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「働く」を選ぶ

誰だって、一度は考えたことがあるだろう。

宝くじで3億円当たったら?
夫が納税ランキング載るような稼ぎ頭だったら?
不動産収入等の不労収入が腐るほどあったら?
財閥の娘で、使いきれないくらいの遺産相続があったら?
ノーベル賞級の大発見をして、特許収入ガッポリなら?

私の答えは決まっている。
「それでも何かしら働く」だ。

田舎地方公務員の父と専業主婦の母、
年金暮らしの祖母と4歳下の弟という
一般家庭に生まれた私は、
非常に有難いことに、生きるのに困るほど
めちゃくちゃお金に困った経験はない。

学生時代は、大学院生バイト禁止だったため、
仕送り+奨学金という、ギリギリな生活もしたが、
それでも食べるものに困るほどではなかった。

かといって、「生まれながらのお金持ち」でもない。
どこにでもいる、普通の家庭で育った。

だから、俗な言い方だけど、
「お金持ち」の価値観は持ち合わせていないし、
彼らがどんなお金の使い方をするのかや、
暇な時間に何をしているのかは知らない。

というわけで、
どうぞ、裕福な環境にお育ちの方は、
以下の私の考えを鼻で笑ってくれて構わない。

20歳のときに、計算したことがある。
たとえば宝くじで3億円当たったら、
税金とか難しいことは抜きにして、
60年生きても、単純計算で年間500万円ずつ使える。
これは、下手すれば、一般的なOLより高収入かもしれない。
じゃ、働かなくても生きていけるかもしれない!

でも、当時から、私の答えはノーだ。

みんなが働きに出ている間、自分は何をして過ごすのか?
毎日毎日家中ピカピカにして、
凝った料理やお菓子を焼いて過ごすにしても、
数日で飽きるに違いない。

暇つぶしが必要だ。

それに私には、どんなに非力で微々たる物でも、
会社に属していようとなかろうと、
何か社会的な生産性が欲しいという欲がある。

だから結局行き着く先は、フルタイムかどうかは別として、「暇つぶしに働く」なのだ。

実は、産休中に身をもって実証済みである。
産休前の半年、妊婦とは思えぬほどの
残業続きだった私は、残業代が功をなして、
産休中の手当も普段の収入と変わらないくらい収入があった。
だから、「収入減ったし」なんて夫に気を遣わず、
贅を尽くして人生最大の夏休みを謳歌した。

でも、結局は買い物に出かけたり、映画を観たり、
友達と美味しい料理を食べに出かけたりしても、
数日で飽きた。

暇つぶしに、娘のおくるみを編んだりしたが、
毎日毎日暇だった。
2週間も経たずして、働きたくなった。
会社から情報共有用に産休中も貸与されたPCを、
なんと毎日開いていた。

仕事や職場に恵まれているというのも、
働きたい理由の一つとして排除はできないが、
仮に肉体労働のバイトだとしても、
働きたくなったに違いない。
それくらい、私には働かない、
社会的な生産性がないということは、
逆にストレスだった。

たぶん私にとって、働くということが、
アイデンティティなのだ。
我が家の2歳の娘同様、
プリンセスになりたかった幼少時代から、
いつ、なぜ、こうも真逆の生き方になったのか、
ある意味、可哀想な人生なのかもしれない。

そして産後、今度は育休中にも、
もう一度自問自答してみた。

娘1人なら、夫の収入だけでも
贅沢しなければ生活できる。
専業主婦なら娘と2人でいる時間が長くなるし、
働かないという選択肢はありか?

ちょっと悩んだけど、やっぱりノーだ。

反面教師がいる。
私の母だ。
私の母は、私が大きくなるまでは専業主婦だった。
私は、その恩恵にあやかって育った。

毎日学校から帰宅すれば、
いつもお帰りと言う母がいたし、
1時間に1本の通学バスに乗り遅れたと言っては、
何度も母に学校まで車で迎えに来てもらった。
習い事の送り迎えだって、週に3度はお願いしていた。
国語教師の資格をもつ母に、
何度もテストの山掛けだって頼んだ。

幼少期、母が働きに出ていれば、
こんな生活はできなかったから、非常に感謝している。

でも、母は自己犠牲を払っていた。
私には言わなくても本当は、
外に働きに出たかったのだ。

その証拠に、私が中学生になって以降、
65歳になるまで、一般事務のパートを
し始めてから、とても生き生きと生活していた。
当時反抗期真っ只中の私ですら、
「今まで母を縛りつけて、悪かったな」と自覚した。
数年前、同居する祖母が一人で留守番するのが
難しくなってきたため、
母が仕事を辞めなくてはならなくなったのだが、
なんだかとても名残惜しそうだった。

娘と過ごす時間は、私にとって宝物だが、
私は母のようにできた女ではない。
専業主婦を選択したところで、
いつか娘に「働きたかったのに」と、
何かの拍子に言ってしまいそうだ。
いや、絶対に言ってしまう自信がある。

自分から娘といることを選択しておいて、
お前のせいで働けなかったなんて言ったら、
身勝手甚だしい母親だ。
娘にとっても、非常に迷惑だ。
それだけは嫌だ。

それに、娘には「働く母」という選択肢を
見せたいという思いがある。

娘が子供を持つかどうかなんて、
知ったことじゃないし、
それは好きにすればいい。

でも、将来娘に子供が生まれ、選択肢に困ったとき...

女性にも、色んなライフプランがあるよと言うのを、
一番身近で示せるのは、私だ。

母親であることを理由に、
自分の人生を全て我慢する必要はない。
常識の範囲でという意味で、
いわゆるネグレクトに当たるものは、論外だが。

私が専業主婦の母を当たり前と思って育ったように、
娘にとっては、働く母が当たり前になる。
私は、私の母のような関わり方を、
娘と築くことはできないかもしれない。

それでも、揺るがない絆を構築するため、
仕事と育児を両立しながら、工夫する必要はあると思う。

娘の保育園のベテラン先生から、
つい最近こんなことを言われた。

「娘ちゃん、絵本が大好きだよね。おうちでも、ママが読んでくれた絵本の話をよくしてくれるのよ。毎晩読んであげてるんだって?」

「うちの子たち、もう立派な大人なんだけどさ、忙しくて毎晩なんて絵本読んであげたことなんてなかったけど、『お母さんが絵本読んでくれた声を覚えてるよ』って、今でも言うの。」

「自分の子供より、よその子供の面倒ばっかり見て...って頭にきたこともあるけど、だからお母さんが絵本読んでくれる時間は、すごくすごく特別で、自分だけのお母さんなんだって幸せな時間だったんだってさ。」

「お仕事してると、ゆっくり時間を取ってあげられないこともあるけど、子供なりにしっかり愛情を受け止めてくれてるから、大丈夫よ。」

「むしろ、やりたいこと我慢してイライラしたお母さんの姿を見せる方が、よっぽど子供にはよくないと思うから。」

うぅん、なんとも深い話だ。
もし、大人になった娘から、
先生んちのお子様みたいな話が聞けたら、
私は泣かずにはいられないだろう。

そう思うと、毎晩読む絵本の数を、
2冊から3冊に増やしてあげようかとすら思った...

...が、娘が寝る前に「これ読んで」と、
動物図鑑を持ってきたから、思いとどまった。

働くことを選んでも、選ばなくても、
子育ては永遠に悩みが尽きないのかもしれない。

私の母曰く、
「四十前の娘が、老眼で顕微鏡のピントが合わないと言うだけで、七十前の母は心配になるのよ」だそうだ。

この先ながーいながーい子育てを考えると、
どうせ何かしらで四苦八苦するのだから、
キャパが許す限り、好きに生きよう。
それに、きっとキャパオーバーになれば、
自ずと何らかの綻びができて、
きっと仕事すら嫌になるに違いないから。

そうなったら、潮時だと思って、
見合った働き方を探すか、専業主婦になるか、
改めて考えればいい。

そもそも、宝くじを買ってすらいないのだから。
とりあえず、今はまだ現状維持で。

そうそう、冒頭の「宝くじが当たったら...」を
夫にも聞いてみた。

「嫁の宝くじによる不労収入が年間500万あるならさ、俺が専業主夫で、嫁が外でバリバリ仕事すれば良くね?」

「そしたらさ、そこそこの生活できるし、働きたくない俺と、働きたい嫁と、winwinだと思うんだよね!」

いや、あなた、それは完全なるヒモじゃねぇか!

ちなみに訳の分からない娘にも聞いてみた。

「それってさ、さくらんぼゼリー(娘の好物)たくさん買えるの?」
3億円で、130円程度のゼリーを買い占めようとしている。

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