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黄昏は迷路

 ケロイドを這う その得体のしれない指先
 目の前にいる女が 申し訳程度についた私の傷跡を
そんなに優しい目で見つめるもんだから
私は悲しくて 切なくなった
その女の腕は 茶色く変化してでこぼこで
一種の彫刻のようだった
出来損ないの 斬新な 彫刻作品
あなたの傷は 私には背負いきれない
背負おうなんて思わないで
女はそう言って 優しく包み込む
一緒に来て欲しい
そう囁くと 私は落ちていった
天使のようなあんたに
一体どんな怒りや憎しみが 隠されているの
暴いてやりたいと 意地悪に微笑んで
私のサディスティックな夢を
黄昏色に染まる部屋で
一方的に ゆっくりと 見てみたい
そんな私の考えとは裏腹に
あなたはもっと優しく私を包んでくれた
ちょっとだけ あの人に似てた
そう思って欲情した
あの人は ひとりだったらいいのに
そしたら、夢の中で独り占めできる
行方知れずの恋ばかりで
人と深い関係になれるなんて ありえなかった
少年のままのあなたは どこか寂し気で
その女に投影されて 私を翻弄した
やめてよ そんなに優しくするのは
そう思って 彼女を突き放した
ああ そういう顔もするんだ
蹴とばしてやりたくなった
あなたの茶色い腕は りんごが酸化したみたいで
おいしいのかなあ、って妄想した
どのくらいの血が 滴ったのだろう
舐めてあげたいと おもった
涙が一筋流れたあなたの頬
西日が 目の色を透かしてた
それがあまりにも 綺麗だったから
私も泣いた
泣いて、泣いて、泣いた
しっとりとした あの日の頬は
あの少年の頃のあなたのくちびるに似てた
女はずっと私の横にいて
私が寝息をたてても 見守ってくれていた
私の白い傷跡を 永遠に這っていた
ああ あなたがひとりならいいのに
わたしは欲張りだから
全部ひとり占めしたいと
世界に唾を吐く 

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