見出し画像

変わるもの変わらないもの

ふと自分に違和感を覚えて乗った体重計が指した数字は、自分の想像を超えていた。そりゃ部屋着のゴムの上にお腹のお肉がのるよな、と変に納得する。体重計を降りてため息をついてから、少し痩せようと自分の中で小さい決心をしたのが数週間前。

もとから太りやすい体質ではあったけど社会人になってからはストレスで過食しても、ジムに行ったり食事制限をしたら結構何とでもなった体重だったのに、30代も半ばになってからは減量も思いのままにはならなくなっている。10代・20代・30代と確実に私の体は変わってるのだなと虚空をみつめる。

とりあえず、時間がある時に歩こうと思い最近はよく歩いてる。休みの日の朝は、今から出勤するのであろう人々を避けながら40分~50分ほど歩く。そして、歩く以外にできるだけ炭水化物を少なくして間食をなくそうと心がける毎日。そんな気持ちに意地悪をするかのように音を鳴らすお腹。日々自分の甘さと葛藤している。

それなのに、あまり変化のない体重。

悲しい。どうしたら痩せれるの。バキバキ毎日筋トレすれば代謝も上がって痩せるのかもしれないけど、私の性格的に毎日続けるのは絶対無理。だから時間がある時に歩く事だけは続けようと言い聞かせる。

最近は朝も気温が高くなってきて、歩くのも結構しんどい。汗もかくし変態みたいと思うくらい鼻息も荒くなるし、心臓も頑張って血を送りバクバクする。だから外を歩きに行く前も自分と葛藤。

めんどくさい。でも痩せたい。んんんんーめんどくさい。ああああぁ今日行かんかったら絶対明日からも無理ー。でもでも、なんだかんだ帰ってきたら頑張った自分に嬉しくなるやん。運動って痩せる以前に体にいいねんから。

こんなやり取りを、天使の自分と悪魔の自分で繰り広げる。

そんなある日、音楽を聴きながら物思いにふけて歩いていた。面倒くささがおさまってきて、徐々に高まる気分。そんな瞬間に気持ちいい風が汗ばんだ私の体を吹き抜ける。その感覚がとても懐かしくて、いつか感じた事のある風だった。

学生の頃バドミントン部だった私は、シャトルが風の影響を受けないように締め切った体育館で練習をしていた。想像を絶する暑さ。

動いて動いて動いて、吹き出る汗。準備運動、ランニング、基礎練の数々をこなし上がる息。「休憩ー」という指導者の声を合図にして、纏わりつく灼熱の膜をかき分けて体育館の外に出る。腕で汗をぬぐい地べたに座る。少し凍ったスポーツドリンクを一気に飲み干し息をつく。開放的な空を見上げると、青く光る木々を優しく揺らしている風が私の体を撫でる。

青春の輝きを乗せていった風。あの時と同じ優しさと温度感と匂いが過ぎ去っていった。

フラッシュバックした一瞬から現在に引き戻された時、抗えない体の変化を感じつつも奥底に眠っている記憶の感覚と変わらないものがあるのだなと、どこかほっと安心した。

それがとてつもなく嬉しくて、大きく呼吸をして太陽の光を浴びながら、ゆっくりと家へ向った。また休みの日はしっかり歩こうと前向きな気持ちにさえなる。

良い気分のまま家に着いて汗を流し気分一新、ゆっくり乗った体重計には昨日と同じ数字が表示されていた。

30代とはこんなもの。そう言い聞かせながらも少し落ち込んだ私がいた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?