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石ころいしちゃん

 いしちゃんは小さな石ころ。
 今日も川べりの道でひなたぼっこです。
 と、そこへ、小学生の男の子が、やってきました。
 男の子はいしちゃんをぽーんとけとばすと、「あーあ」
と深くため息をつきました。
 いしちゃんは少し転がって、男の子の顔を見ました。男の子はとても悲しそうな顔をしています。
(何があったんだろう?)
 いしちゃんは思いました。
 男の子は河原に座り込んで、いしちゃんを手に取って言いました。
「なんでこうくんと、けんかしちゃったんだろう。」
 男の子はいしちゃんを、手でもてあそびながら、また言いました。
「こうくん、おこってるだろうな」
 いしちゃんは、ふむふむ、この男の子は、お友達のこうくんとけんかをして、落ち込んでいるんだな、と思いました。
 男の子は河原に寝っころがって、まだぶつぶつ言っています。
「あのとき、こうくんが、あやまってくれたらよかったのに。そうしたら、僕も叩いたりしなくてすんだんだ」
 男の子は寝っころがったまま、いしちゃんを宙に放り投げ、落ちてきたいしちゃんを、また手でつかみながら言いました。
「こうくんが悪いんだ。僕のことをからかうから…」
 そのとき、男の子が、うまくいしちゃんをキャッチできず、いしちゃんは、男の子のほおに落ちました。
「いてっ」
 男の子は言いました。
 そうして、つーっと涙を流しました。
 いしちゃんは、男の子のやわらかなほおに当たって、とても苦しくなりました。
 みちばたでけられるのは慣れているのです。
 いしちゃんはとっても固いから、固いところにぶつかるのは、なんでもないのです。
 でも、男の子の柔らかなほおに当たるのは、なんとも当たりごこちが悪いのです。だって男の子の柔らかなほおは、傷つきやすいから…。
 男の子は泣いていました。
 いしちゃんは、自分が男の子を、傷つけたような気がして、心苦しくてたまりません。
 でも、男の子は違うことで泣いていました。
「こうくんもきっとこんなくらいか、この数十倍痛かったんだ」
 男の子は言いました。
 男の子はしくしく泣いていました。
 いしちゃんはなんにもできず、男の子の顔のそばにころがっていました。
 いしちゃんには、男の子をなぐさめる言葉をかける口も、よしよしと言って、男の子の頭をなでてあげる手もないからです。
 そのとき、声がしました。
「ひかるくーん」
 男の子の名前なのでしょう。
 男の子が立ち上がって振り向きました。
「こうくん!」
ひかるくんと呼ばれた男の子が、びっくりしたような顔をして言いました。
「なんで、なんで、泣いてるの?」
 こうくんと呼ばれた男の子がききました。
「だって、今日、こうくんを叩いたりしたから…。」
「なぁんだ。そのことか。僕の方こそからかって悪かったよ」
 こうくんは笑いながら言いました。
 ひかるくんはこうくんのえがおにつられて、泣き止みました。
「痛くなかったの?」
「あぁ、そんなに痛くなかったよ。こういう小石をぶつけられるほうが、ずーっと痛いんだろうな」
 と、こうくんは、いしちゃんを見ながら言いました。
「ぼくは今、この小石にぶつかったところ。取りそこねちゃってさ」
 ひかるくんはやっときもちが明るくなって、はずかしそうにわらいました。
「ははは、ドジだなぁ。こんな小石、川に投げちゃえ」
 こうくんがいしちゃんを川になげました。
 いしちゃんは、空中を切って、川のおもてを、何回も何回もはねました。
 そして何回も何回もはねながら、いしちゃんは、自分でも何かの役に立てたような気がして、とてもうれしくなりました。
 そして最後に、いしちゃんは川の底に沈んで、川の底から、仲良さそうに土手をのぼって帰っていく、二人を見つめました

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