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Fake it till make it を本気で実現しようとしたミレニアル詐欺師を描いた『令嬢アンナの真実』。ドラマ化により「真実は小説よりも奇なり」を具現化したが、真実の追求というよりも、ニューヨークが抱えるすべての問題を集約したような内容だった。


真実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだなあ、と言うのが観終わった後直後の感想。Netflix『Inventing Anna(邦題:令嬢アンナの真実)』全9話をビンジで観た。冒頭で、“This whole story is completely true, except for all the parts that are totally made up(完全に作り上げられている部分以外、このストーリー全体はまったくの真実です)” と述べられている通り、フィクションが混じりすぎているから、逆にそういう印象を受けたのかもしれない。


まず、このドラマの主人公、アナ・デルヴェイ(日本のメディアでは、“アンナ“と呼んでいるようだが、ドラマでは明瞭に“アナ“と発音しているので、ここではアナで統一することにする)、に関して知らない人もいるかと思うので簡単に説明する。

アナ・デルヴェイ、本名アナ・ソロキンは、ニューヨークで自身を富豪令嬢と名乗り、マンハッタンのセレブやエリート達を相手に詐欺を働いた人物。25歳になったら、6千万ユーロの信託財産が入ってくると人々を信じ込ませ、ホテルの滞在費未払いや、プライベートジェットの費用踏み倒し、そして自身のビジネス、Anna Delvey Foundation (ADF、アナ・デルヴェイ財団)設立における融資調達のための書類偽装や友人からの多額の借金などを次々に行った。2017年に逮捕、2019年に陪審員判決により、8件の窃盗罪や重窃盗罪などで有罪となり、4年から12年の実刑を受けた。


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アナ・デルヴェイ(ジュリア・ガーナ―)


アナが逮捕された時、彼女は“Soho Grifter(ソーホー・グリフター)”と呼ばれ、イギリスでも随分と話題となった。詐欺事件は世界中で常に多発しているし、特に新しい手口という訳でもないのに、何故この人物がこんなに脚光を浴びたのか。それは、欺いた相手が有名人を含むセレブリティだったこと、、シティ・ナショナル・バンクやフォートレス投資銀行を含む大手銀行を巻き込んだこと、そしてなによりも、その華やかなライフスタイルがインスタグラムなどのソーシャルメディアを通じて世界中に発信されていたことが理由として挙げられるだろう。

アナ・デルヴェイのインスタグラム


Netflix『Inventing Anna(令嬢アンナの真実)』では、全9話を通して、一体このアナ・ソロキンという人物は何者なのか、どのような方法でセレブやエリートなどが集まる上級社会に入り込み、どのような方法で彼らを騙しては巨額の富を自身のものにしていったのか、そして、彼女をそのような行動に掻き立てたのは何が原因だったのか、その生い立ちも含めて事件の全貌を明らかにしていく...、かと思ったら、何も明らかにはなっていなかった!!!

という、残念な内容だったことを先に伝えておきたい。

ドラマの原作となったのは、ニューヨーク・マガジンが2018年に掲載した『How Anna Delvey Tricked New York’s Party People』という記事。ジャーナリストのジェシカ・プレスラーがニューヨーク郊外のライカ―・アイランド刑務所で服役中のアナを何度も訪ね、インタビューを交わし、関わった人物からも様々な話を聞いて、実際に誰に何が起こったのかをまとめたものだ。

元記事となった、『How Anna Delvey Tricked New York’s Party People』 by Jessica Pressler。プレスラーは同ドラマでエグゼクティブプロデューサーと脚本を担当している。


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ジェシカ・プレスラー(本人)

今回の私の記事では、アナ・ソロキンがどのように人々を騙していき、結果どのような事態を招いたのかを、Netflixのドラマから私が学んだことだけに焦点を当てている。ドラマでは2つの時間軸がパラレルに展開されており、少しわかりにくいところもあったかと思うので、ここでは、関わった人間ごとに記事をまとめてみた。

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ドラマは、マンハッタン・マガジンの記者、ヴィヴィアン・ケントが詐欺罪で逮捕されたアナ・ソロキンに非常に深く興味を持ったことから始まる。ヴィヴィアンは、このドラマの元になった記事を書いた、先述のニューヨーク・マガジンのジェシカ・プレスラーをモデルにしている。ヴィヴィアンは実は以前に取材・執筆した別の記事が、事実に反する内容であったため、ジャーナリストとして最悪だというレッテルを貼られていた。つまり、ヴィヴィアンが、妊娠後期の身重であるにも関わらず、ジャーナリストとして名誉挽回を図るためには、この“Soho Grifter”の全容を明るみにすることが重要だったのである。上司にアナ・ソロキンについて調査し、記事にしたいと申しでる。上司は単なる詐欺事件との受け取り方で、そのような記事に時間を割くのを拒むが、2週間で記事を書き上げるということを条件にヴィヴィアンに機会を与える。ヴィヴィアンはまず、アナが服役しているライカ―・アイランドの刑務所へ話を聞きに行く。

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アナ本人をはじめ、彼女に関わった人物たちをたぐり寄せ、彼らにもインタビューをするという形で取材を進めるヴィヴィアン。ドラマでは、彼らがアナについて語りだすとその過去の回想が映像で再現されるというように、2つの時間軸を同時進行で追う。

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2013年にニューヨークへ降り立ったアナは、パリのパープル・マガジンでインターンとして働いていた伝手をきっかけに上流階級社会に潜り込む。この頃から名字をソロキンからデルヴェイと変え、自分をドイツの資産家継嗣であると触れ回る。25歳になったら、6,000万ユーロの信託財産が入ってくると豪語し、父親は、外交官、石油幹部、ソーラーエネルギー会社経営、またはアンティーク商などとその都度でっち上げては、エリートやセレブとの交流を深めていった。

2017年に逮捕された後、アナは裁判所にて司法取引を打診される。しかし、裁判が行われなければ、アナが再びメディアに登場することもなくなり、ヴィヴィアンにとって、彼女がこれから執筆しようとしている記事の重要性ががなくなる。そこでヴィヴィアンは、「このまま司法取引をすれば、一生“ただの成りそこないの詐欺師“というレッテルを貼られるだけだ」とアナを説得し、彼女の書く記事ですべてを語ることによって、アナの欲しいもの、すなわち、「アナを有名にする」という事を約束。アナは司法取引を拒否し、裁判に持ち込むことを決意する。

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「ヴィヴィアン、あなた妊娠しているの?それともただ太っているだけ?」「何でそんな服着てるの?貧乏に見えるような服を」。面会当初から、横柄かつ高圧な態度のアナ。




ヴィヴィアンは、アナのインスタグラムの投稿を元にその交友関係を突き止め、個々人にインタビューを行う。ドラマ内では、ヴィヴィアンがインタビューをしている現在と、インタビューの内容の過去(回想)が同時進行し、イベントごとにインタビューされている側も複数回登場するのだが、ここでは、それぞれの個人に絞ってまとめてみた。

ボーイフレンドのチェイス

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アナがニューヨークに到着後、2013年から約2年間付き合っていた。TEDトークなどを通して、自身が開発したアプリ “Wake”を成功させようとしているスタートアップ起業家。アナと交際中は、様々な上流階級たちと交流する。イビザ島でのセレブとの交流中、アナの口添えもあり、IT業界大物ヘンリック・ナイトから10万ドルの投資の確約をとりつける。しかし、ゲストの一人がアナのアクセントから、「ロシア人だと思った」と発言したことから、チェイスはアナに疑問を持ち始める。イビザ滞在後に、二人はフランスに移動して、パリ・ファッションウイークでスタイリストのヴァル(後述)と合流。しかしここで、アナと大喧嘩をし、チェイスはアナを置き去りにする。そして、ヴァルに連絡し、アナのパスポートをチェックするように命令するが、ヴァルは断る。その夜、アナのカードが承認されず、滞在していた部屋の支払いがなされていなかった為、ヴァルとアナはホテルマネージャーから部屋を追い出される。結局チェイスが支払いを済ませたが、ヴァルは、疑心暗鬼になり、アナのパスポートを盗み見てしまう。チェイスとアナは仲直りをしたが、アナがショッピングに行っている間にヴァルはチェイスに頼まれていたことを報告する。確かにドイツのパスポートだが、出生地はモスクワ郊外で、姓はデルヴェイではなく、ソロキンであると。しかし、チェイスはヴァルがアナのパスポートを盗み見たことをアナに暴露し、ヴァルはチェイスから頼まれたからやっただけだ、と弁明したが、激怒したアナはヴァルとこれ以来会うことはなかった。その後、チェイスは、2015年シリコンバレーから3万ドルの投資を受けるが、“Wake”の社員の給料も未払いのまま、8か月後にいなくなる。アナはチェイスのインスタグラムから、実家のオハイオに身を隠していることを知り、事情を知るために訪ねるが、資金運営がうまくいかず(チェイスはアナのライフスタイルを維持するのに消費したとも)、金はすべて使ってしまったと告げられる。アナは資産家のノラ(後述)がチェイスの人脈を広げるのを助け、自分が取り残されていることに不満を感じていたため、チェイスが実質破産していることをノラに密告する。アナにもノラにも見放されたチェイスは姿を消す。ヴィヴィアンはチェイスがドバイにいることを突き止め、インタビューを試みる。当初はインタビューを拒んでいたが、チェイス側からのコメントがなければ、他の人のインタビューのみでチェイスの人物像を語らなければならなくなり、それはチェイスにとっても得策ではない、と説得し、実名ではなく、「フューチャリスト」という名前で記事に登場するという条件でアナとの関係を語る。



タリア・マラー

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アートギャラリーのオークションでアナに出会う。アナのアートに関する知識に感服し、友人になる。ある日、タリアがIT業界大物ヘンリック・ナイトとイビザにいるところをアナがインスタグラムで発見し、チェイスはヘンリックに自分のビジネス“Wake”に投資して欲しいがために、実はアメリカの自宅にいるにも関わらず、自分たちもイビザにいると連絡する。タリアは大急ぎでスペインへ飛んだアナとチェイスをプライベート・ヨットへ招待する。チェイスはアナの助けをかりて、なんとか10万ドルの投資の約束を取り付ける。しかし、タリアを含むすべてのゲストが下船した後、タリアはヘンリックより、アナとチェイスがまだ船に残っており、困っているとの連絡を受ける。1週間も無銭滞在した船の賃貸料とその間のスタッフの給料などはテスラ1台分だった。それ以来アナとは口をきいていない。

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タリアはアナにすぐに船を降りるように叱責する。


ファッション・スタイリストのヴァル

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とあるパーティでアナと出会い、友人になる。様々なファッションショーやパーティに同席した。パリ・ファッションウイークにて、アナと滞在していたホテルでアナのクレジット・カードが不履行になり、支払いが出来なかったため、二人してホテルを追い出される。最終的にはチェイスが支払いを済ませたが、アナの支払いカードがことごとく拒否されたことを受けて、チェイスからアナのパスポートをチェックするように言われたことを行動に移す。そして、生まれがモスクワ郊外だという事、姓はデルヴェイではなく、ソロキンであることを知る。チェイスにそのことを伝えるが、チェイスはヴァルがアナのパスポートを盗み見たことをアナに暴露し、ヴァルはチェイスから頼まれたからやっただけだ、と弁明したが、激怒したアナはヴァルと絶交する。



慈善家で社交家のノラ・ラドフォード

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ファッション界で成功し、財界人や著名人などとも親交が深かったノラは、ヴァルを通してアナと知り合う。ヴァルをスタイリストとして雇い、一緒に住んでいた。アナとチェイスもノラの自宅に泊まっていた。当初はチェイスのビジネス“Wake”をサポートするため、IT業界業界の知り合いなどを紹介していたが、チェイスが実は破産していることをアナから聞き、代わりにアナを社交パーティーなどに連れ出すようになる。アナのメンター的役割なども務め、アナが設立しようとしている Anna Delvey Foundation(ADF)を様々なビジネス関係者達に紹介する。アナはこのノラの人脈を通して、信用ある人々と知り合うようになり、最終的にはADFに関わるトップの人脈を築く。アナは、ノラの友人達との会話の中で、マンハッタンの22番地に位置する281 パーク・アベニューが賃貸に出たことを知る。しかし、当初ノラは、アナを小間使いのように扱い、自分のクレジットカードをアナに渡して買い物代行をさせたり、支払いに行かせたりしていた。ある夜、パーティから戻ると、ノラは、銀行から”不審な出費”があるとの連絡を受ける。その様子を見ていたアナは、その夜ノラの家を出て行く。実はアナは預かっていたノラのカードで、4万ドルも自分のショッピングに使っていた。ノラは警察には通報しなかった。ファイナンスはプライベートで公開したくなかったし、なによりも騙されたなんて恥ずかしくて人には言えないからだ。

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ノラはアナに、ニューヨークで活躍する人々を紹介する。


不動産弁護士のアラン・リード: 

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Anna Delvey Foundation (ADF、アナ・デルヴェイ財団)設立のための資金を調達するのに、投資銀行を説得した人物。当初は、アナの資産がすべてヨーロッパにあり、アメリカに資本がないこと、ホスピタリティの経験がないことから、一緒に仕事をするのを断っていたが、ADF設立のための、アナの主催するパーティで、ビジネス業界の著名人たちに会い、段々とアナを信頼していく。アナは、家族の財産管理を行っている、ドイツに住むピーター・ ヘネケーという人物をアランに紹介し、連絡を取らせる。幾度となくなされたピーターとの電話会話で、”25歳になったら入ってくるアナの信託財産6,000万ユーロ”が確実なものであると確信したアランは、アナとのビジネスパートナーシップにサインする。彼らは、281 パーク・アベニューの物件賃貸料、リノベーション代諸々で$40ミリオンを調達しなければならない。アランは、シティ・ナショナル・バンク(CNB)とフォートレス・インベスメント・グループの説得に取り掛かる。しかし、フォートレスは、アナの調査のために10万ドルが必要だと言い、CNBは、融資の為に提出した(虚偽の)書類に信頼性がないことなどが原因で、作業が滞っている。一方ピーター・ ヘネケーは、アランの報酬をトランスファーで支払ったと言うが、アランの元には届いていない。憤るアナは、時間がかかり過ぎると、281 パーク・アベニューの物件が誰かの手に渡ってしまうとアランに当たり散らす。アランはCNBに対して、アナのプロジェクトには様々なビッグネームが関わっていることを強調、2つの銀行がADFへの融資に競合していることを示唆して、辛抱強く説得。遂に、CNBはアナに口座を開くことを認め、当座貸越施すなわちデポジットとして、20万ドルを用意した。その後、アナが友人達とモロッコ旅行中に、フォートレスもADFへの融資を決定したことをアナに報告する。喜ぶアナ。しかし条件があった。フォートレスは、アナの資産を再確認するため、翌週にでも担当者をドイツに送り、アナの父親、銀行などと対面で話し合いたいとのことだった。アランはアナにただの形式的だよ、おめでとう、と言う。アナは、それが実現しないことを知っている。つまり、アナにとって期待していたフォートレスからの融資は無くなったも同然だった。ヴィヴィアンは、ピーター・ ヘネケーからもインタビューを得るべく、何度も電話を掛けるがすぐ留守電につながってしまう。この家族の財産管理を行っている、ドイツに住む男性はいったい何者なのか。実は、アナは、自分の携帯にドイツの電話番号で登録したヴァーチャル・シム・カードをダウンロードし、ヴォイスチェンジャー・アプリで男性の声を装っていたのだった。つまり、アランが会話をしていた相手はアナだったのだ。もちろん、ピーター・ ヘネケーから提出された書類もアナが作成した偽造だった。ピーター・ ヘネケーは存在しなかったのである。

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アナ・デルヴェイ財団をニューヨークのエリートたちに紹介するために、自らパーティを開催した。アランはここで多くのビジネスパーソンと会話をし、アナへの確信を深めていく。


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アナはネブラスカ州のオマハで行われたビジネス・コンフェレンスに出席するために、プライベート・ジェットを調達する。自分はジェット会社Bladeの CEOの友人だと言い、支払い方法を一切提示せず、さっそうと飛行機に乗り込んだ。費用3万5千ドルは、Deutsche Bankから送金するという偽の確約書を作成していた。


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アナ・デルヴェイ財団設立に関わった著名ビジネスマン達。建築家、ホテルプロデューサー、高級料理店のヘッドシェフなどが、アナのビジネスパートナーとなった。


12 George ホテルのコンシェルジュ、ネフ

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アナが1か月半滞在していたニューヨークの高級ホテルで働いているが、実は映画プロデューサーになるのが夢。アナはホテルオーナー、エイビー・ローゼンの知り合いだとネフには告げていた。宿泊していたスイートは1泊1400ドル。荷物を運んだり、小さな使いをするだけでホテルのスタッフに毎回100ドルのチップを渡すアナのことを本物の富豪だと信じていた。受付に他の宿泊客の長い列が出来ていても、アナはネフに高額なチップを渡し、自分の用事を優先させるようにする。後に二人は仲良くなり、ネフはアナのプライベートな世話なども引き受けるようになる。アナのスケジュールを管理し、ホテルのコンシェルジュという仕事を通して、ニューヨーク中で毎夜のように開催されるすべての社交パーティやビジネス・ディナーなどのゲストリストにアナの名前を載せ、マネージメント的な役割も果たす。ある日二人は高級レストランで食事をするが、アナの支払いカードが使えず、ネフが食事代を払う。同時に、ホテルのマネージャーから、アナから宿泊代や食事代もろもろで3万ドルの支払いが一切されていないことを知る。しかもホテルオーナー、アビ・ローゼンはアナとは全く面識がないことが分かり、ネフはアナを詰問する。最終的にアナはホテルの支払いを完納して、12 George ホテルを去る。そして、ネフに借りていたディナー代を返す。


パーソナル・トレーナーのレイシー・デューク

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ボディ&ソウルのマインドフルネスを指導する、セレブリティ御用達のパーソナル・トレーナー。アナもクライアントの一人だった。プライベートでもアナと親交を持つようになり、レイチェル(後述)と共にアナのモロッコ旅行に同行する。しかし到着してすぐに食中毒となり、体調を崩したため、途中でニューヨークへ戻る。その後、アナからモロッコで盗難にあったため現金の持ち合わせがない、と電話を受け、帰りの飛行機のチケットを用意する。モロッコから戻ったアナだが、滞在していたホテルの宿泊費未払いが原因で追い出され、ケイシーのマンションを訪ねる。ケイシーは渋々アンナを泊めるが、態度が横柄だったため、それ以降にアナが訪ねてきても宿泊を断る。同時にレイチェルにレイシーが去った後、モロッコで起こったことの話(後述)を聞く。

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レイチェル、ケイシー、アナ、ネフの4人は、アナの支払いで、レストランやバー、パーティに加え、スパやネイル、サウナなど贅沢な時間を共に過ごした。


ヴァニティ・フェアのフォト・ジャーナリスト、レイチェル・ウイリアムス

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アナの親友。アナの支払いで、一緒にパーティへ出向き、高級レストランやバーを楽しみ、スパやヘアーサロンなどにも同行していた。ある日、アナからモロッコ旅行に招待される。アナ、レイチェル、レイシー、そして今回の旅行をドキュメンタリーにするために同行したビデオカメラマン、ノアの4人はマラケシュの豪華リゾートLa Mamouniaに宿泊する。このリゾート滞在中、アナはなんどもホテルのマネージメントに呼び出される。実は支払い用のカード承認がなされてないのだ。レイシーは到着してすぐに食中毒になってしまい体調を崩したため、先にニューヨークへ戻る。ある朝アナとレイチェルが朝食をとっていると、ホテルセキュリティーがやってきて有効なカードの提示を要求する。アナとホテル側が言い合いになり、怖くなったレイチェルは、「父親からの海外送金が今夜にでも到着する」というアナの言葉を信じて、自分のクレジットカードを“保証“としてホテルに渡してしまう。その後、イヴサンローランのガーデンへ観光に行くが、ここでもアナのカードは使えない。ガーデンの入場料とガイド料、併せて2000ドルを支払わないといけないが、アナの海外送金はまだ届いておらず、レイチェルのカードはホテルに預けたままで支払い方法が無い。結局、レイチェルはホテルに戻り、会社のカードを(保証として)預け、自分のカードを持ってガーデンへ戻り支払いを済ませる。一部始終を見ていたノアは、これ以上、モロッコにいることは出来ないと判断し、レイチェルを説得して、二人はアナを置いて、ニューヨークへ戻る。帰国後、レイチェルの元に届いた支払い明細は、ホテルの宿泊費に加えて設備利用費、食費などもろもろで6万2千ドル。会社にばれれば、首になるどころか、住居も失ってしまう。レイチェルは何度もアナに連絡するが、電話をかけても留守電につながるだけ、テキストやEメールでも送金に時間がかかってるという返事しかなかった。最終的にアンナは5千ドルをレイチェルに返したが、結局は出費をカバーすることができず、会社にばれてしまう。

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マラケシュの豪華リゾートLa Mamounia。彼らが滞在したのは1泊7000ドルの、クロエ・カーダシアンがインスタグラムに投稿していたスイートだ。

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イヴサンローランのガーデンで、2000ドルを支払うため、カード会社にかけあうレイチェル

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このレイチェルに関する話はすべて、ヴィヴィアンがレイシーとノアから聞いた話を合わせたものだった。モロッコでのレイチェルに起こった出来事の信ぴょう性を確実にするにはレイチェル本人から、話を聞く必要がある。ヴィヴィアンは、レイチェルに何度も電話をかけ、留守電を残し、インタビューを取り付けようとするが、レイチェルは一切応じない。インスタグラムやツイッター、スナップチャットなど、すべてのソーシャルメディア・アカウントもチェックしたが、全く更新されておらず、完全に隠れてしまっているようだった。

しかし...、ヴィヴィアンの記事が完成する前に、なんとレイチェルは、自分に起こったことを、ヴァニティ・フェア誌に、エッセイとして寄稿し、出版してしまったのだ。これで、レイチェルがヴィヴィアンのインタビューを避けていた理由が分かった。ヴィヴィアンは上司から、先を越されたことについて詰責されるが、「レイチェルはそもそもジャーナリストでもライターでもないし、アナが実際に掛け合った銀行や法曹界については何も知らない。私が書こうとしているのは、21世紀のアメリカン・ドリーム詐欺で、理想主義の盗用、女性の野心への足枷なのよ。何故このような詐欺文化がニューヨークに蔓延するのか、私の記事にはもっと伝えるべきものが含まれているわ」と反論する。上司はとりあえず記事を終わらせるようにヴィヴィアンに言う。

その後ヴィヴィアンは、アナと、レイチェルの間にレイシーが入り’調停’が行われていたことを知り、レイシーの元を訪ねる。

モロッコから戻ったアナは、レイチェルとケイシーに呼び出される。レイチェルは、建て替えたお金を返して欲しいと涙ながらに訴える。「3か月!3か月よ、アナ!」。ケイシーも何がどうなっているのか、説明するようにアナに言うが、「何ドラマチックになってんのよ。海外送金が振り込まれたらすぐに払うって言ってるでしょ!私はもっと大きなスケールのビジネスを抱えているの。これくらいのことでぐちぐち言わないで」と反論する。ケイシーは「信託財産はいったいどうなっているの?お父さんに頼めないの?何が起こっているのか、本当のことを話して欲しいの」とアナを諭すが、「クレジットカードの請求がなんだっていうのよ。あなたたちみたいな凡人は相手にしてられないの。私のビジネスにはもっと重要な人たちが絡んでいる。281 パーク・アベニューのあの建物が私のものになるのよ」とアナは返す。ケイシーは、ゆっくりと携帯を取り出し、開いたページを見せる。「あなたのビジネスはもうないわよ。281 パーク・アベニューは他の人が借りることになったわ」と言って、スウェーデンのフォトグラフィー機構が、281 パーク・アベニューの賃貸主になったというニュースをアナに見せる。どうやらアナはこの事実を知らなかったようでひどく動揺しているが「フェイクニュースよ!」と吐き捨てて、彼らの前から逃げ去る。

ケイシーは、ここまでヴィヴィアンに話すと、レイチェルが自分の出来事をヴァニティ・フェア誌に暴露したことも相まって、「あの子たちは有害この上ないわ。自分はもうこのストーリーには関わりたくない、あなたの記事にも登場したくない。他のクライアントに否定的にとられるのも嫌だし、アナ・デルヴェイとそのカオスはもうたくさんだわ」。

ヴィヴィアンは、記事を書き上げるが、同時に破水してしまう。ケイシー問題が残っており、彼女の証言無しでは記事は完成しない。ケイシーに電話し、身元がばれないように、’トレーナー’という名前で、証言を使用することを同意させた。

ヴィヴィアンは女児を出産。同時に記事が出版される。

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ヴィヴィアンの書いた記事は、あっという間に話題となり、TV番組では特集が組まれ、他のメディアもアナ・デルヴェイの正体を追う事となった。


ヴィヴィアンは出来上がった記事を持って、刑務所内のアナに会いに行く。アナは一読した後、にやりと笑って「私はこれで有名ね」と言い、「あなたはもっと本物のジャーナリストだと思っていたわ」と続ける。「私はこの記事の為に、調査、インタビュー、ファクトチェックに何百時間も費やしたの」と言い返すヴィヴィアンだが、アナは、「もし私の周りの人がちゃんと仕事ができていれば、私の信託は承認されて、私は今頃パーク・アベニューに座っているはずだった。これが事実よ。私はシリアスな人間なの。それなのに、あなたは私がすべてをでっち上げたと言い、嘘つきにしてしまってる」と。ヴィヴィアンは「なぜならあなたは嘘つきだからよ。信託なんて初めから無かったし、父親はソーラー会社なんか経営してない。相続するものもなければ、富もない。もちろんアート・コレクションも。アナ、目を覚ましなさい。もうフリをするのは止めるのよ」と諭し「そんなに自分にお金が入ってきて、絶対に成功するという確信があったなら、何故LAであんなことをしたの?」と訊く。アナは「何のこと言ってるか分からないけど、何百時間もリサーチに費やした割には、私の事何も知らないのね」と言って面会室を出ていく。

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そのLAで起こった事とは...。

アナは、ケイシーとレイチェルの’調停’から逃げた後、複数のホテルの滞在費を払わなかったのが原因で、警察に通報、逮捕されていた。弁護士トッド・スポデックを雇い、保釈されるが、第一回目の審査会をすっぽかし、判事から逮捕状を召喚されていた。アナは審査会へ出席する代わりに、小切手をすべて現金化し、カリフォルニアへ飛んでいたのだ。ここでも高級ホテルに滞在する。その夜、薬とワインを同時に過剰摂取し、部屋で倒れているところをホテルスタッフに発見され、病院へ運ばれる。

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ヴィヴィアンは、アナとの面会の後、何かが欠けていることを感じていた。まだ自分が知らないことがあるはずだ。そこで産休中にも関わらず、オフィスに行き、上司と会うことにする。上司はヴィヴィアンの記事が発行されてから2か月以上たっているにも関わらず、未だに爆発的に読まれているので上機嫌だった。「過去5年で一番話題になった記事だよ」と言い、「次のヴィヴィアンの記事はなんだ?エリザベス・ホームスを扱うべきだ、と言う人もいる」とまくし立てた。ヴィヴィアンは、「その次の記事についての相談なんだけど、実は書きたいことがあるの」と上司に申し出る。

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ヴィヴィアンはドイツの空港で通訳者と待ち合わせる。アナの生い立ちを調べ、両親を含む、当時を知っている人たちに話を訊くためだ。ヴィヴィアンは当時のアナとその周辺の状況を理解するには、ソビエト連邦崩壊とその直後のロシアの様子を理解する必要があると感じていた。

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ヴィヴィアンはドイツを訪れ、アナが住んでいたという家の前まで来たが、建物は取り壊されていた。


2006年、アナはドイツに到着する。父親は先にドイツで”事業”を起こしており、それが安定したので家族を引き寄せたのだった。実はソビエト連邦崩壊後、国家資産が崩れ、それを掴んだオリガーク達は、資産をヨーロッパの小さな町などに隠し持っていた。プーチンが大統領になったあと、ロシア国家から逃れて、国外脱出したものも多くいたが、アナの父親ヴァディムもその一人だった。アナは16歳でドイツの学校へ行くことになったが、言葉がうまく話せなかったため、常に孤独だった。父親の言う’過去を忘れて、明るい未来を建設する’ということを胸に刻んで生きてきたが、ドイツの自宅が無くなった後ーー一家が住んでいた’ヴィラ’はかつて化学工場があり、家が汚染されていた為、ヴァディムは家を取り壊さなければならなかったーー、父親は酒に溺れ、暴力を振るうようになった。アナは父親のそのような姿に失望すると同時に、ファッションに興味を持ち始める。ヴォーグ、ハーパース・バザー、ヴァニティ・フェアなどの雑誌を読みあさっては、そこに輝く未来を感じるようになった。学校へは、ファッションモデルさながらの服装で登校し、同級生の服をけなした。学校ではアナの父親は悪名高いギャングスタ―だという噂も流れ、誰もアナに近づこうとはしなかった。アナは孤立を極め、このドイツの小さな町から、学校の同級生たちから、そして父親から、逃れたいと思っていた。


ヴィヴィアンは、ドイツで見聞きした、アナに関する噂やゴシップを元に、最終的に話を訊くべきは、父親のヴァディムだと認める。ヴァディムは当初ヴィヴィアンを避けていたが、話をすることに同意する。「実際にお金がどこから来たのか、人々はあなたのことをいろいろと噂しています。オリガークなのか、マネーロンダリングをしているのか、もしくはギャングスタ―なのか...」。アナの母親は言う「私たちがここに越してきた時から、人々は噂ばかり。冷凍庫にコカインを入れて売っているとか、ゴールドを隠し持っているとか。そして今娘は犯罪者となりました。モンスターがモンスターを生んだと理解する方が簡単でしょう。私たちが子供をああいう風に育てたのだと。でも答えはNoです。子供たちはどこから’来た’のかではありません。何を’通って来た’かなのです。アナはいつも他人のようでした。あなたはアナのことを気にかけて心配しているのね。でももう忘れるべきよ。私たちがもう彼女を忘れてしまったように」。「自分の娘を忘れることなんてできるの?」というヴィヴィアンの問いに母親は答える。「いいえ。でもアナはいつも私たちを超えていたのです」。

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「アナは一緒に住んでいても。彼女の人生を通して、いつも冷たい他人のようでした」と語る母親。

ヴィヴィアンは、ここでドイツでの取材をやめることにする。書いたところで出版されるべき内容ではないと判断したからだ。

ニューヨークの自宅に戻ったヴィヴィアンは、アナの父親ヴァディムからの郵便物を受け取る。それは、以前アナがLAのホテルで自殺未遂を行った時の診断書だった。

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アナは薬とアルコールの過剰摂取により、LAのホテルで気を失って倒れた後、病院に運ばれていた。一命はとりとめ、眠りから目覚めると、精神科医より問診を受ける。アナは自分の生い立ちを話し出す。自殺や自傷行為の心配はないと判断した精神科医は、アナをマリブにある高級リハビリテーションセンターへ送ることにする。リハブとは言ってもここはLA、マリブにある高級リハビリテーションセンターだった。グループセラピーの途中で、アナはレイチェルより、自分も仕事でLAに来ているので、ランチでも一緒にどうか、という誘いの電話を受ける。退屈していたアナは嬉々として承知し、レイチェルに迎えを頼む。レイチェルから到着の電話を受け、同施設を出てきたところには、レイチェルではなく警察が待ち構えていた。レイチェルの誘いは実はおとり捜査ですべてがセットアップされたものだった。アナは逮捕される。

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マリブのリハブセンターでセルフィ―を撮るアナ。レイチェルはこれをインスタで見て、おとり捜査に協力することにする。

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ヴィヴィアンはヴァディムから送られて来たアナの診断書を持って、ライカーズ刑務所のアナに会いに行く。「この診断書には、父親はアル中であなたはそこから逃げようとしたと書いてあるわ。父親がミリオネアだという、あなたが話していた、アナ・デルヴェイのストーリーとは全く違っている。あなたは自殺未遂なんかしてない。ニューヨークで人を騙して、LAでも人を騙して、そして私をも騙そうとした。逃げるのだったら、単に隠れていればいいだけなのに、なぜLAに行ったのか?どうして自殺未遂を装うよな、面倒なことをするのかと考えた。そこで分かったことがあるわ。あなたは時間を買ったのよ。あなたのビザは切れかかっていた。自殺未遂を演じて、リハブに行けば時間を止めることができる」。

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裁判が始まる。アナは、重窃盗、重窃盗未遂、およびサービス窃盗の罪に問われている。弁護士のトッドは、開廷を前にアナの元を訪ね、各々の罪状に関する戦略を説明する。トッドはアナに言う。「すべては2つの言葉に集約される。つまり、”危険なほど近かった”かということ。君が、これらの犯罪にどれほど近かったかということだ。軽い罪状の方ーービークマンホテルやWホテルの未払い、プライベート・ジェットの盗用などーーーは証拠がしっかりしすぎていて、反論の余地がない。陪審員たちが全員、君に恋しないかぎり、勝ち目はない。しかし、フォートレス、シティ・ナショナル・バンク、レイチェル・ウィリアムスの重い罪状の方は、なんとかできる。つまり、これらの犯罪に関しては君は危険なほど近くにはいなかった、と反論することができる。アナは「それって私に能力がなかったと言っているわけ?私はビジネスを設立しようとしていたのよ?」「分かっている、でもここはビジネススクールの卒業試験ではない。最終的に君を自由にするのが僕の仕事だ。僕は君が、君のビジネスの為に得ようとしていたこれらの金には全く程遠かったことを証明しなくてはならない」。アナは納得できない。「ところで、法廷で着るモノなんだけど、考えているブランドがあるの。スタイリストをつけてよ」トッドは「法廷が準備した服を着るんだね。一番良いのは、謙虚に見えること。若くて、希望に満ちていたが金を得るにはとても及ばなかったという印象を与えるんだ」。

アナはネフに電話をし、セレブ御用達の有名スタイリスト、ナターシャを紹介してもらう。「私のレートは一日1200ドルだけど」とナターシャ。「もちろん大丈夫よ。父に送金させるわ。裁判には多くのマスコミからフォトグラファーが送られてくるわ。写真は私の残りの人生を決めることになる」。

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裁判初日。判事、検察、弁護人、傍聴人が開廷を待つが、アナが法廷に現れない。どうやら被告は、用意された服が気に入らないと言っているらしい。トッドは、アナの説得にかかる。「とにかく服を着るんだ」。どうやら、スタイリストのナターシャは、裁判所でなく、刑務所の方へ服を届けてしまったらしい。判事は怒っているし(「今まで開廷を待たされたことは何度かありましたが、着る服が原因なんて初めてですよ!」)、アナは絶対に動こうとしない。残された時間は30分、ヴィヴィアンはトッドに、服を買いに行くしかないわね、と言う。トッドは裁判所を出る訳にはいかないし、そもそも男の自分に何が分かる?と。ヴィヴィアンは、アナの側に立つことは、ジャーナリストとして非論理的だし、一戦は越えられないとしながらも、トッドに、今回の裁判において、すべての与えうる情報ーーアナの電話記録、Eメール、検察側の握っている証拠すべてーーにヴィヴィアンがアクセスできることを条件に、アナの服を買いに走る。

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服を着替えるように説得するトッド。囚人服の方がマシだと言うアナ。


しかし...、与えられた服を着て、さっそうと法廷内に入ったアナだったが、傍聴席には、マスコミどころか、傍聴人もいない状態だった。


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裁判を傍聴するヴィヴィアンとネフ。

口頭弁論:弁護側「フランク・シナトラは、タイムス・スクエアにパラマウント劇場をオープンしました。劇場に居た女性達は、シナトラを見るや否や、気絶してしまいました。失神してしまったのです。それを見ていた人たちはシナトラ効果だと信じました。しかし実際にはシナトラのPRエージェントが攻略的に作り上げたものであったのです。女性達は、失神することで、キスをすることで、ステージに衣服を投げ込むことで、金銭を享受していたのです。演出として、救急車や救急隊員なども劇場の外で待機していました。なぜこんなことをしたのか。それは、もしシナトラがニューヨークで成功すれば、世界中のどこででも成功できるからです。アナは、目を輝かせ、希望に胸を膨らませてニューヨークにやってきました。あなた方の何人かもそうだったように。誰もが小さな嘘をつきます。履歴書や販売トーク、もしくはソーシャルメディアなどで。人々は、ソーシャルメディアが世界を変えたと思っています。誰もがブランドになれるからです。アナにとっての真実は、シナトラにとっての真実でした。時に人々は、目的を達成する前提で、嘘をつくのです。つまり、アナは自分がなりたかった誰かを演じたのです。レッドカーペットに登場するようなニューヨークのエリート達を。アナは人々が信じたがったことを、人々に信じさせた、それだけのことです。シナトラがやったことが犯罪ではないのなら、アナがやったことも犯罪ではないはずです。アナの事をドイツの資産家の娘だと信じた人達は、そう信じたかっただけです。なぜなら、彼らにも利益があるからなのです。アナ・デルヴェイつまりドイツの資産家継嗣とビジネスをしたいからなのです。陪審員のみなさんはこれからたくさんの証拠や陳述を聞くことになります。でも心に留めておいてもらいたいのです。彼女がこれらのローンを得るのに、もしくは盗もうとしていることに、危険なほど近かったと言えるのか。

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法廷のアナと弁護士のトッド。

アナは、メディアやプレスが法廷に十分にいないのに不満を抱いていた。そこでネフは’annadelveycourtfashion'というアカウントをインスタグラムに作り、アナが法廷で着る服を写真と共に投稿しはじめた。ブランド名やセレブ御用達のスタイリストを明記して。’annadelveycourtfashion'はあっという間にフォロワー数を獲得し、メディアもアナの法廷ファッションを取り上げるようになった。


レイチェル・ウィリアムスの証言:大親友であったアナからひどいことをされました。私はアナが大好きだったし、信頼していました。それが突然、アナは最悪な人になってしまったのです。彼女の贅沢なライフスタイルにおける危機を脱出するために、私は会社のカードを使いました。そのせいで私は仕事を失い、さらには服役していたかもしれません。未だに恐れがありますし、傷つきやすくなってしまいました。これから私はどうやって人を信じて生きていけばよいのでしょう?また誰かを愛することができるのでしょうか?あの巨額の借金...。あの時のシーンが頭から離れません。そこで思ったのです。出来ることはただ一つ、何が起こったのかを書くこと。私のストーリーを自分自身の言葉で書くことが重要だと感じたのです。

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涙ながらに証言するレイチェルに陪審員は深く同情していた。

その夜、トッドはアナの父親ヴァディムに電話し、ヴァディム自らが法廷に出席することを懇願する。アナが錯乱状態であること、家族の一員の出席がマスコミ的にも効果があることを説くが、ヴァディムの答えはNoだった。

弁護側のレイチェル・ウィリアムスへの反対尋問:先日の証人喚問で、あなたはよい家庭で生まれ育ち、良い教育を受け、ニューヨークに来て3か月でドリームジョブに就くことができたと証言しました。おめでとうございます。私たちもあなたくらいラッキーだったら良かったんですけどね。あなたはアナと知り合う前から彼女のことを知っていましたか?「興味がありました。インスタグラムも見ていましたし。アート、旅行、パープル・マガジンの編集長も務めていたようですし」。アナと友人になった後、ドリンク代を支払ったことはありますか?「彼女が払わせませ・・」質問に答えてください。「覚えている限りではありません」。高級レストランやファイン・ダイニングでの度重なるディナーでは?「覚えている限りではありません」。スパやフェイシャル・トリートメントでは?サウナやマッサージ、ネイルサロン?「いいえ、アナはとても気前がよかったのです」。パーソナル・トレーナー代は?「いいえ」。これらのどれも支払ったことはないのですか?実際、アナと友人関係のあった2年間で一体いくつのものモノをアナはあなたに与えたのでしょう?「数?覚えていません」。ちゃんと記録を録っていなかったのですか?だったらどうやって本が書けるというのです?ところで、あなたは、あなたの親友であるアナが逮捕された際、NY警察に協力しましたか?「・・・しました。なぜならそれが私に残された唯一の・・・」だったら、なぜそれをヴァニティ・フェアの記事に書かなかったのです?「スペースがなかったのです」。アナとの強い結びつきや数知れないニューヨークでの外出、様々な詳細が書かれているのに、あのアナ逮捕のおとり捜査に関する一番ドラマティックな出来事に割くスペースがなかった?「スペースがありませんでした」。ムムム。アナとの出来事を本にするのに、いくら報酬をもらいましたか?「知りません。出版契約に関してはあまり理解していない・・・」。私は弁護士です。教えてあげましょう。ここに30万ドルと書いてあります。それに加えてテレビ番組契約料、これはいくらかな?「3万ドルくらいです」。そして、実際番組が作られた際はさらに30万ドルが支払われる。ということは、すべて合わせると、63万ドル。これもありましたね、ヴァニティ・フェアの記事が1200ドル。「私の証言がこのように扱われるのことを望んでいません。これは法規制であり、犯罪です。エンターテインメントではないのです」。あなたにとっては、エンターテインメントでしょう?「私にとってはトラウマです。人生で一番最悪のトラウマな経験だったのです」。理解します。しかし、あなたは、そのトラウマを3つの別々のメディアに売りましたよね。「それは間違いありませんが、私は本当に一生懸命努力したのです」。一生懸命努力したと言いますが、あなたは、彼女のコネクション、極端な寛大さから利益を得るために、アナ・ソロキンと親しくなろうと一生懸命努力した。それにも関わらず、たった一つの災難のあと、アナの逮捕の際、警察に手を貸すために一生懸命努力した。マリブのリハブからランチを装って、アナをおびき寄せるために、一生懸命努力した。あなたは、アナを利用して、誰もがうらやむようなストーリーを書く、ライターになるために一生懸命努力した。そしてそのストーリーを一番高く買ってくれる人を見つけるにも一生懸命努力した、そうですよね!「(泣きながら)、そうじゃありません...アナに会わなければよかった...。こんなことだ誰の身にも起こって欲しくないのです。今までの人生で一番最悪な出来事だったのです...」。ライターになる為に、ニューヨークへ出てきてたった2年で、ヴァニティ・フェアに記事を書き、本の出版とテレビ番組の契約で60万ドル以上が転がり込んでくる。それはそもそもあなたがアナと出会って親しくなり、挙句警察に差し出したからでしょう?...。もしこれが人生で最悪な出来事というのなら、私たち全員にその幸運が訪れるべきですね。

トッドは弁護人側の最終弁論で、証人の全てが、ここで証言することを恥だと思っていること、それが故に、すべてを語っているわけではないということ、自分の失態を誰かのせいにしようとしていることを強調。「証人たちはすべて高給取りで高学歴、経験豊富なビジネスマンであるにも関わらず、大学にもいっていない、信頼もない、ビジネスどころか、インターンシップの経験もない25歳の子どもに騙されたからです。アナは未熟です。自分でも何をやっているのか分かっていなかった。この子供が銀行を騙すギリギリのところまで来ていた?アナの行動は道徳にかけ、非倫理的で型破りだと思われた人もいるでしょう。この件で金をとろうと目論んでいたのは銀行家たちです。銀行家たちは、金儲けできるビジネスには飛びついて口座を開かせるのが仕事です。でもアナはこれらの銀行から金を得ましたか?それはあり得ませんでした。もし金を得たとしても、それは彼女のポケットに入るわけではありません。金は賃貸しようとしていたあの建物の大家に入り、自分のビジネスのための改装費に充てられるはずだったのです。しかし、よく見てみると...、ビジネスなんて存在していなかった。それは単なる夢であり、理想であったのです。唯一あったのは、いくつかの写真とビジネスピッチが書かれた企画書だけ。リアルでもなければ具体性もなかった。アナは若くて野望に満ちていましたが、準備はおろそかで彼女がやろうとしていることには十分な能力に欠けていました。成功するはずだった?とんでもない。ましてや銀行から金を融資してもらって、このビジネスとやらを設立するのにあと一息だったと?そんなわけはない、口先だけ、たわ言ですよ。未熟者が興味を引かれただけです。それ以上は何もありません。もし彼女を有罪にするなら、彼女が危険な人物であるかを証明しなければなりません。彼女が本当に金をだまし取ろうと思っていたという事を証明できないなら、彼女はどの罪状でも有罪にはできません」。

アナは怒り狂っていた。トッドが描写したアナは、本人の意志に反するものだったからだ。自分は誰も騙していやしない。ビジネスは深刻なものだったし、融資を受けるまであと一歩だった。自分には能力があるし、リスペクトが必要だ。席に戻るとトッドはアナにささやいた。「こうするより仕方がなかった」。

陪審員評決は、シティ・ナショナル・バンクに関する第1級の大窃盗未遂罪とレイチェル・ウィリアムズから6万2千ドルを盗んだ第2級の窃盗罪の2つで無罪となったが、フォートレス窃盗罪やブレイド社のジェット無銭利用、ビークマンを含む3つのホテルのサービス窃盗罪など8つの容疑で有罪。懲役4~12年の実刑判決を受けた。

エンディング:

レイチェル・ウィリアムスの出版した本『My Friend Anna』は2019年タイムス・マガジンの100ベスト・ブックに選ばれた。

ケイシー・デューク:アナとの経験を生かして、'面倒くさい’クライアントを切ることに。引き続きライフコーチ/トレーナーとして成功し、天地万有の力を信じ続けている。

ネファタリ・デイヴィス:ホテルの仕事を辞め、ロサンゼルスにて映画産業のキャリアを追い続けている。

トッド・スポデック:詐欺事件の被告弁護士として引っ張りだことなったが、2019年、体調を崩し、家族との時間を優先させることに。そしてついに休暇を取ることにした。

ジェシカ・プレスラー:この事件に関して、ヴァニティ・フェアの記者として働いていた。傍ら『Bad Influence』という本を書き上げる。

アナは、2021年2月11日に刑務所から出所したが、1か月後、。ビザのオーバーステイを理由に移民・関税執行局(ICE)に再び身柄を拘束された

ドラマ終わり


エピソードごとではないが私なりに内容をリキャップしてみた。辻褄の合うようにまとめたつもりだが、読んでみて、もし、何が疑問やはっきりしないことなどがあったら(私も実は未だ疑問がある)、教えて欲しい。

ここではドラマの内容だけを追ったので、ファクトチェックは行っていないが、次の記事で、それも含めて感想などを述べてみたいと思う。

長文読んで頂きありがとうございました。





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