今に始まったことではない~信頼してしまう理由
重曹ががんに効くという書籍の広告が話題になっています。
これは今に始まったことではなく、ずっと続いていること。
以前には、見開きで、科学的根拠のない療法を施している医師と
文化的著名人の対談が掲載されたこともあります。
その見開きの対談の右上には、小さく『広告』と記載されていたのですが
どれくらいの人が、それを情報ではなく広告であると認識できるのでしょうか。
その時、私は、今回、この書籍の広告を掲載した新聞社に意見を伝えたことがありますが、
「新聞を読む人が減り、新聞社も経営が大変で、このような広告料が収入源の一つを担っている」という答えが返ってきました。
新聞、特に日本中に大きな影響、信頼を及ぼすであろうメディアの広告の危険を、私はそれに惑わされたものとして、常々、発信してきました。
【どこに惹かれてしまうのか】
まず、ほとんどの人が標準治療がどのように確立されているかを知らないと思っています。
患者会活動をしていると、リテラシーの高い人との接点が多くなってくるので、そちらがスタンダードで、騙されてしまう人が愚かなのだという雰囲気を感じてしまうことがありますが、医療を信頼するあまり、医師免許を持っている人が、とんでもないことをするはずがないというバイアスが既にかかていることが多いように思います。
少し前には、イソジンを牛乳に混ぜて飲むというトンデモない療法が話題になりましたが、
「普通しないよね。イソジンだよ」という雰囲気は、それに惹かれてしまった心に突き刺さり、口を閉ざすことにつながってしまう危険性もあります。
万が一があるのなら、笑われても賭けたい。
それを家族だけで相談してしまいます。
私は、ニンジンに命を託そうとしました。
冷蔵庫の中をニンジンでいっぱいにして、狂ったようにニンジンジュースを作りました。他のものは、一切口にしないという療法でした。
弱っていく家族に、これをしてしまったことは、冷静な視点からは愚かにしか映らないと思いますが、ひたすら信じたかった。
『治療法はありません。抗がん剤は延命です。効果があるなら保険適応になっています』
その言葉を受けた身には、
*海外でやられていること
*長年、がんと向き合ってきた人が、馬鹿にされても命のために取り組んでいるような印象
*新しい、諦めない、やっと発見したという言葉
が、芥川龍之介の蜘蛛の糸のように感じられてしまうのです。
『ネットのデマと中傷と闘い』
という言葉が広告の中に読めます。
これが、ドラマの中の神の手の医師のイメージと結びついてしまいます。
みんなが変だと思っていることをやり通す信念がみつけた新しい治療だと思わせてしまうのです。
【図書館も同じようなことが起こっている】
絶望の中、ネット検索のみならず、図書館にも情報を求めて通いました。
そこには「末期がんからの生還」のようなタイトルの本が、
がんのコーナーにずらっと並んでいます。
図書館は資料を探し、時に勉強する場として使うイメージがあり
そこに並んでいる本は、選ばれた信頼できるものであるという心理的バイアスが既にかかっています。
私はむさぼるように読みました。
同時に、この書籍の広告のようなものを切り取り、私たちのために何かしたいと思う善意から、情報が、サプリメントが、どんどん押し寄せてきました。
自分たちのまわりが、このような情報で溢れ、私は、そのどれ一つでも欠けてはいけないのだという心理に陥ってしまいました。
周りの人は善意なのです。
必死に助けたいと思っての行為です。
それが、がんに関係している人だけではなく、今は無関係と思っている人にこそ情報を届けたいという今の行動にも繋がっています。
批判や規制は必要ですが、いつもイタチごっこになってしまう。
だったら、遠回りかもしれないけれど、自分たちの身を守る情報を見極める方法を伝えていくことが大切なのではないかと思ったのです。
がん教育の中に、科学的な視点を入れてほしいと強く思っているのは、これが理由です。
【ネットが届く人ばかりではない】
夫ががんを告知されてから、もうすぐ5年の月日が流れます。
その中で、私が変化として感じていることは、今回のように
警鐘を鳴らし、発信する医療者が増えたことです。
このことは、冷静になれないでいる人を、少し立ち止まらせることにつながっていると思います。
でも、もう一つ忘れてはいけないことは、ネットを使える人ばかりではなく
今でも紙媒体が大きな力を持っているということです。
私は希望の会のホームページに自分の連絡先を公開しています。
そして、曜日、時間を問わず、連絡を受けることにしています。
それは、自分がとても孤独で、夜や年末年始のような時ほど、不安になることを経験しているからです。
電話をかけてくる人の中の多くは、以前に掲載された新聞での私の記事を読み、連絡先を調べたと話しています。
数年前の切り抜きを見ての連絡もあります。
今、全国で胃がんキャラバンをしていますが、その広報で一番威力を発揮するのが、回覧板であり、その次が地域の広報紙です。
多くの方が紙媒体を今も主な情報源として信頼しています。
そこに、このように、記事よりも大きな文字で、自分が暗闇に入っている時に、まさに聴きたい言葉が書いてあれば、それを「広告」だと見極めることは困難です。
新聞への信頼
図書館への信頼
そして、もうひとつはテレビ。
血液クレンジングや高濃度ビタミンC点滴、免疫療法などを施しているクリニックの医師が、健康番組のコメンテーターで出演している例が多いと思います。
それは民放に限ったことではなく、そこに出演している医師は、信頼があるから出演しているのだと映ります。
【遠回りかもしれないけれど】
私の、このnoteだって同じことです。
届く人は限られています。
でも、なぜ、覚悟を決めて発信しようと思ったのか。
それは、たまたま読んだ人が患者家族であるといいなと思ったのではなく
知り合いが命の限りを告げられた時、何かしてあげたいと善意で調べている人に、世の中には、信頼できない情報もたくさんあるのだということを報せればいいなと思ったからなのです。
そして、今年、全国キャラバンに挑戦した理由も
ネットが届かないであろう人に、対面で、わかりやすく医療について知る機会を作りたいと思ったからです。
規制、警鐘が救えることがある。
そして、それが届かない人には、違う方法を考えなくてはならない。
情報の怖さを知る人が増えることが、きっと、もう一つの大切な取り組みだと思っています。
全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。