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僕たちはあの日、見えない花火の音をずっと聞いていた③

地図アプリを開いてすけは硬直する


会場まで40分、、?


え?、、最寄駅でこんなに遠い?


すけ「ごめん、、なんか会場までちょっと歩かなきゃいけないっぽい」


みなみ「え、そうなの?」


すけ「うん、、調べ不足だった、ごめん」


みなみ「ぜんぜんいいよ、ちょっと歩こうよ」


よかった
彼女が寛容な子で本当に助かった
途中からでも花火が見れればきっと満足してくれる

そんな呑気な甘いことを考えていた


がこれが地獄の始まり

ここでもっと慎重に判断すべきであった


後日よくよく調べてみると花火大会の会場へのアクセスは待ち合わせた「岡崎駅」ではなく「東岡崎駅」

このタイミングで岡崎駅から東岡崎駅へ電車で移動するべきだった

しかし、岡崎駅から会場まで歩くという選択をしてしまった


戻るならここしかなかったのに

しかし、二人は歩き出す



この道中も退屈させないように全力で笑わせにいかないと
すけは地図アプリで経路を確認しながら彼女との会話にも神経を払った

すけ「まぁ2万発もあるんだし、間に合うっしょ」


みなみ「そうですよね」


すけ「でも35発目の花火、俺の作品なんで、ぜひ見てほしいですわ」


みなみ「すけさん花火師だったんですか?笑」


すけ「こういう大きい大会だけ片手間でやってんだ てやんでぇばぁろぉ」


みなみ「いつもそんなふざけてるんですか?笑」


すけ「ふざけてねぃやい、いつだって真剣でぃ」


焦りを隠すように道化を演じた



しかし、その集中力も会話も30分とは持たず、次第に沈黙が目立つようになる


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どーーんっ


すけ「、、っ?」
みなみ「、、っ」


沈黙をつんざくように遠くで花火の音

ついに花火が始まってしまったようだ


すけ「始まっちゃった、、急ごう」


相手は浴衣で下駄を履いているのだ

配慮を欠いた発言だった




さらに運の悪いことに
ここですけの方向音痴発動

なぜか地図アプリで突っ切ることができるはずだった道が通れない


すけ「あれ?道間違えたかな」


みなみ「……」


彼女は頻りに足を気にしていた


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すけは混乱状態

わけもわからず自分を攻撃しそうだった

ここまで追い詰められると封印していたはずの豆腐メンタルまで発動

もういつものように会話を展開させられる精神状態ではなかった


すけ「お母さんのお腹にいた時の記憶ってある?」


みなみ「え、覚えてないです笑」



意味不明な話を振ってしまう
会話の精細を大きく大きく欠いた




焦る

道ワカラナイ

会場に近付いてる気がしない

彼女の反応薄くなる

焦る

道ワカラナイ


完全に負のスパイラルに突入


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遠くの会場からは花火が連続で上がる音が聞こえてくる
会場の盛り上がりは最高潮


しかしここから花火は見えない


花火音が盛り上げるに反比例するように彼女のテンションは下がる


それはそうだ
浴衣用の下駄は長距離歩くようにできていない


次第に疲労と空腹が重なり
ついに彼女の反応は「うん」と「そだね」だけになった


すけ「疲れたね、ちょっと休憩する?」


みなみ「……大丈夫」



そして

どーーーん


今でも忘れることができない

最後の花火が鳴る音が…した


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駅の改札前


すけ「今日はほんとごめん」


みなみ「ううん、それじゃまた」



彼女は足早に立ち去る
呆気ないお別れだった


彼女が見えなくなるまで見送ったが、彼女からこちらを振り返ることは一度たりともなかった


そしてすけは気づいた


彼女が持っていた紙袋
プレゼントされるはずだった焼き菓子


ついぞ会話にでることすらなかった

最後まで渡されることはなかった


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吉野家へ一人入店する

すけ「牛丼並ひとつ、、」


牛丼を注文
こんな敗戦の後も腹は減る
ごくっごくっと出された水を飲み干す



自分が情けなさ過ぎて泣き出しそうだった

完全に勝てる試合で負けた
奢り、過信、怠惰、その全てがこの結果を招いた

相手にも本当に申し訳ないことをした

準備にどれだけ時間がかかっただろう
こんなに楽しみにしてきてくれていたというのに、ついぞ花火を見ることすらかなわず
史上最低のデートにしてしまった


嫌われて当然



もう二度とこんな負け方していてはだめだ
一つ一つの試合に全力を尽くそう

提供された牛丼をかきこむすけ

なぜかいつもより塩味が濃かった






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