どちらが好み?」からの続きとなりますが、最後までお付き合いください。

まず最初は、ジェインのMVの最新作となり、またジェインのMVの中で私の最もお気に入りのMVとなります。
ジェインの「Night Heights」です。どうぞ!

私が大好きなブレードランナーをリスペクトしている映像に加えて、構成や構図など考えつくされたと思われる完成度の高い映像のMVです。
懐かしく心地よくも新しさもあるジェインの新境地とも言える素晴らしい楽曲との組み合わせも最高で、名作MVと言えるのではないでしょうか。

ジェイン(Jain)はフランスのシンガーソングライターですが、簡単な紹介は前回に記載しているのでそちらをご覧ください。(ジェインの紹介が載っている前回はコチラ⇒「テンコ盛りのジェイン」

この「Night Heights」は、昨年2023年にリリースされた3rdアルバム「The Fool」からの3rdシングルとしてリリースされた楽曲です。
ジェインのアルバムは、1stの「Zanaka」、2ndの「Souldier」ともエレクトロなポップナンバーを中心とした多様性のある楽曲が満載で、ヨーロッパでヒットを飛ばしました。
しかし、3rdアルバムの「The Fool」では、もちろんエレクトロではあるもののメロディーが前に出ている楽曲が多く、かつ不思議な懐かしさを醸し出す心地よい楽曲が多いことが特徴です。
2ndのリリースが2018年でこの3rdが2023年と、5年の歳月の中でジェインも人生経験を積み様々な試行錯誤をする中で開拓した新境地なのでしょう。

実は、ジェインのMVはたまに視聴するものの、アルバムに収録されている楽曲はほとんど聴いていなかったというのが正直なところです。
しかし、この3rdアルバム「The Fool」は、MVはもちろんですがアルバム自体も素晴らしく、まさに今ヘビロテしている真っ最中となります。
特にタイトルナンバーであり1曲目に収録されている「The Fool」と、それに続いて2曲目に収録されている(上でMVも紹介した)「Night Heights」の2曲が超絶お気に入りです。
楽曲の話ばかりになってしまいましたが、MVの話に移りましょう。

「Night Heights」のMVは、なんといってもブレードランナー 2049からリスペクトされたと思われる映像が印象に残ります。
まずは、デッカードが隠れ住むラスベガスの砂漠を模した映像です。
汚染された赤い空を背景に女性像が佇む砂漠のシーンがありますが、同様に赤い空を背景に占い機(占いマシン?)の人形が横たわる砂漠の映像がほぼ同じ構図になっています。
2つ目は、その赤い空の砂漠の中で、ジェインのもう1つの人格を模していると思われる女性とのシンクロする映像です。
ブレードランナー 2049で主人公「K」のパートナーとなるAI「Joi」が娼婦のレプリカント「Mariette」と映像合成により重なって逢瀬を迎える場面があり、その様子がMVではジェインと女性とのシンクロ映像の元ネタになっていることは明白です。
そして3つ目は(本当かどうか微妙ですが)、MVの中でのボーリング場の暗い中で椅子が並んでいる映像で、ラスベガスのホテルの中でデッカードとKが乱闘する映像と微妙なデジャブ感をもたらしています。
しかし、ブレードランナー 2049との権利関係は大丈夫なんだろうか?と心配になりますが、ブレードランナー 2049はソニー・ピクチャーズも配給会社のひとつであり、ジェインの所属レーベルはソニー系列のRCAなので、上のほうのつながりで解決しているのかもしれません。(推測ですが...)

そして、このブレードランナー 2049のリスペクトは、単なる流用ではなく、MVの映像構成と映像表現の中で重要な要素となっているのです。
まず映像構成から説明すると、MVでは場面ごとに黒、赤、白の3つのコンセプトカラーを明確に打ち出しており、そのうち砂漠の場面が赤でボーリング場の場面が黒ですが、これはブレードランナー 2049の砂漠とホテル内の乱闘場面を効果的に流用して実現しています。
続いて映像表現としては、砂漠に横たわる占いマシンという構図による印象付けと、ジェインと女性とのシンクロによる感情を模した表現となります。
ふたりのシンクロによる映像表現が際立ちますが、占いマシンの印象付けも絶妙な使い方で、この後に解説しますが別MVとの関連付けにも役立っています。

その関連付けられているMVは、新生ジェインの現在リリースされているふたつのMVの残りのひとつとなり、こちらのMVも超絶オススメです。
それが次に紹介する3rdアルバムのタイトルナンバーにもなっているMV。
ジェインの「The Fool」です。

屋根裏部屋で見つけた占いマシンから出てきたタロットカードをきっかけに、砂漠から始まり宇宙まで飛び出すという壮大なMVです。
荒唐無稽ではありますが、大人の寓話とも言える映像と、新生ジェインのメロディアスなナンバーのマッチングが素晴らしく、ほっこりするMVとして仕上がっています。

ちなみに、前回紹介したジェインのMV2作品もつながっており、「Come」のエンディングが「Makeba」のオープニングになっていましたが、この「The Fool」についても占いマシンとタロットカードが「Night Heights」とつながっており、単体のMVでは無しえない広がりを生んでいます。

この「The Fool」のMVは、(上にも書きましたが)大人の寓話とも言える内容で、屋根裏部屋で見つけた占いマシンから「The Fool」のタロットカードを受け取ると砂漠にうつり、その砂漠から空に延びる鎖の上を歩いて宇宙に行く...という出だしからメチャクチャでありながらも引き込まれる内容となっています。

なお、日本人にはこの占いマシンは馴染みがありませんが、海外では遊園地などに結構あるようで、古いところでは若かりしトム・ハンクスが主演した1988年の映画「Big(ビッグ)」にも重要な役回りで登場しています。
この占いマシンは「Night Heights」のMVにも登場しますが、タロットカードにも意味を持たせており、「Night Heights」のMVで飛んで来るたくさんのタロットカードに体を貫かれるジェインがもうひとりの女性と重なる様(さま)は、運命を受け入れて自分の内なる欲求に正直になれ...と言っているようにも思えます。

話を「The Fool」のMVに戻すと、宇宙に出たジェインはさながら散歩するかのように宇宙を彷徨(さまよ)うのですが、土星と思(おぼ)しき星のリングを指輪にするくだりは、しょーもないと言えばしょーもないのですが、大人の寓話というテイストの醸成に役立っていることは確実です。
そして最後は、月のような小惑星の上に寝転んだジェインが気が付くと、もと居た屋根裏部屋の床の上だった...という終わり方もサラッとしていいですね。(この終わり方は、ペット・ショップ・ボーイズの名作MV「New York City Boy」のエンディングにも似ていて、もしかしたらリスペクトしているのかもしれません)

と、ここまでジェインのことをメチャクチャ詳しいかのように書いていますが、実は上に紹介した2つのMVや最新アルバムである「The Fool」との出会いはつい最近のことなのです。
前回の「シンプルイズベストのカネコアヤノ、テンコ盛りのジェイン、どちらが好み?」を書くにあたりジェインのMVを再度観ていたところ、ジェインに昨年リリースされた2つの最新MVがあり、同様に3rdアルバムがあることを知り、MVを観たところドはまりしました。
そして、3rdアルバムを聴いたところこちらも衝撃を受け、Spotifyではもう何回聴いたか分からないほど聴きまくっているというのが実状です。
話が少しそれますが、スマホのSpotifyアプリの曲の背景に表示されるアニメーションも何気(なにげ)にお気に入りです。(Spotifyアプリをお持ちの方がおられたら、ぜひ一度観てみてください)

それまでのジェインの印象は普通のエレクトロミュージックのシンガーソングライターというもので、楽曲のみで聴くことはほとんどなく、リリースしているMVが面白くてたまに観る程度のお付き合いでした。
しかし、この3rdアルバム「The Fool」は(上にも書きましたが)メロディーラインが印象的で単なるエレクトロミュージックの枠を超え、私の知る以前のジェインではなく「新生ジェイン」とでも呼べるほどです。
そしてMVについても、単に面白いのではなく、深みがあり素晴らしい作品となっており、連続で複数回観ても視聴に耐えうる内容になっています。(というか、私は続けて2回、3回と観てしまいます)

前回の記事を書かなければジェインの最新のリリースに気付くこともなく、この素晴らしいMVやアルバムと出会うことが無かった可能性もあるため、この連載をしていてよかったと切に思うところです。

前回紹介した「Come」と「Makeba」は1stアルバムからのMVでしたが、2ndアルバムからも2つのMVがリリースされており、そのMVも「Come」と「Makeba」同様にテンコ盛りの楽しい内容で、明らかに2ndアルバムと最新の3rdアルバムの間にジェインに大きな成長があったことは明らかです。

参考までに、その2ndアルバムからの2つのMVもご覧ください。
まず最初は2017年リリースのMV。
ジェインの「Dynabeat」です。

そして、続いてが2018年リリースとなるこちらのMVです。
ジェインの「Alright」。

どちらもテンコ盛りで楽しいMVですが、2015年リリースの「Come」、2016年リリースの「Makeba」と時期的に近いこともあり、同じテイストのMVとなっています。
(ちなみに、この2つのMVのオープニングは、「Makeba」のMVのオープニングおよびエンディングの映像とつながっています)

この4つのMVと最新の2作品との違いは明白で、映像的に明るいテイストとダークな色調という違いもありますが、内容つまりコンテンツ自体が大きく異なっています。
最初の4作品はモリモリに盛り込んだ内容で、たとえて言えばたくさんのおもちゃがぎっしり詰まったおもちゃ箱のような作品ですが、最新の2作品は上質な絵本のようなMVと言えるのではないでしょうか。

なお、ジェインのYouTubeオフィシャルチャンネルでは、スタジオライブ動画もたくさんアップされており、MVとは違う生(なま)に近いジェインを見ることができます。
そこで見るジェインは、現在32歳と美しい大人の女性なのですが、大人の女性でありながらも少女っぽさがあるというか幼い輝きを残したまま成長しているようにも思え、これは私の大好きなケイト・ブッシュとの共通点でもあり、これからの更なる活躍を大いに期待するところです。

だいぶ長い文章になってしまいましたが、最後にそのYouTubeオフィシャルチャンネルにアップされているライブ動画の中からオススメを2本紹介して締めさせてもらいましょう。

最初は、上にMVでも紹介した楽曲ですが、ライブ動画も絶品です。
ジェインの「The Fool (Live Session)」です。どうぞ!

もう何も言うことが無いほど素晴らしいライブ動画です。
ジェインのライブにもぜひ行ってみたいと思わずにはおれません。

続いては、MVではリリースされていませんが、3rdアルバムに収録されているお気に入りの楽曲のライブ動画。
ジェインの「Cosmic Love (Live)」です。

衣装が楽曲のテイストとマッチしていていいですね。
「The Fool」のしっとりとしたライブ動画と対になっていて楽しめます。

今回の「ジェイン特集」はいかがでしたでしょうか。
3rdアルバムからの2つのMVもおすすめですが、何よりその3rdアルバム「The Fool」自体が超絶オススメですので、ぜひ聴いてみてください。
(アルバムジャケットのデザインもイケてます!)

ではまた次回に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?