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『ザ・インヴィジブル・バンド』20周年記念ライブ@ロンドン。トラヴィスの変わらない何かを肌で感じることができた至福の夜。ただ一言ありがとうと言いたい。


5月20日、ロンドンは雨模様。私は窓に打ち付ける雨を見ながら、トラヴィスのライブの日に限ってこの天気、と苦笑いしていた。

バンドも「ロンドンは雨模様。それについて唄いたいなら、ボックスオフィスにまだ少し当日券が残ってるよ」とツイート。

元々、2020年5月に予定されていた今回のギグ。2回の延期を経て、彼らがロンドンのランドハウスにやってくる。

今回のヴェニューとなった、ランドハウスは北ロンドン、カムデンに位置する5000人規模のライブハウス。私にとっては、自宅から車で10分という地理的条件も相俟って、お気に入りのヴェニューなのだが、一時期メンバー全員が、北ロンドンに住んでいたこともあり、今回のギグはバンドにとっても、ホームカミング的な感覚があったのではないかと思う。

願わくは、"Writing to Reach You"が早めに登場しないこと。2016年のレキシントン・パブでのギグでは2番目にこの曲を持ってこられて、号泣してしまい、顔面ずぶぬれでメイクが崩れたまま、残りのショーを観なければならなかったから。

カムデンのランドハウスは完全ソールドアウトではなかったにしろ、私の居たスタンディング前方は割とキツキツだった。トラヴィスでの自分的定位置はドギーの前、と決めているので、なんとか場所を確保。それにしても思ったより男性率高め、しかも前方は私を含め一人ギグ多い。

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出演予定9時の1分前、8時59分にバンド登場。時間厳守がトラヴィスらしい。今回は、3枚目のアルバム『ザ・インヴィジブル・バンド』の20周年記念ライブということで、しょっぱなは"Sing"から。これは予想通り。しかーし、私の丁度真後ろに立っていた男性が、フランの歌いだしとともに大声で歌いだした。シンガロングとかいうレベルではない。フランの声が全く聴こえないので、これはもうカラオケだ。周りの人も最初はあっけにとられていたが、その内苦笑い。私の隣にいた女性も私の顔を見て笑いとも取れない表情を見せる。私はというと、これはどうしたものかという思いと、私の特別な日を台無しにする気か!という怒りで悶々としている。フランの声を聞くことなく"Sing"は終了。しかし、2曲目の"Dear Diary"ではさすがにカラオケは出来ないと判断したか、ここからは静かにしてくれた。しょっぱなから予想外のトラブルに見舞われ、どっと疲れる。

それにしても、久しぶりのトラヴィスは全く変わっていなくって、嬉しくなる。「ハロー、インヴィジブル・バンドです」と自己紹介するフランは鮮やかなショッキングピンクのスーツにブルーのキャップ。ダギーは黒のスーツに黒のネクタイできめて、アンディはスーツにウェストコートまで着ている。(ニールは見えなかった!)。『ザ・インヴィジブル・バンド』の収録曲を順番にプレイしていくが、フランはとにかくよくしゃべる。「クール・ピープル」とロンドナー達を呼び、オーディエンスの呼びかけにもしっかり反応するもんだから、会場のあちこちから声が上がる。アンディは体を前のめりに折ってギターを奏で、ダギーは、オーディエンスのサインを一部も見逃すことなく、満面のスマイルで大きく頷く。最前列には手書きのメッセージを掲げていたファンもいた。そういえばあれは1999年10月、ロンドン・シェファーズ・ブッシュ・エンパイアで行われた2日間のギグ。私は二日とも最前列左寄り、ダギーの真ん前にいた。当時住んでいたフラットの大家が、シルクスクリーンを使ったTシャツメイカーだったので、胸元に「Dougie」とプリントした手作りTシャツを着て臨んだ。トラヴィスは、演奏後特定のファンにセットリストをくれる慣習があったのだが、私は二日目にダギーから「君に」とセットリストを貰った。死んでもいいと思った。そんなこともあったものだから、ファンにビッグスマイルでレスポンスするダギーを見て、私も23年前はあそこにいたのだな、と感慨深くなる。

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そう、トラヴィスのライブって、変わらない何か、ノスタルジックとはちょっと違う、あーそうだった!と思い出しては、思わずニンマリしてしまう瞬間がたくさんある。MCは基本的にフランだが、彼は必ず2階席のオーディエンスにも声を掛けるし、それを見守る3人のメンバー達の表情を見るのもほっこりする。ダギーとフランが背中合わせに寄りかかって演奏するスタイルも健在だ。


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『ザ・インヴィジブル・バンド』の収録曲を曲順に演奏していくが、最終曲、"The Humpty Dumpty Love Song" を紹介する際、フランはこの曲をRingin氏に捧げる、とコメント。実は、フランの大親友であり、シングル"Coming Around" のMVを担当した、ビデオ・ダイレクターのRingin氏は、長い闘病の末、今年初めにガンで亡くなったのだそう。"The Humpty Dumpty Love Song"は、LAで撮影された"Coming Around"の撮影終了後に、一気に書き上げた作品だったため、Ringin氏との思い出が詰まっているのだという。そして、この曲を演奏し始めたのだが、エモーショナルになってしまったようで、途中で演奏を辞め、仕切り直しをした。悲しいエピソードが付いてしまったが、こういうセンシティヴな話をファンと共有してくれるのも、このバンドが好かれる理由だろう。彼らが今どういう思いでステージに立っているのか、現在何を感じているのかを知る機会を与えてくれる。ファンとしては本当に有難いと思うのである。

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約1時間弱で本編終了、しかし、5分も経たないうちにフランはデニムのダンガリー(ダンガリーがこんなに似合うロックスターが他にいる?)に黄色のキャップ、アンディはジャケットを脱いで、ダギーは白のTシャツに黒の革ジャンで決めている。そしてやっとニールが見えた。白黒の柄シャツを着ている。 "Ghost"でアンコールの幕を開ける。「多分皆もそうだったと思うけど、どの方向に行っても壁にぶち当たるような気がして...」とミュージシャンとして、コロナで演奏できなかったことの辛さを吐露するフラン。「でも、こうやって帰ってこれて、本当にハッピーだ」と続ける。そう、私たちも2年待ったんだよ。その後、"My Eyes"では、「この曲は、子供が出来たと知って書いた曲なんだ。働いて、頑張ってお金稼がなきゃ、と思って」というエピソードを披露し、オーディエンスを笑わせた。「その息子ももう16歳になったよ」と。あら、ということは、ウチの長男と同級生だわ、同じ時期に親になったのね、と改めて爽やかな親近感を持つ。

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"Turn"では、ダギーのヴォーカルもしっかり堪能。


とうとう最後の曲"Why Does It Always Rain on Me?"のイントロが流れると、観客から待ってました!のどよめきが。だが、私はというとそんなにうれしくない。何故かというと、この曲はショーの終わりを意味するから。ラストコーラスの前に、フランは一旦演奏を止めて、「今まで僕たちのライブに来てくれた人たちは知っていると思うけど、これがトラヴィスのトラディションなんだ」と言い、オーディエンスに手拍子とジャンプをお願いする。「ディール(いい?)」と確認して、ラスト・ヴァーズを謳いだす。いいもなにも、皆分かってる。だから全員でシンガロングして、ジャンプする。オーディエンスも、バンドも、バースタッフも。

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あっという間の90分。バンドがステージを後にして、照明がついても会場を離れたくないオーディエンス。SEが流れ出して、本当にライブが終了してしまった事を知る。でも、ふと出口へ向かう皆の顔をみると、笑顔、笑顔、笑顔...満面の笑み。そう、トラヴィスのライブには人を幸せにする魔法がある。このバンドに巡り合えたことを心から幸福に思う。皆そう思ったに違いない。

と幸せな気持ちにどっぷりつかっていたが、あれ?"Writing to Reach You"は???この歌で泣きじゃくりながら帰途に就く予定だったのだけど。

セットリスト

『ザ・インヴィジブル・バンド』5月20日@ロンドン、ランドハウス

Sing
Dear Diary
Side
Pipe Dreams
Flowers in the Window
The Cage
Safe
Follow the Light
Last Train
Afterglow
Indefinitely
The Humpty Dumpty Love Song

アンコール
A Ghost
Love Will Come Through
Driftwood
My Eyes
Turn
Why Does It Always Rain on Me?



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