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カストラート〜音楽の犠牲者〜

カストラートとは、美しいボーイソプラノを維持するため去勢された男性歌手のことである。

16世期〜18世期イタリアでは、変声期を迎える前の少年たちに去勢手術を施し、男性ホルモンの分泌を抑制させることで、大人になってもその美声を維持させていた。

当時、教会内では女性が歌うことは許されていなかったため、聖歌隊は少年たちで結成されていた。そんな中、教会音楽の発展に伴い登場したのがカストラートだった。彼らは後にオペラ界にも進出し、その独特の官能的な美声で人々を魅了した。いわば当時の花形で、あのモーツァルトも彼らのための作品を書いている。

最盛期には、毎年4000人もの少年たちが、カストラートになるため去勢された。そのほとんどは親によって強制的に行われたものだった。我が子がカストラートとなって莫大な富を得ることができれば、貧困から抜け出すことができるからだ。しかし、成功を掴むのはほんの一握りで、大半の者は精神的にも肉体的にも辛く苦しい人生を送った。それどころか、手術後の感染症などで命を落とす者も数多くいた。

現在は人道的理由から禁止されているが、世界最後のカストラートは1900年代まで存在し、肉声の録音が残っている。

今では考えられないが、あまりにも多くの少年たちが、音楽のために犠牲になった。私もカストラートのために作られた曲を歌ったことがあるが、演奏においてこのような歴史的背景を知っておくことはとても大切だ。現在まで続く音楽の歴史の中で、彼らのような存在があったことを忘れてはならない。


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