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パワーのある言葉の裏には人の想いがある『本日は、お日柄もよく』ブックレビュー[24/100]

思っていること、ちゃんと伝わっている?

「ごめんなさい」
娘があまり良いとは言えない点数のテストを持って見せに来る。
この「ごめんなさい」を聞くと「うーーん」と思ってしまう。それは、点数に対しての「うーーん」ではなく、「伝わってないな」という「うーーん」だ。

私は、テストの点数に関して、良いか悪いかはあまり気にしていない。テストの点数は「その後どうするかを考えるために使ってほしい」と心から思っている。これは、長女の中学受験に伴走する中で紆余曲折を経て、私と夫、そしてときに子どもたちと腹を割って話し合い続けた結果、我が家の方針として決めたことでもある。
しかし、娘たちに伝わっているかといえば、伝わっていないんだよなぁ。
なぜかといえば、それはおそらく、テストの点数が良いときに「良かったじゃん」と私や夫が褒めてしまっているからだと思われる。良い点数の時の我々の笑顔や言葉により、親の感情が点数に反応していると理解されてしまっているようだ。

本当にテストの点数を気にしないということであれば、「テストの点数が良かった」と喜ぶ“子どもの気持ち”に対してや、「ちゃんと毎日コツコツと頑張ったから」という“過程”に対して「イイネ」をたくさん伝えるべきところを、端折ってしまっているからだろう。

こんな感じの「ちょっと違うんだよな」という違和感の残るコミュニケーションは、意外と日常に多い。
「ちょっと違う」ならまだしも、受け取る側からすると「え? ちょっと失礼じゃない?」という違和感を覚えた場合は、人間関係に悪影響があることだってある。

よく言われるのは「夕飯はうどん”で”いい」という表現。こちら、私も言われると「カチーーーン」となる。「夕飯はうどん”が”いい」では、一文字しか違わないのに、伝わったときの好感度は真逆だ。しかし、その裏にある気持ちは「今日は(お互いに疲れているし)ラクしようよ」とか、そういった労いの気持ちがあるかもしれないのだ。

ちゃんと伝わったら、相手も自分もすごくいい気持ちなのに、伝わらないと、怒りや悲しみになってしまう。そしてこれは、そんなに珍しいことではない。

「人の気配」がある言葉こそ、伝わる

言葉を使うこと、話すこと、伝えることは、あまりに私たちの身近にありすぎて、気を配られなさすぎなのではないだろうか……。
以前から考えていたことが、原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』を読んで、確信に変わった。「言葉は、すごい力を持っている。でも、日常ではその力が軽視されすぎている」と。

主人公が、スピーチライターとして成長していくストーリー。スピーチを通して、世界が、世論が変わる瞬間が臨場感をもって描かれている。
読んだ後に感じたことは「言葉が世界を動かしている」ということだ。
アメリカ初の黒人系大統領が誕生したのは「Yes,we can」のフレーズが耳に残る名演説があったからだろう。
春に盛り上がったWBCで日本チームを優勝に導いた言葉として、大谷翔平選手から「憧れるのをやめましょう」という激励があったと報じられた。

『本日は、お日柄もよく』の中で、もっとも私が好きだと思った言葉も、主人公の恩師が過去に人生のどん底から救い出すキッカケとして使われていた。

その言葉が、これだ。

「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔を上げている。三日後の君、歩きだしている」

『本日は、お日柄もよく』徳間文庫 P322

この言葉は、マイナス方向に暴走している気持にストップをかけて、少しだけ希望を与えてくれる言葉だと感じた。私たちは多分、生きていくために、どんなにどん底にいてもいつか前を向き、歩き出す。人間って、そんな強さを持っている。でも渦中にいるときにはそれに気付けない。「もう無理だ」と絶望的になり、「明日なんていらない」とまで思ってしまうこともあるだろう。

言葉自身が素晴らしいというよりも、あなたはきっと大丈夫と信じて見守ってくれる存在がいることが、この言葉から伝わる。それが何よりも力になる。だから、私はこの先、娘たちが困難に立ち止まっているときは、そっと上記の言葉を伝えたいと思い、手帳にメモした。

「なにやってんの!」をグッとこらえて

背後に人の存在を感じられるから、言葉は私たちを動かす。人が人たるゆえんは言葉をもってコミュニケーションをできるようになったからだと、高校の時に学んだ。動物だってコミュニケーションを図っているようだけれど、心の機微まで伝えるすべを持つ私たちは、それを無駄遣いしているのかもしれない。

普段からちゃんと「私はなぜこの言葉、単語をこの伝え方で伝えるんだろう」と立ち止まって考えてみよう、それが私の『本日は、お日柄もよく』を読んだ後の最初の感想だ。

世界や歴史を変える力がある「言葉」。その強力なパワーをしっかりと理解し、操ることができたなら、たぶん私も、私の周りの人たちも、ハッピーなる。そしてそれは、伝播していって、大きなハッピーの波を作ることだって夢じゃないだろう。言葉の力をちゃんと認識し、普段から大切に使いたい。
まずは、家族や周りの友人たちに掛けることばを大切に選びたい。

忙しい普段の生活の中では、うっかり適当に言葉を選びがちだけど、普段の会話の中に透けて見える価値観こそ、大きな影響力を持つ気がしている。

だから私は、余裕があるときは家族との会話も、一旦どの言葉から話すかを考えるようになった。今朝、二女がうっかり(わざとではない)ふりかけをぶちまけたとき「よし、一緒に片付けよう」と言った。明確に意識して、言った。

今までだったら、とっさに「なにやってんの! あなたはいつも注意散漫で……(以下略)」とか言ってしまっていた。しかし、そこで考えたのだ。私は彼女に「失敗してもいいよ、次から気を付けようね。そして、君が片付けるのを、母は手伝うよ」ということを伝えたいと思っている。
ダイニングテーブルから溢れるようにこぼれるふりかけ(のり〇まの大袋だった……)を目の前に、今必要な言葉って何かな、と考えられた私、えらかった(笑)。

こんな感じで、普段の何気ない会話の言葉選びを気を付けようと、そんなことを考えるきっかけをくれた本でした。

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