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膝からチカラが抜けていった

豆と小鳥 はなしのとまり木
今回は「眠りの吟遊詩人」をお届けさせていただきます。
いつものよーに創作はナミン、語り部とサムネはバクです。

「パパはもう危うい状況になっているので
 ママとどこかの施設に入ろうと思う」
今回の帰国のメインは父88歳トシオと母89歳幸子の
これからの事を弟と4人で話し合い、方向性を決める事でした。


この半年の間にトシオの認知症は凄まじく進行しており、
彼自身もそのことをしっかり自覚しております。
ちょっと前までマンションの住民の方々と楽しんでいたピンポンも、
こりゃ無理よなと納得せざるえないおぼつかない歩き方になっている。

幸子は以前、前世占いで没落した役立たずのお姫様と診断されたようだが、彼女の生き様はまんまその通りで、
全ての実務的な面はトシオが担っている。

私はバンクーバーから毎朝8時に
安否の確認とご機嫌伺いを兼ねて実家に電話している。
数ヶ月前からトシオ自身の口から
認知症になってきていることをカミングアウトしておりましたが、  
今回半年ぶりに対面した時、
正直、膝からチカラが抜けていくほどガーンとショックを 
受けてしまった。その夜はホテルの露天風呂に浸かりながら久しぶりに泣きました。

しっかりもので何事もきっちりしないと
気が済まないトシオは別の次元に旅立ったようです。
うっとーしいレベルの几帳面さんやったのにな。
携帯電話の支払いの催促状が来ていた。
一月までは支払いができていたのに、
二月から難しくなってしまったらしい。
しかも、未払い状態のことを伝えても動揺することもなく、
ご機嫌さんにシュークリームを食べながらテレビを観ていた。

認知症に抗っても仕方ない。
これも又、自然の摂理、春夏秋冬人生の1ページ。
ならばNewトシオを受け入れていこうではないかと
びびりながらも私は覚悟した。
「なんぼでも気にせんと忘れたらいいねんよ。
自分を責める必要はゼロやし」と言うと、
トシオは王将の冷麺をすすりながら目を細めて微笑んだ。
「今年初の冷麺、おいしーね」と言うと、
「おいしーか、よかったよかった」とうれしそーやった。
食べるスピードもすっかりスローになったけど。

今回ばかりは日本を発つ時、豪快に後ろ髪を引かれました。
でも私にはバンクーバーでの仕事があるし、選択の余地はない。
弟がまぁまぁ近くに住んでくれていることが救いである。
今の私は彼らが苦しい目やや悲しい気持ちになるよーなことが起こらないように祈ることしかできない。
真剣に祈ることしかできない。

冷たい麦茶を魔法瓶に入れながら
カラフルなお花をスケッチしながら
ちゃんと呼吸してるか確認しながら
お聴きくださったら嬉しいです。

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