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この国で世代間闘争が起きないと本当にいえるのか

2023/8/1 Newleader

怒りを持って振り返れ

 定年退職すると健康保険が企業健保から国民健康保険に切り替わります。6月の中旬に各基礎自治体から「国民健康保険料額決定通知書」が送られてきます。給与天引きの企業健保と異なり、この通知書の指示通りに自分で納付することになるため、公的負担というものを初めて実感することになります。初めて通知書を受け取る方は、先ず間違いなく、金額を見て逆上することでしょう。

 私の公的負担の徴収は、国民健康保険料のほか、所得税、住民税、固定資産税、都市計画税、消費税(総収入から貯蓄、各種直接税・保険料をさっ引いた額の10%で推計)とありますが、国民健康保険料はこの中で、ダントツのトップなのです。もちろん国民皆保険制度の受益者でもあるわけですから粛々と負担するのが義務と心得ています。それでも私の場合、3割自己負担したあとの残りの7割、つまり健康保険制度の受益額にくらべ納付保険料ははるかに多くなっています。

 重荷の構造を実感するのは、例えば保険料の費目です。「国民健康保険料額決定通知書」に記された内訳は、「医療分」「支援分」「介護分」とあります。医療分は医療保険、介護分は介護保険への納付、そして支援分は後期高齢者医療制度への拠出です。75歳以上の高齢者の自己負担比率軽減分の足らずまいまでも?現役世代が背負っているわけです。私の場合、この支援分は、年間22万円強となります。60歳で保険料納付が終わる年金とは異なり、健康保険は無限に続く重負担に見えてきます。これでは、とても消費意欲は沸いてきません。

重荷の本当の中身

 私個人だけの感想ではありません。2023年度の国の一般会計予算に占める社会保障費は36兆8889億円(32.2%)で当然トップシェア。2000年度から2022年度の間に、日本政府の一般会計歳出(当初予算)は22兆6000億円増加しましたが、このうち社会保障費の増加分が19兆5000億円。これに対して税収は17兆6000億円しか伸びておらず、社会保障給付の約4割を占める政府負担の増加分すら賄えておりません。日本自体が社会保障の重圧に押しつぶされています。

 しかも、本番は実はこれから。日本の人口動態で最大の塊である「団塊の世代」の全体が2025年度までに自己負担比率が軽減される後期高齢者となります。社会保障給付の31%を占める医療費(因みに年金が44.8%、福祉その他が24.2%)の公的および保険加入者負担がこれから跳ね上がっていくのです。

 さらにいえば、医療・介護費増大の重荷には負担増だけに留まらない別次元の恐ろしさがあります。野口悠紀雄氏の計算によると、2021年当時の産業別の就業者1人あたりの生産性(付加価値)を見ると、医療・介護分野は製造業の2分の1以下。一方、就業者数の見込みは、現在の趨勢が続くとすれば、2040年には医療・介護は製造業の2倍を超え、日本最大の産業になるそうです。日本は負担増が進むほど、成長力が低下するというアリ地獄に陥っているのです。

昔、階級闘争、いまは世代間闘争

 これは日本社会にとって深刻なモラル上の問題を投げかけています。

 以前、この欄で小泉政権の「米百俵」キャンペーンを、「米百俵、たべちゃった」と皮肉ったことがあります。将来世代のために、いま我慢するというのが、小泉改革路線の謳い文句でしたが、実際に行ったことは、研究費、教育費やインフラ建設など将来向けの投資を削り、社会保障費の増大に回しただけ、つまり「今の生活のために、学校建設費を使ってしまった」のでした。

その後、安倍政権では、消費税を引き上げた一方、毎年、過去最高を超える巨額予算と超低金利政策で成長を目論みました。近年では最悪だったリーマンショック後の状況からのリカバーは出来ましたが、これほどの政策を行ったことに見合う突き抜けた成長が実現できていません。そのはずです。この将来投資を削ってまで集められた巨額な資金は非効率部門を巨大化させることに吸い取られてしまったのです。

 それでも政府や政治のレベルでの対応は、支出の「抑制」の程度に増税による負担増までで、大きく支出を削減し、成長に資する将来向けた投資に回すといった話は出てきません。

 両「清和会」長期政権とも、実は団塊の世代の社会保障問題に切り込むことはしませんでした。選挙を考えて逃げ回った感があります。小泉政権が「米百俵食べちゃった政権」なら、安倍政権は「団塊に媚びちゃった政権」です。

 数年前から、イエール大学助教の成田悠輔氏が「高齢者は老害化する前に集団切腹すればいい」という趣旨の発言を繰り返し、話題を呼んでいます。乱暴な発言ですが、波紋を投げかけているのは確かです。このような発言が成立する背景は何なのでしょうか。

 また、最近の選挙で、日本維新の会、大阪維新の会が著しい躍進を遂げています。右派版の人気狙い政党という評価が強いようですが、支持の強さは本物です。

 HPを見てみると、「大阪都構想」一本槍というイメージはありませんでした。地方行政改革はその成り立ちから当然でしょうし、安全保障、憲法問題もポジショントークですね。しかし、ベーシックインカムもしくは給付付き税額控除による社会保障制度の簡素化、減税、そして教育費無料化。社会保障制度にメスを入れ、将来投資に回すという志向ははっきりしています。

 これらの政策が、現役世代に受け入れられているのかどうかは分かりません。そもそもこの政党の政策が世間に浸透しているかどうかも分かりません。ただこのような政策傾向を持つ政党が、強い牽引力を手にし始めていることは事実なのです。

 近代以降の世界では「もつ者もたざる者」という社会の構造的な不均衡、不平等が常に問題となり、各種改革や闘争、場合によっては革命を引き起こしました。それが20世紀以降、様々な変遷を経ていった挙げ句、おおよそどの国でも社会保障によって、ある種の均一化が図られました。

 しかし、それが達成されてしまうと、別な不均衡、不平等が生まれます。つまり「負担する者と受益する者」です。負担する側が時間軸を超えて、背負っただけのものは受け取れる、と感じている間は問題ありません。しかし、負担するだけで将来の展望が描けなくなった段階で瓦解します。社会保障という大義名分に縛られた搾取です。

 どうでしょう皆さん。この先、日本で地殻変動が起きないと本当にお思いでしょうか。


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