be up to NPの謎 その2

こんにちは。
前回に引き続き、be up to NPの謎を考えていきたいと思います。

こういう記事を少しずつ書いて考えをまとめて、論文に出来たらいいなあ。

まず、be up to NPの何を明らかにしたいかということを今一度、はっきりとさせておきます。
be up to NPというフレーズは、色々な事象を表すことに使えますが、「〜次第」や「〜(悪いこと)を企んでいる」という意味にもなります。
例えば、
It's (all [entirely, totally]) up to you.(君に(すべて)任せます; (全部)君次第だ)(ウィズダム英和辞典)
What's the boss up to now?(上司は今度は何をたくらんでいるんだろう)(ウィズダム英和辞典)
など。

それで、今気になっているのは、なぜこれらの意味がbe, up, to, NPで構成されるのか。また、upやtoの概念はどのようにこれらのフレーズに影響しているのか、ということです。

今回からしばらく、先行研究との睨めっこにお付き合いください。
この記事では、upの基本的な意味と概念について少し考えてみたいと思います。

手元にあるジーニアス英和辞典(第5版)によると、最も基本的な意味は以下の通りです。

(1) 【基本義: 上方に。上方への運動・移動を表す】(ジーニアス英和辞典)

そして、1番最初に書かれてある用法は以下の通りです。

(2) ❶ [移動] [動作動詞 + up] a)(低い位置・地面・水中などから)上へ、上方へ、上がって(ジーニアス英和辞典)

という感じで、皆さんもご存知のところかと思います。
さらに、同じ用法の見出しには、「upが上方向への動きを表し、続くtoによって到達点を示す」とも書いてあります。
つまり、up toの組み合わせは、[動作動詞 + up + to + NP]というふうに、上方向へのなんらかの動きと、その動きの到達点を表すのが基本的な使い方のようですね。
特に難しい点はなく、直感的に理解できますね。

では、upの持つ概念的な意味はどうなっているのでしょうか。
上野 (1995: 85)では、upの反対の意味を表すdownとともに説明が行われています。以下に簡単に紹介します。下記の例をご覧ください。

(3) John walked {up down} the mountain path, but quit halfway {up / down}. (ジョンは山道を歩いて {上がって / 下って} 行ったが、半分 {上った / 下った} ところでやめた)(上野1995: 85より、レイアウトを少し変更。日本語訳筆者)

上の例から見てわかるように、walkという移動を表す動作動詞と組み合わさることで、移動の方向を表しています。先ほどの辞書に書かれていた使い方通りですね。
さらに、次のような文を見てみましょう。

(4) Having walking {up / down} the mountain path, John was {up / down} the mountain. (山道を歩いて {上がった / 下った} ので、ジョンは山の {頂上 / ふもと} にいた)(上野1995: 85より、レイアウトを少し変更。日本語訳筆者)

この例では、John was {up / down} the mountainという風に、移動が完了した後の位置を表すためにも使われていますね。

したがって、上野 (1995: 85) は、upには以下のような含意関係が成立すると述べています。

(5) 〔+DIRECTION〕implies〔+RESULTANT LOCATION〕

つまり、upやdownが示す移動の方向には、移動完了時の位置を示す意味が含まれているということですね。

また、移動の方向が移動完了時の位置を示すということは、「移動の完了」という概念とも結びついています。
この、「移動の完了」という概念から、「行為の完了」という意味が生じます。

(6) John ate up the dish.(ジョンはその料理を完食した)(上野1995: 86より、レイアウトを少し変更。日本語訳筆者)

まとめ
今回は、upの基本的な意味と概念を見てきました。
皆さんもご存知の通り、upは移動を表す動詞と組み合わさることで、移動の方向を表すことができます。
さらに、移動完了時の位置を含意しています。また、移動完了の概念とも結びつきがあり、そこから(移動以外の)行為の完了という意味へと拡張します。
はてさて、ここから「〜次第」や「〜を企んでいる」という意味へとどう拡張するのでしょうか。

つづく

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