見出し画像

【活動レポート】久比 小さな暮らしの芸術祭 レポート

みなさん、こんにちは。まめなプロジェクトです。

2024年5月4日に、まめなにて「久比 小さな暮らしの芸術祭」が開催されました。本文は、芸術祭の構想段階や準備から、芸術祭当日までの様子を記録したものです。

運営メンバー等、芸術祭の詳細についてはこちらのリンクからご覧になれます。

ぜひ最後までご一読いただければ幸いです。


久比 小さな暮らしの芸術祭について

「久比 小さな暮らしの芸術祭」は、久比の暮らしや久比の人々との会話の中から、久比の移住者や芸術祭の参加者が感じた「異和感」をテーマに、様々な視点を通じて、これからの「暮らし」について考えることを目的としています。

芸術祭の会場は、崎原学舎、国実邸、旧花木家隠居、木下邸、寺尾邸、旧小林邸の計6か所で、参加者の方々には、それぞれの会場を巡っていただきながら、作品鑑賞、語り部などを体験していただきました。

今回の芸術祭は、以下の三部構成で実施しました。

久比の滞在者が表現した久比の「異和感」

滞在者や移住者が久比で暮らしている中で感じた「異和感」を、写真、動画、音声、文章などそれぞれが得意なメディアを通して表現しました。参加者の方にはこれらの作品を通して、それぞれの視点から見た久比を感じてもらうことを目的としています。作品は、旧花木家隠居、寺尾邸、旧小林邸などで展示しました。

久比の語り部

私たちがどのような体験を経て「異和感」を感じているのか、参加者にもその原体験を味わってもらうことを目的としています。手法:5名+先導を一組として、久比の人々の生活空間を舞台にした会場2か所を巡ります。各会場に真っ白な什器を置き、その上に久比の人たちが選んだ「久比の暮らし」にまつわるものを置いて、それを軸に久比の人々が語ります。

また、各会場を巡る前に、参加者の方には一人一枚ずつ久比の暮らしにまつわる「お題札」を引いてもらい、語り部のおじいちゃんおばあちゃんたちと参加者がコミュニケーションをとりながら、久比を感じてもらいます。

お題札の例:こたさで、えぎす、こうろく、何種類の動物を飼っていたか、今が旬の食べ物など

「異和感」の正体に迫るワークショップ

語り部の中で参加者それぞれが感じた「異和感」から、「様々な視点から見た久比」を読み取り、これまで自分の暮らしの中だけでは気づけなかった視点を知ることを第一段階としています。

また、そこからこれまで考えてもみなかった視点を得て意外性や共感を得たり、それぞれが暮らしの中で漠然と抱えていた「問い」や「大切にしたいこと」の解像度が上がったりすることで、改めて自分の暮らしに立ち返って考える機会をつくることを目的としています。

芸術祭ができるまで

今回の企画は、久比でよく集まっていた福島大悟、飯田夏、延岡空の3人を中心に、久比のおじいちゃんおばあちゃんたちとの話や作業の中で感じる「異和感」を考察したり観察したりする中で、「この久比の暮らしの面白さをより多くの人に伝えたい」という思いから始まりました。

12月

芸術祭の企画が具体的にスタートしたのは2023年12月9日。芸術祭をやろうという話に共鳴した数人を集めて、雑談会を開きながら、久比の面白さや久比でこれまで感じてきたことを語りつつ、こんな展示をしたい、こんな語り部の場をつくりたいなど企画の内容や次回の打ち合わせ、企画の進め方についてまとめていきました。

1月

第一回目の開催とアートブックの制作が決まり、運営資金はクラウドファンディングによって集めることが決まったため、クラファン運営サイトにプロジェクト申請を行いました。また、プロジェクト申請を行うにあたり、具体的にどのようなコンセプトにするか、具体的な開催当日のプログラム内容、クラファンページに掲載する文章の作成、実施に必要な作業の洗い出しなどを行い、久比のおじいちゃんおばあちゃんたちへの協力依頼など、毎週、現地やオンラインなどで打ち合わせを重ねながら進めていきました。

2月

たまたま映像制作に興味がある実行委員のメンバーが多かったため、芸術祭のPV制作もしようということになり、映像制作合宿を行いました。久比のおじいちゃんおばあちゃんたちに協力を仰ぎ、「久比の暮らしと芸術祭の企画ができるまで」をコンセプトに撮影・編集を行いました。

3月

この頃、いよいよ芸術祭のクラファンページ掲載に向けてのブラッシュアップが大詰めを迎えていました。どのようなタイムスケジュールで開催するのか、ボランティアメンバーの募集と打ち合わせ、久比の語り部のおばあちゃんたちとの打ち合わせなど、もう少し早く準備するべきだったかなと焦りながら、試行錯誤していました。徐々に形が出来上がるにつれて、一同ドキドキワクワクしながら準備に当たっていました。振り返ると準備期間や作品制作のアナウンスの時期などいくつかの反省点もあり、次回以降の準備の際の学びとなりました。また、それぞれのメンバーの「久比で感じた異和感」をテーマにしたレポートも書き、いよいよクラファンページがオープンとなりました。

4月

クラファンページがオープンとなり、久比や芸術祭について知っていただくため、これまで久比に来られた方、大学の先生方、久比に興味を持ってくださっている方などにメッセージを送りました。結果、今回のクラウドファンディングでは、メッセージを送った方たち以外にも、久比出身の方やいつもお世話になっている久比のおじいちゃんおばあちゃんたちのご家族の方たちも含めて、計60名以上の方にご協力いただき、無事、目標金額を達成することができました。また、開催に向けて、広島市内の大学生を招待して芸術祭のリハーサルを実施し、学生からいただいた多くのフィードバックをもとにしながら、ワークショップの内容、開催前日のインプット情報、会場設営などの準備を進めていきました。

5月

開催会場となる崎原学舎、寺尾邸、旧小林邸、旧花木家隠居の掃除をして行会場整備を行ったり、作品が現地に到着し展示のための会場整備を行ったりしながら、着々と当日のための準備を進めました。

芸術祭前日の様子

5月4日の午後、芸術祭参加者の方々が続々と到着すると同時に、スタッフによる会場設営が行われていました。参加者の方たちは夕食まで、それぞれの部屋でゆっくりくつろいだり、海へ散歩に行ったりと、それぞれ自由に過ごされました。

4日の夕食のメニューは、まめな食堂のシェフの更科さんによる唐揚げ、サラダ、麻婆茄子などスタミナのつく料理でした。参加者やスタッフが一堂に会し、みんなで食卓を囲みながら和気藹々とした時間を過ごしました。

夕食後の20時から、参加者の方々には今回の芸術祭のメイン会場である崎原学舎という建物に移動していただき、スタッフと参加者の自己紹介の時間を設けました。その後、芸術祭で久比を回るにあたっての事前情報として、「久比とは何か」についてのインプットの時間を作りました。

インプットの目次は以下の通りです。

  • 久比について

  • 久比の地理

  • 久比歴史年表

  • 久比の暮らしの概観(農床・平釜・柑橘産業)

  • まめなについて

  • 説明事項(当日スケジュール・グループ分け・ルート説明・チェックアウト時刻の確認)

今回の参加者は、県内、島根、京都、東京、神奈川、アメリカなど、様々な場所から集まった方たちで、世代も多様なメンバーでした。それぞれ、名前、芸術祭への参加の経緯、どこから来たのかなどを自己紹介していただき、インプットの時間を終えました。しばらく歓談した後は、順次寝る準備に入り、翌日に備えました。

芸術祭当日の様子

当日のスケジュールは以下の通りです。

開催当日の朝7時、スタッフが各会場の最終チェックを行いました。8時にはまめな本部広間で、参加者と一緒に朝食をとりました。

久比では毎年ゴールデンウィークの頃に柑橘の花が一斉に咲き誇ります。朝露の中で柑橘の花の香りとともに目覚めるのがとても気持ちが良かったとのことで、朝食前に散歩に出る参加者もいました。

朝食は、久比で採れた柑橘のジャムが添えられたパンとスープ、サラダ、卵料理でした。

開会式

朝食後の9時には、メイン会場である崎原学舎に移動し、開会式が行われました。ここで、「久比 小さな暮らしの芸術祭」のPV上映と芸術祭の概要や、趣旨などの説明が行われ、後半のワークショップの概要も説明されました。さらに、語り部の際の心構えをお伝えし、や語り部で使用する「話題札」、と熱中症対策の飲み物が参加者に配布されました。

開会式と同時に、語り部の会場では、待機スタッフが会場の準備を行いました。

スタッフも楽しそう(背負っているのは柑橘運搬用の「おいこ」)

語り部・作品鑑賞

今回の芸術祭では、先導役1名+参加者5名+カメラマン1名を一組として、久比の谷間に点在する語り部会場と作品の展示会場の計6つの会場を3時間かけて巡りました。当日の天気は五月晴れで、日差しは強いものの風は涼しく絶好の散策日和でした。

また、各家の農床には様々な種類の花が咲いていたり、夏野菜の苗が植わっていたりと、参加者の方たちもしきりにカメラを向けて撮影を楽しんでいました。途中、いくつかのポイントでは、先導による久比の建物や生活文化に関する説明を受けながら、一行は一つ目の会場へ向かいました。

語り部会場の1つである木下邸では、民家の一角をお借りし、柑橘の運搬用に使う「みかんかご」を並べて、できるだけ久比で普段見かける井戸端会議と同じ様子で行えるように会場設営をしました。

また、今回は各会場に、真っ白な什器を設置し、その上に久比の暮らしにまつわるものを展示しました。木下邸には、おばあちゃんたちによって物や焚きつけ(こた)を入れるのに使う「ゆぐり」と、柑橘運搬用の「おいこ」が置かれました。

一行が到着すると、参加者と語り部のおばあちゃんたち、スタッフたちそれぞれが自己紹介を行い、参加者が話題札の内容に沿って質問する形で語り部が始まりました。

話題札の内容は、農に関すること、海の幸やその獲り方に関すること、自然の事象に関すること、大工仕事、冠婚葬祭、郷土料理、久比独特の単語についてを主に取り上げました。

話題札の質問に対して、「えぎすは海に生えてる海藻のことよ、釜で煮てえぎす豆腐ゆう豆腐作るんよ」など具体的な答えが返ってきつつ、さらに参加者側からさらに質問が入ったり、おばあちゃんたち同士で話が弾んだりと、久比の暮らしに関する話がどんどん膨らみ、参加者もおばあちゃんたちも打ち解け合い、和やかな時間となりました。

また、久比のおばあちゃんたちから「せっかく久比にきたんじゃけぇ」と、畑でとった柑橘の生搾りみかんジュースや、「これも持っていきんさい」とマーマレードをいただく場面もありました。

参加者の方の中には、「久比での暮らしが自分の故郷での暮らしととても似ているからおばあちゃんたち話がとても懐かしかった」という方もいれば、「自分が想像していた以上におばあちゃんたちが元気で温かかったのと、海や山と暮らしの近さに驚いた」という方もいて、それぞれ語り部の中で感じたことをメモ帳やパンフレットなどに書き込まれていました。

一行は語り部のおばちゃんたちと別れをつげ、作品の展示会場へ向かいました。

二つ目の会場である寺尾邸は、風が心地よい縁側が特徴的な築150年の古民家で、参加者たちは作品鑑賞をした後、縁側でくつろぎながら鳥の声や景色を楽しみました。

寺尾邸では、飯田夏と玉置岳斗による写真、福島大悟による音声メディアの展示が行われました。

寺尾邸を後にして向かった旧小林邸は、古めかしい井戸小屋が印象的な古民家で、久比の特徴である「農床(のうとこ)」と呼ばれる家庭菜園を眺めながら思い思いに時間を過ごしました。

旧小林邸では、延岡空の詩とフィールドノート、久比の暮らしにまつわるものとして、ひじきを炊く道具、鉋(かんな)と鏝(こて)が展示されました。

次の会場である旧花木家隠居は、それまでの会場がある東の谷とは反対の西の谷にあり、一行は、家々の間の小道を抜けたり、野いちごを摘んだり寄り道をしたりと散策を楽しみながら向かいました。

久比では、子どもが家族を持つと親は自分がそれまで住んでいた母屋から出て、新たに隠居を建ててそこで暮らすという風習があり、旧花木家隠居もそのようにして建てられた建物でした。参加者は、建物の土壁や磨りガラスに展示された作品を楽しみました。

旧花木家隠居には、飯田夏による久比の暮らしをテーマにした写真作品が展示されました。

最後の会場である国実邸は語り部の会場で、私たちが普段お世話になっているおばあちゃんの家の一角の、久比の言葉で「二小屋風」と呼ぶ場所にみかんかごを並べて設営しました。「二小屋風」とは、家と家の間の涼しい風が吹き抜けるスペースのことで、普段から暑い季節には久比の人がよく集まる場所です。

什器の上には、草削りや手鎌、牡蠣打ち、なた、貝掘り、かっぽ(小さい草を根ごと掘る道具)、など久比の暮らしに欠かせない道具が置かれていました。(半分が久比の鍛冶屋で作られたもの)

語り部では、食卓と海との関係性、知恵が詰まった剪定ばさみなどの道具の使い方や手入れの仕方、食材の調理方法、久比での娯楽についてなど、30分ほどの短い時間の間でもとても濃い話を聞くことができました。また、話題札に書かれた久比の言葉が参加者から出た瞬間、どっと笑いが起きる場面などもあり、「7月のところてんを炊く時は絶対来ます!」など、おばあちゃんたちと次の約束をする参加者もいました。

語り部が終わると一行はまめな食堂へ行き、もう一方のチームと合流して昼食をとりました。

昼食のメニューはスパイシーチキンカレーとサラダでした。

ワークショップ

昼食後13時半からは、崎原学舎へ移動し、語り部で参加者が感じたことを踏まえて「異和感の正体に迫るワークショップ」を開催しました。

ワークショップの概要

語り部の中で参加者それぞれが感じた「異和感」から、「様々な視点から見た久比」を読み取り、これまで自分の暮らしの中だけでは気づけなかった視点を知ることが第一段階となります。

また、そこからこれまで考えても見なかった視点を得て意外性や共感を得たり、それぞれが暮らしの中で漠然と抱えていた「問い」や「大切にしたいこと」の解像度が上がったりすることで、改めて自分の暮らしに立ち返って考える機会をつくることを目的としています。

ワークショップは以下の四つのセクションからなり、一人一枚配布した模造紙にお題を書き込む形で進めました。

1,久比で感じた「異和感の種(えー、確かに、そうなんだ、おもしろ)」を書きだす

2,なぜその「異和感の種」を感じたのか理由を書きだす

3,それぞれが感じた「異和感」を共有する(共有を聞いた側からのフィードバック(コメントとして書き込み)

4,自分の暮らしに落とし込んで、これからの暮らしの中でそれぞれが大切にしたいこと、考え続けたい問いを発表するまた、参加者を3〜4人ずつチーム分けし、各組ごとに書き込んだことについて共有しながら進めていきました。

ワークショップが始まると、何を書くかや書き方について悩む参加者もいましたが、チーム内で会話しながら進めたことで、同じ語り部の場にいてもそれぞれ見ている視点が違うという発見があったり、そこからこれからの自分の暮らしについての気づきがあった参加者の方もいらっしゃるなど、とても興味深い場となりました。

各参加者のシートは、アートブックにも掲載予定です。

ワークショップの後は、閉会式を行い集合写真を撮影して第一回 久比 小さな暮らしの芸術祭は無事終了となりました。

芸術祭を終えて

今回の芸術祭の目的の一つには、「どうやったらこの久比の暮らしの面白さをより多くの人々に伝えられるか」というものがありました。

以下、参加者の感想です。

とても心のこもった企画で、内容も充実していて、主催のみなさんの思いがよく伝わってきました。その思いに感応して集った参加者の皆さんも、久比の方たちも、素敵な方ばかりで、楽しく過ごすことができました。自分にとって、働き方を変えて、暮らしのギアを入れ替えたタイミングだったので、ちょっとしたチャレンジが成功できました😊

久比訪問が二度目だったため、プログラムに参加する形で様々な久比の魅力にふれることができました。
また、短い時間でしたが、余白の時間があったことで「感じること」、「考えること」という湧き上がってくるものを大切にできていました。

芸術祭というよりおばあちゃんの生活に興味を持てました。

アートも素敵だったし、案内してもらいながら歩くのも楽しく、もう少し語り部の話を聞いてみたいと思った。

久比の大自然に触れながらの町散策とおばあちゃんたちからお話を聞く&参加した方達との交流が新鮮だった。また、先導役の話を聞くのが楽しかった。

語り部やワークショップに関するアンケート結果を見ても、久比の暮らしの面白さに関する感想をいただき、概ね目的を達成することができました。

一方で、今回の芸術祭は第一回目ということもあり、作品展示、語り部、ワークショップの三部構成で行う形で、企画段階でメンバーがやりたいと考えた項目を全て詰め込んだ形で行いましたが、特に語り部をもっと聞きたかったという意見もあれば、作品の展示数を増やして欲しいとの意見もあるなど、次回以降、どの部分にフューチャーして開催するかといった課題も残りました。

また、アンケートやスタッフからの意見として、配布物のクオリティやワークショップ等のスクリーンの見やすさなどいくつかの改善点が上がりました。

しかし、全体的な感想や意見としては、久比の魅力や面白さを伝えるコンテンツとして大変充実していた旨のものが多く、一旦、今回の芸術祭は大成功だったと思います。特に、参加者、ご協力いただいた久比の方々、スタッフ一同、みんなで存分に楽しめたことが何よりでした。

開催後に行われたスタッフの反省会では、自分たちが久比の面白さを一日に詰め込むという難題に関して、開催人数や時間配分、散策コースの距離、天候など全てがちょうど良かったとの意見が多く挙がりました。また、運営や語り部の方々との協力のもと、無理なく開催できた規模感が良かったとの声もありました。

さらに、次回以降の運営や開催内容をどうするかとの話題も上がり、11月開催案も浮上しています。

現在、芸術祭の結果を踏まえて、「久比とは何か」をテーマにアートブックの出版準備中です。

また、続報があればまめなのインスタやフェイスブック等を通じて発信しますので引き続きよろしくお願いいたします!!