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インパクト投資とサステナビリティ経営

インパクト投資の広がり

インパクト投資市場が急速に拡大しています。

世界最大級のインパクト投資家コミュニティ「グローバル・インパクト投資家ネットワーク(GIIN:Global Impact Investing Network)」によると、世界のインパクト投資の市場規模は2019年末時点で7150億ドルと前年比4割ほど増加しました。

GIINによれば、インパクト投資とは「財務的リターンに加えて、ポジティブで測定可能な社会・環境面のインパクトを生じさせるという明確な意図を持って行われる投資」であり、ESG投資の発展形の一つです。(インパクトとは事業活動がもたらした変化や効果。)

ESG投資もインパクト投資も、投資家が企業による環境や社会への取り組みを考慮して投資先を選び、財務的リターン(経済価値)を追求する点は同じです。

インパクト投資の特徴は、投資家が投資先の企業を通じて環境や社会にポジティブなインパクト(社会価値)を創出する「意図」を持ち、企業と協働でインパクトを「測定・開示」する点にあります。

インパクト投資の具体的なスタイルは様々です。すべての投資でインパク トを考慮していくことが重要と考え、そのために多様なインパクトを包括的に把握すべきとする立場 がある一方、特に重要な社会課題に焦点を合わせ、大きな正のインパクトを生み出す事業へと資 金を振り向ける金融商品を開発する立場もあります。

国連UNDPが、企業活動などがSDGsの目標(17ゴール)達成にインパクトがあるかどうかを評価する基準「SDGインパクトスタンダード」を早ければ2021年中にも策定、認証制度をスタートさせようとしており、インパクト投資は、今後さらなる拡大が予想されます。

国内でのインパクト投資の取り組み

GSG(The Global Steering Group for Impact Investment)国内諮問委員会によれば、日本におけるインパクト投資の残高は約5,126億円(2019年は約3,179億円)であり、国内でもインパクト投資の進展を確認することができます。

三井住友信託銀行、第一生命保険等で取り組みが始まっており、環境省や金融庁もタスクフォース(TF)や勉強会を立ち上げ、インパクト投資の促進に積極的に乗り出しています。

環境省 ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
金融庁 インパクト投資に関する勉強会
(参考)インパクト投資に関連する省庁の取り組み
・金融庁は、2050年までのカーボンニュートラルの実現に向けて「経済と環境の好循環」を作り出していくという観点から、考えられる課題や対応案について検討するため、2020年12月に「サステナブルファイナンス有識者会議」を設置。
・経産省は、2020年3月に「クライメート・トランジション・ファイナンスの基本的な考え方」、9月には「クライメート・イノベー ション・ファイナンス戦略2020」を策定。2021年1月より、金融庁、環境省と共同で「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」を開催。

このように、我が国でもインパクト投資への取り組みが積極的に進められており、徐々に大きな潮流になりつつあります。

企業と投資家との切磋琢磨

ESG投資と比べて、インパクト投資はサステナビリティ経営との親和性や相乗効果がより高いと言えます。

GIINの定義にもある通り、インパクト投資とは、金銭的リターンに加えて、ポジティブで測定可能な社会面・環境面のインパクトを生じさせるという「意図」を持って行われる投資です。

一方、サステナビリティ経営とは、自らの存在意義やパーパス及びそれらに基づく長期ビジョン(という企業の「意図」)を描き、その実現に向けて「経済価値と社会価値を両立させるビジネスモデル」を作り上げ、戦略に落とし込み、ステークホルダーとの協働を通して実行し、そのプロセス及び成果(環境や社会へのインパクト含む)を測定・開示するという長期視点の経営です。

企業と投資家は、サステナビリティ経営とインパクト投資におけるそれぞれの「意図」を尊重し合いながら、インパクトの測定・開示を含む様々な局面で互いに切磋琢磨することが重要です。

そのような切磋琢磨をとおして、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの同期化に向けた取り組み(SX:サステナビリティ・トランスフォーメーション)が加速し、環境や社会へのポジティブなインパクトが増大し、SDGsの達成にも繋がっていくことが期待されます。

【サステナビリティ経営の要件(参考)】

本noteでは、以下の要件を満たす長期視点の経営を「サステナビリティ経営」と呼んでいます。

・自社の存在意義やパーパスが明確である。
・グローバルメガトレンド(SDGs含む)および長期的な競争環境などの理解と分析(リスクと機会)ができている。
・目指すべき長期ビジョン(持続的な経営の姿・方針・成長イメージなど)が策定されている。
・長期ビジョン実現に資するビジネスモデル(社会課題解決と経済価値創出の同時実現を目指す)が構築されている。
・ビジネスモデルの持続的な競争優位を実現するための経営戦略(資本戦略含む)が策定されている(マテリアリティの特定、事業ポートフォリオの最適化、競争優位の源泉となる経営資源・無形資産およびステークホルダーとの関係などの維持・強化など)
・戦略が着実に実行(必要に応じ柔軟に転換)されている(戦略実行に向けた最適な組織設計と人材強化、KPI(財務、非財務)の設定とPDCAマネジメント(価値検証含む)、コンプライアンスおよびリスクマネジメント(事業が社会・環境に及ぼす負のインパクトを回避・軽減するためのデューデリジェンス含む)など)。
・戦略実行のプロセスと成果(アウトカム/インパクト含む)を中長期の価値創造ストーリーとして株主・投資家を含む様々なステークホルダーに開示し、透明性を確保している。
・これらの意思決定および行動を担保する適切なコーポレートガバナンスが機能している。
・これらの意思決定および行動は様々なステークホルダーとの対話、連携および共創(エンゲージメント:オープンイノベーション含む)を通して実現されている。

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