シェアに感じたエコーチェンバー~コメントが本質を隠してしまう不安
書籍広告掲載について、朝日新聞社からコメントが出されました
内部に危機感が走り、強い声があがったことは想像に難くありません。
いつも誠意をもって丁寧な取材をしている記者の方も複数存じあげているので、その方々の顔も浮かびました。
大きな一歩です。
でも、ここで思うことは、
声が上がらなかったら、どうしていたのか
ということです。
このような広告掲載は、今に始まったことではありません。
今までも問題意識を持つ人は、内部にいたと思うのです。
きっと、声もあげてきたと思います。でも変わらず、広告掲載は続けられていた。
今回、動いたのは、この書籍の著者である医師が
自国で、この療法で死者を出しており、医師免許を剥奪されており、さらに禁固刑にもなっているという、今までと次元が違うとも言える状況があったからだと感じています。
そこに、多くの声が内外から届いたのですから、声明を出さないわけにはいかなかったのだと思います。
厳しい見方をすれば、自社を守るためだとも思えます。
この広告掲載に関わっていた人は、この療法を信じていたのでしょうか。
たぶん、変だなと思っていたんじゃないでしょうか。
それすら思わずに、運営のために広告を選んでいたとしたら、それは
もっと深い問題だと思います。
【朝日新聞が声明を出したことで解決していないこと】
この書籍が存在するということです。
実際に目にしていませんが、今日も書店で売られているかもしれません。
前回のnoteに書いた内容と重なりますが、私が患者会の活動を通じて強く感じていることは、
紙媒体の力。
今も、一番大きな伝達威力を持っているのが回覧板であるという地域が多くあります。
若い世代には当てはまるかどうかわかりませんが、私たちは子供の頃から
『新聞を読むこと』『本を読むこと』を大切に勧められてきています。
小学校の宿題が、新聞のコラムや本への感想であったことも、新聞や本に書かれていることへの信頼の基盤を作っていると思うのです。
今回、朝日新聞が出したコメントは、どれだけの人に届いたのでしょうか。
どれだけの人に届けようとして出したのでしょうか。
そこに本気が見えると思うのです。
朝日新聞が出したコメントは大きな一歩ですが、
『朝日新聞、迅速な対応でやったね!』ということではないし、
広告は今後も掲載されていくのでしょうし、他の新聞社はもちろんのこと
テレビに出演する人は力のある医師なのだと信じている人
書籍に絶対の信頼を寄せている人がいるという現実を前に
他の発信元は、今回を受けてどうするのかというところが大きいのだと思っています。
【〇〇先生が朝日新聞を動かしたというコメント】
朝日新聞のコメントをシェアすることは、とても大切だと思います。
そのことが、広告と認識せず、書籍のタイトルから内容を推察してしまったであろう人への警鐘に繋がると思うからです。
でも、シェアにつけられたコメントには、上記のようなものも多くありました。
今回の動きに繋がった発信をした医師は、ずっと前から、このような警鐘を発信し続けているのです。
今回に限ったことではありません。
私がこの数年で感じている変化は、医療者の中に情報の大切さに気付き
とんでもない情報に警鐘を発信する人が増えてきたということです。
今回の広告に最初に気づき危ないと思ったのは、別の医師です。
それが誰かが大切なのではなく、誰かが気づいた危機を共有し
警鐘を伝える発信を後押しした医療者が増えたから、今回の新聞広告の件は、内外の多くの人に
届いたのだと思います。
孤軍奮闘だったことに援護射撃がついてきたのです。
今年、私が胃がんキャラバンに挑戦したいと言った時
『藁をもすがる人への対応にほとほと困っている。藁をもすがる心境の人に
科学が理解できるとは思わない』という意見もありました。
数年前だったら、この声に、キャラバン計画は潰れていたと思います。
情報は命に繋がるものである
と認識する医療者が増えてきたことが、キャラバン開催への後押しになりました。
今回の新聞広告への動きも、まさにそこです。
『○○先生、すごい!』という仲間意識でのコメントへは
本質を隠してしまう不安を感じるのです。
【エコーチェンバーが誤解させてしまうもの】
エコーチェンバーとは、同じ立場の意見、仲間意識から、「そうだ、そうだ❢」と強化され、「自分たちが正しく、多数派だ」と勘違いすることを指しています。
Facebookなどは、それに陥りやすいツールかなと感じていますし
いいね!が多くついたり、フォロワーが多いとご意見番みたいな空気をうんでしまう危険を意識する必要を感じてもいます。
私は、今、『がんには無関係だと思っている人』にこそ情報を届けたいというグリーンルーペアクションに取り組んでいますが
それは、ネットの中では盛り上がっていることが、実は、多くの人が知らないという現実を、何回も強く感じたことに発端があります。
ある大きながんのイベントに招いていただいたことがあります。
参加費も決して安いとは言えない金額のイベントに、多くの参加希望者が集まり、参加できなかった人も多く出たものでした。
当日、会場は、多くの医療者、行政に携わる人、患者、メディアが集まり
とても熱い空気でした。
そんな中、登壇前に化粧室に行こうと会場を出た時、同じフロアーにあるカフェで、大勢の人が休日の時間を過ごしている光景を目にしました。
こちら側とあちら側
会場の中には、「すごいイベント」という空気が流れていても
一歩外に足を運ぶと、そこで何が行われているかさえ意識していない人が大勢いる。
この体験も、ある共通の意識で集まった人がエコーチェンバーになっているんじゃないかと認識したきっかけになりました。
【組織という壁】
私は長年、私学の学校法人で教員をしていました。
自分でも、教育を真剣に考えてきたと思っていました。
長年勤続し、学校法人の中の会議で意見を求められる機会が増えた時
「教育に携わっているのだから」
という思いで発言しても、経営という視点から、思いもよらぬ意見が出て
心底哀しくなった経験が何回もあります。
「教員も組織の歯車なんだから」と面と向かって言われたこともありました。
奇麗ごとだけではなく、組織や法人は、そういう面も考えなくてはならないということです。
今回の新聞広告の課題も、きっとそこにあります。
それを変えられるのは、その立場で仕事への矜持を持って行動できるかということなのかなと思っています。
孤軍奮闘では何も変わらないのです。
仲間意識ではなく、それぞれの立場で、自分に何ができるかを本気で考え、行動していけるかが問われているのだと思います。
朝日新聞の対応がすごかった。
○○先生の発信が動かした。
これでは、きっと、何も変わらないと感じてしまうのです。
全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。