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#春はミラクル起こります。『チコツノリカイ』

最終日に滑りこみで失礼します💦
ぷ会の企画に参加させていただきます!

「チコツノリカイ」をご存知だろうか?

初産が遅かった私、母子手帳には高齢出産のハンコが押され、懸命に模範的な妊婦生活を続けていた。
予定日まであと2週間となった日、
どうしても棚のものを取りたくて、大きなお腹でダイニングの椅子に慎重に乗った。
そして・・・
降りる時、私の尾てい骨は見事に椅子の背の角に食い込むようにヒットした‼︎
声も出ない痛さ。その場で悶絶。でも赤ちゃんは問題なさそう。ホッとした。

出産当日。準備は抜かりなく朝から入院。
経過は順調、まもなく分娩台に通される。
尾てい骨はまだ痛む。真上を向いて寝るだけでも痛い状態で”力む”なんて至難の業だ。
上手くできずにもがいていると
看護師さんが私の腹を強く押す。
「赤ちゃんの息が苦しくなっちゃうから
お母さん、頑張って!」
それでもラチが明かずに、ついに看護師さんが私の真上に馬乗りになり、肋骨の下をグイグイ押す。(後でくっきり手形のアザが残った。)
呼吸に合わせてなんとか出産。
無事に元気な男の子が生まれた。
ご対面は感動というより安堵。

一大事業を終えて、分娩室でそのまま横になること1時間。看護師さんが迎えにきた。
「起き上がって歩いてください。お部屋まで案内しますよ。」
「え?歩くって‥あの〜私、力が入らないんです。全く歩けない感じなんですけれど。」
「ん?皆さん、普通に歩いてますけれど。」
慌てて婦長さん(と今でもいうのか?)がやってきて、あれこれ姿勢を確認した後、
「チコツノリカイだわ」と告げられた。
「何ですか、それ?」
「恥骨の離開。骨盤の真ん中の靭帯が伸びてしまったんです。分娩で痛めてしまったのでしょう。一般的には5000g以上などのビッグベイビーを産む時に起こる可能性があるんだけれど・・・」
不思議がっている。
長男の出生体重は3200g。
私は何が何だかわからず焦っていて、尾てい骨を強打したことはすっかり忘れていた。
出産前にも看護師さんに伝えていなかった。
後から思えば、その影響で産み方が悪かったに違いない。
(もっとも看護師さんの介助が上手かったとも思えないが。比べてみれば、下の子の出産時に別の病院で受けた介助が丁寧だったのでそこで初めて違いが解った。)

初めての育児のスタートで躓いた。
左右の足をわずかにズラしただけで激痛が走る。産院では車椅子のまま授乳やオムツ替えをし、長男を膝にかかえて生活した。
しかも、生まれたての赤ん坊ってサルみたい。TVコマーシャルの子みたいには可愛くないんだ、って初めて知った。グニャグニャして私が首を支えなかったら死んじゃうんだと思うと怖さが先に立った。周りが「かわいい♡」というほど単純に喜べない自分を感じた。そこで起こっている状況に適応することにとにかく必死だった。

骨盤を締める体操を教わり、骨盤にゴムベルトをきつく巻きつけて過ごした。おかげで3日で後ろ歩きでワゴンに捕まって移動できるようになった。6日で退院。自宅に戻り2週間ほどで少しずつ前にも歩けるようになった。とにかく歩ける体に戻っていくことで、大いにほっとした。私以上に夫が「一生歩けないかもしれない」と心配し、影で泣いていたらしい。

とはいえ、階段の昇降には1ヶ月以上かかった。計画していた、子どもと並んで寝るはずの部屋にたどり着けないまま、狭いリビングの一角に布団をしいて暮らした。
底冷えのする冬の夜のすきま風は辛かった。昼間は赤ん坊の無垢な姿を心底かわいいと思えたけれど、歩けない不安と不自由さでスタートした育児は、カンの強い長男に打つ手がなく、夜中は泣かせるばかりだった。
ニュースで見る、育児ノイローゼの母親が子を手にかける気持ちを想像しては自分が怖くなった。
ありがたいことに、息子が成長するにつれて日増しに可愛く感じられるようになったが、
手強いのは相変わらずで、眠っていても置くとすぐ起きて泣いた。だから、いつも左腕で腰の上に抱っこして、右手で米をといだり野菜を炒めたりした。
私の昼食はもっぱら冷凍肉まんだった。片手で冷凍庫からレンジへ入れ、取り出して食べられるから。
眠くなると父親では手に負えず、寝かしつけは下の子が生まれるまで4年近く私が1人でしていた。
出産で激太りという話はよく聞くが、逆は珍しい。自分が大きな病気なんじゃないかと疑うくらい痩せた。(憧れの50kg未満も経験した♡ほんの束の間で終わったけれど。)

無我夢中で、不器用な子育てをしていたんだろうと思う。スマホどころかガラケーも個人は持っていなかった時代。不安と孤独がつきまとう母子2人きりの時間。
いま、世の中があっという間に便利になって、育児の情報も気持ちも共有できる時代がきた。よかったよかった(^^)


先日、一人暮らしの息子が数ヶ月ぶりに実家の門をくぐった。(近所に住んでいるのに普段は寄りつかないのだ。)
手土産に”焼き菓子詰め合わせ”を持ってきた。雪が降るかと思うほどミラクルだった。
アヤシイと思ったが、特別な頼み事もされなかった。娘が、大喜びして一人で半分以上食べていた。おいっ!

親子関係は見えないくらい少しずつ変化しているんだろう。大切に心地よい距離が続くようにと願うばかりだ。
もう大きなミラクルは求めないからさ。
ずっと仲良くしてくれたらうれしいなぁ。

(おわり)

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