見出し画像

驚きのライローと、イアン・パーマー氏

 20日(水)、21日(木)とユニオンリカーズのインチデアニーセミナーを東京と大阪の2会場で行った。11月1日に、インチデアニーの初リリースとなるライローが日本でも発売されるため、同蒸留所の創業者でCEOのイアン・パーマー氏が来日し、私と2人でテイスティングセミナーを行うことになったのだ。

 インチデアニーを訪れたのは2017年のたしか5月のことで、その時にイアンさんから蒸留所を案内してもらい、その革新的な造りについて、いろいろ話をうかがっていた。まずインチデアニーは通常のモルトミル、いわゆるローラーミルではなくハンマーミルを用いており、糖化、濾過はマッシュタブとマッシュフィルターを用いていること。スチルはフリッリ社製で3基あり、そのうちの1基はイアンさんとフリッリが独自に開発したローモンド型のスチルであること。ウェアハウスはすべてパラタイズ式で、モルトウイスキーだけでなくライウイスキーや、小麦、オーツ麦を使った仕込みもやること。モルトウイスキーの原料に春大麦だけでなく、冬大麦も使うことなどだった。

 その時に聞いていたのが、最初のリリースはシングルモルトではなく、ライ麦芽を使ったライローというウイスキーになるということだった。そのライローが、ついに製品となって姿を見せたというわけである。

 ライローが革新的であるのは、ライ麦をそのままではなく麦芽に加工していること。マッシュビルはライ麦芽53%で、大麦麦芽47%である。つまりすべて麦芽で、ここがアメリカンのライウイスキーとも、それから先行するアービッキーのライウイスキー、ブルックラディのライウイスキーとも違う。それらはすべてライ麦芽ではなく、ライ麦そのものを使い、それを大麦麦芽の糖化酵素で糖化していたからだ。ましてやアメリカンのライはビアスチルにダブラーという巨大な連続式蒸留機を使ったウイスキーである。

 インチデアニーが使う穀物はすべてファイフ産で、ファイフは昔から”キングスバーン”、王様の穀物庫といわれたほど、穀物栽培の盛んなところ。ライ麦芽は地元のモルトスターが、ドラム式製麦機で麦芽に加工したという。もちろん、ハンマーミル、そしてマッシュタブ、マッシュフィルターで麦汁を取り、それをステンレス発酵槽で発酵させる。モルトウイスキーもライローも通常より糖分濃度が高く、グラビティーで言ったら1072だとか。当然、モロミのアルコール度数も高くなり、アベレージで10.5%くらい。使う酵母はライ麦に特化したイースト菌で、発酵時間は約60時間。それをノーマルのポットスチルで初留を行い、そしてローモンドスチルで再留を行うのが、ライローなのだ。

 ローモンドスチルのヘッド部分には6段の棚があり、すべてバブルキャップで構成されている。しかし、これはハイブリッドではなく、あくまでもバッチ蒸留だ。ただ6段の棚によってリフラックスがより起こり、スピリッツは銅によって磨かれるということだ。

 ニューポットは71%だが、これを62.5%まで加水して、アメリカンホワイトオークの新樽に詰める。内側のチャーはグレードNo.3のチャーだという。ケンタッキーのバーボンメーカーが多く使うのはNo.3~No.4の、いわゆるアリゲーターチャーだが、それに比べるとやや弱いチャーかもしれない。といっても、ウッドフォードリザーブのように2.0~2.5のチャー樽を使うところもあるので、アベレージの内面処理と言ってもいいかもしれない。

 ライ麦が53%で、バレルエントリーが62.5%、そして内側を焦がした新樽しか使わない…。これはすべてアメリカンのライウイスキーの定義に当てはまっているが、そのマッシュビル、製造方法は革新的で、誰も味わったことのないライウイスキーに仕上がっている。もはや驚きとしか言いようがない。イアン・パーマー氏、おそるべしである。11月の初リリースが今から待ち遠しいのは、私だけではないだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?