呉座事件、初期Web報道を追う

2021年3月ツイッター上で発生した、歴史学者呉座勇一氏と、英文学者北村紗衣氏とのトラブルを皮切りとして、1年以上大炎上が続いている。
また、呉座勇一氏の職位に関する訴訟をはじめ、民事の訴訟が数件起こっている。

事件の概要

  • 呉座氏の鍵アカウントツイートのスクリーンショットを、何者か(単独か複数人かは不明)が北村氏にもたらし、北村氏が当該のスクリーンショットを公開する。【A】

  • 呉座氏の職場にクレームや脅迫が届く【B】

  • 呉座氏がNHK大河ドラマの時代考証チームから降板【C】

  • 呉座氏の職場である日文研が呉座氏に厳重注意【D】

  • 日本歴史学協会より「歴史研究者による深刻なハラスメント行為を憂慮し、再発防止に向けて取り組みます(声明)」が発表される。(2021/04/02)【E】

  • オープンレター「女性差別的文化を脱するために」(呉座氏のツイート言動を悪しきものとして主張の論拠とする)が、Web公開される(2021/04/04)。同時に賛同署名が集められ、約1300名の賛同が寄せられ、賛同者リストも公開される。【F】

  • 呉座氏と北村氏和解【G】

  • 呉座氏の職場である日文研、人間文化研究機構が、一か月の停職、昇格内定取り消しの処分をする。【H】

  • 呉座氏が雇用主に対して地位確認訴訟を提起【I】

  • 「オープンレター」の署名に関して手続き上の痂疲が発覚【J】

  • 「オープンレター」発起人の有志から、呉座氏に対して債務不存在確認訴訟が提起される。【K】

  • 派生する炎上に関連し、北村氏が山内雁琳氏に対して名誉棄損損害賠償の訴訟を提起。【L】

  • 「オープンレター」非公開化(2022/04/04)【M】

  • 呉座氏と新世紀ユニオンとに新たな脅迫状が送られる【N】

  • 呉座氏がオープンレター発起人らに対して名誉棄損損害賠償訴訟(反訴)を提起。【O】

このほかに、新世紀ユニオンによる、人間文化研究機構に対する団体交渉なども行われているので、実際の交渉主体も多くなっている。

ややこしさを考えてみる

学者・メディア関係者という社会的地位をもった人も多かったがため、関連の論争は非常に多岐にわたっており実にややこしい。

メディアの特性もさまざまである。双方向性の強いメディアとそうでないメディアが混在するのが現在のメディア環境である。

呉座騒動とメディア特性

低双方向性のメディアの動きを追う

なぜこういったややこしい事態になったのか?という観点を考えていくにおいて、騒動初期のWebメディアや声明等の動きを追ってみたい。

以下、呉座氏と北村氏の和解以前の部分について、発見したものを列挙する。

2021/03/23
毎日新聞
大河ドラマ時代考証の呉座勇一氏が降板 SNSで女性学者を中傷

2021/3/24
毎日新聞
SNSで女性研究者を中傷 呉座勇一助教を日文研が注意

2021/03/24
Yahoo!ニュース 共同通信
呉座さんが大河の時代考証降板 22年、不適切投稿で申し出

2021/03/23
産経新聞
「鎌倉殿の13人」時代考証の呉座勇一氏が降板

2021/03/23
東京新聞
来年のNHK大河「鎌倉殿の13人」時代考証の呉座勇一氏が降板 SNSで女性に「誹謗中傷」

2021/03/23
スポニチアネックス
来年NHK大河「鎌倉殿の13人」時代考証・呉座勇一氏が降板 ツイッターに不適切投稿 自ら降板申し出

2021/03/23
デイリー
大河ドラマ降板の呉座勇一氏が女性学者への誹謗中傷を謝罪

2021/03/24
国際日本文化研究センター 国際日本文化研究センター教員の不適切発言について

2021/03/24
京都新聞
日文研が呉座助教の不適切発言謝罪 女性研究者おとしめるツイート

2021/03/24
読売新聞
歴史学者の呉座勇一氏が女性研究者中傷、所属の国際日本文化研究センターが謝罪

2021/03/25
ビジネスジャーナル
“人気歴史学者”呉座勇一氏、他にも女性中傷投稿…影響はNHK大河のみに収まらず

2021/03/26
アゴラ 與那覇潤 
呉座勇一氏のNHK大河ドラマ降板を憂う 「実証史学ブーム」滅亡の意味

2021/03/28
デイリー新潮
女性蔑視投稿で炎上の呉座勇一氏 知人は「彼は食事中もスマホを手放さないSNS中毒」

2021/03/29
論座 勝部元気 
呉座勇一氏が溺れた「フェミ・リベラル叩き」というマノスフィアの“沼”女性を見下す快感を求めて肥大するネット内ボーイズクラブ

2021/04/01
文春オンライン 西澤千央
「匿名で悪口スクショが続々と…」呉座勇一氏“中傷投稿”問題、渦中の北村紗衣氏が語る顛末 武蔵大学准教授・北村紗衣氏インタビュー

2021/04/02
文春オンライン 西澤千央 
自分を責める気持ちが湧いてきて…呉座勇一氏“中傷投稿”問題、北村紗衣氏が語る「二次加害の重み」 武蔵大学准教授・北村紗衣氏インタビュー #2


2021/04/02
日本歴史学協会 歴史研究者による深刻なハラスメント行為を憂慮し、再発防止に向けて取り組みます(声明)

2022/04/02 15:47
弁護士ドットコム
呉座勇一氏の中傷ツイート問題、歴史学協会がハラスメント防止の声明 「連鎖を断ち切る」

2021/04/03
ハーバービジネスオンライン 藤崎剛人 
呉座勇一「炎上」事件で考える、歴史家が歴史修正主義者になってしまうということ


2021/04/06
日刊スポーツ
呉座勇一氏ツイッターアカウント1週間後に削除へ 不適切投稿を改めて謝罪

2021/04/09 
ダイヤモンドオンライン 鎌田和歌
ツイッターは今や「2ちゃんねる」!気鋭の歴史学者も陥ったエコーチェンバーとは

2021/04/19 日刊SPA!
倉山満 いざというとき、男は女を守らねばならぬ。何が悪い?

2021/04/19
デイリーウイルオンライン 兵頭新児 
呉座勇一氏「炎上」:人の感情まで糾弾する「ミソジニー」(女性嫌悪)論の矛盾

2021/05/27
後藤 和智 知識人「言論男社会」の深すぎる闇…「呉座勇一事件」の背景にあったもの


メディアの取材は十分であったか?

3月23日以降に事件を知った人に、十分な情報提供がされているか?というと、些か頼りないメディアが多くはないだろうかと感じる。

タイトルもかなり扇動的なものがいくつかあるし、内容も一方の当事者の言をベースに構成されたインタビュー記事もある。

4月10日前後を仮に設定して考えてみると、それなりに検索慣れしている人であっても、同件に関して、十分に情報を知ることは殆んど不可能であった可能性は高い。

4月2日の日本歴史学協会の声明を受けての、同日に出た弁護士ドットコムの記事は、些か早すぎるようにも思う。  

あくまで印象ではあるが、スポーツ紙が案外冷静な目で報じているようにも思えてくる。

オープンレターの論の詭弁性に違和感をもてなかったら、メディア論調の主だったところに流されてしまいやすい情報環境ではあっただろう。

2021年春~夏頃まで「呉座非難」「呉座擁護者非難」「オープンレター批判者非難」が、激しさを増していったのは、こういったWebメディアの情況が下支えしていた部分もあると考える次第。

 


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