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月と暦アレコレ|日々の雑記#38

「今日はコレが(小指を立て)、コレなんで(頭の両側で人差し指を立て)帰ります」

失われた昭和のハンドサインです。握り拳を口の端で内側に回せば「飲みに行こう」ですし、片鼻押さえて丸めた紙幣を持っていたら「コカイン中毒」です。

世の常でしょうか、新しい価値観が生まれるとそれまでの習慣は押しやられがちです。

お月見もきっとそのひとつ。江戸の頃は十五夜(旧暦8月15日)だけでなく、十三夜(旧暦9月13日)や二十六夜待ち(旧暦7月26日)など、お月見イベントが盛んだったそうです。

旧暦は、新月→満月→新月までの周期(29〜30日)をひと月としていたので、暦を知るのに月の満ち欠けを確かめる必要がありました。「お、満月かい。するってえと半月もしたら掛取りがきやがるな」そんな感じだったんですかね。月見が生活に根差していたのも納得です。

しかし旧暦はズレが大きく、調整のために1年が13ヶ月の年もあれば、同じ月でも年によって29日だったり30日だったりとまちまちでした。新暦に切り替わり便利になったんでしょうけれど、月を見る機会は確実に減ったと思われます。

こうして押しやられた習慣はだんだんと積み重なり、文化の地層を作っていきます。

今はまだ令和と平成の端境期ですので、掘りおこせばまだ昭和の風習に触れることができます。だけど大正に明治、そして江戸はもう遠くになりにけりです。地面を掘るには力が要りますし、化石になればラッキーですが、分解されて跡形もなくなる物の方が多いのではないでしょうか。

それなので今のうちに十五夜だけでなく、埋もれつつある他のお月見も味わっておきたいのです。

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まずは十三夜(旧暦9月13日)、今年は10月18日にあたります。
十五夜とセットで見ると良いとの話ですが、一説には吉原で十五夜を共にした旦那を、もう一度誘うために始まったとも。
栗や豆の収穫時期なので栗名月や豆名月とも呼ばれます。豆好きとしては当然豆派。秋のお酒が出回る頃なので、新豆の大豆や銀杏をつまみに眺めるのがおすすめです。

昨年は、河川敷でチェアリングしながらお月見しました。何だか気分が盛り上がり、暗闇の中で記事を書いたのが懐かしいです。今年は燗酒で楽しもうと検討中。

続いて二十六夜待ち(旧暦7月26日)。残念ながら今年はもう過ぎてしまいました。こちらは夏の夜、深夜1時ごろに上ってくる月を待ちながら、遅くまで飲み食いして過ごすというもの。
もとは信仰に基づく行事だったようですが、しっとり月を眺めるというよりお祭り騒ぎの雰囲気。二十六夜待ちを描いたこちらの浮世絵を見ていただくと、その盛り上がりが伝わると思います。

旧暦カレンダーによると来年の二十六夜待ちは8月23日。大人数で騒げなくても、見晴らしの良い場所で月を待ちながら、誰かとお酒を呑むなんて素敵です。今から場所探しだけでも楽しめそう、これを機にキャンプを始めるのもいいかもしれません。

こんな風に、古くて新しいお月見が増えた世の中を想像すると、ちょっと気分が良くなります。月が綺麗なのに、それを眺める余裕もない暮らしなんて、ちょっと寂しいもので。雪月花、花鳥風月は生活の彩りです。

そしていずれは

「今日はアレが(人差し指を夜空に向け)、コレなんで(指で満月を作り)帰ります」

そんなハンドサインが広まると願ってます。

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