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祝福には違いない

いい人がいてさ。結婚しようと思うんだ。






へえ。
いいじゃん。



久しぶりにLINEがきた。

向こうから連絡が来るときは大抵元気か?から始まって久しぶりにご飯でも食べようよと大体流れが決まっている。私はいつも暇だし、そういう時は二つ返事でいいよーと返す。

何となくLINEを遡ってみると、地震が起きたときにお互いの安否確認をしたりだとか、競馬の予想を言い合ったりなどをしていた。私の競馬好きはこの人の影響が100%だ。有馬記念については私はばっちり外したし、その人はちゃっかり当てていた。

その後日程だけを軽く決め、特に何も言葉を交わさずその日を迎える。
なんやかんやで一年近く会っていなかった顔はなんとなく老けたなと感じた。
何食べたい?と決定権を委ねてくれたがタイミング悪く私はあまり食欲がなかった。結局相手の希望で回転寿司を食べに行くことにした。


席に着き、近年の回転寿司屋のメニューの豊富さについてを話した。そして近況報告や仕事の話。あの人の話。
「あの人は、最近どうなの」
「私も最近はあんまり連絡取ってないし、会ってもいないから」
まあでも元気そうだよと伝えると、そっかと返された。返事に覇気がないというかなんというか。年のせいかなと思った。

その後しばらくはあの人の話をした。最近は何をしているのかだとか、体調は平気なのかとか。私たちは会うたびにあの人の話をしている。私たちも、あの人とも、そう簡単には切れない縁で結ばれている。私は正直うんざりな気持ちだけれど。
そんな話の中で、突然と言えば突然だし、話の流れと言えば話の流れで、「最近いい人がいて、結婚を考えているんだ」なんて言われた。
私は普通の会話のテンポでそうなんだと返したけれど、それはそれは強い衝撃を覚えた。


変化が苦手だ。
ただ、それだけだと思う。
というか、それ以外に要素がない。


純粋におめでたいことだと思う。長らくあの人にとらわれていたのだからそろそろ自分の道を歩んでもいいんじゃないかとずっと思っていたから。

その人は終始あの人のことを心配していた。
それはどういう感情によるものかは分からない。
私より長い付き合いなのだから、きっとありとあらゆる情が入り混じって、一つの鈍色の感情が出来上がっているのだろうが、その正体は私には知りようがない。


ざわざわと胸の奥が音を立てているのが分かった。
なんだかやばい気がして、信頼できる人間に連絡を取って会うことにした。私にとってなんでも話せる人だ。
すぐに会ってくれて、私はその日の出来事と、良いことなのにどうしてかショックを受けたことを伝えた。

話しているうちにじわりと涙が出てきてしまった。涙を流しながら、この気持ちと衝撃はなんだろうと思った。
考えても考えても分からなかった。
嫌な気持ちはない。その人が新しい道に進んだという変化に、私が追いつけなかっただけ。だとしか、思えなかった。

件の信頼できる人間は、親しい人が遠くに行ってしまったようで悲しいんじゃないのと言ってきた。それはそうなのかもしれないけれど、なんともぴんと来なかった。
別に悲しくはなかったし、そもそも私はその人にまったく依存をしていないどころか、出来れば少し遠めの距離感でいたいと常日頃から考えていたから。近しい間柄ではあるけど、必要があれば縁だって切れると思う。
さらに言ってしまえば、その人の恋愛事情だとか結婚だとかは(あえて悪い言い方をするのであれば)どうでもいいとさえ思っている。
だからこそ、この感情が何によってもたらされているのかがとにかく理解できなかった。


理解はできなかったけれど、この変化がその人にとって幸せをもたらすことを、心から祈った。


どうかお幸せになってください。


***


読んでくださりありがとうございます!! ちなみにサポートは私の幸せに直接つながります(訳:おいしいもの食べます)