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私が恋した坂本サトルさんの文章3選

坂本サトルさんの書く文章が大好きです。

シンガーソングライターだから、歌、詞、曲が素晴らしいのはわかる。
ラジオも30年以上やっているからトークも上手。わかる。
しかしなんと、文章もめちゃくちゃうまいのです! 参った。

サトルさんの文章の素晴らしさは、以前、自分のnote「坂本サトルエッセイ集『weekend caravan plus』のこと」でも書いたことがあります。

リズムが良くて読みやすい。
サトルさん独特の書き口・文体がある。
そして物事を見つめる視線がウェット過ぎずドライ過ぎず、絶妙。

今回は、私の大好きな、恋焦がれた、年に何度か読み返す、
そんなサトルさんの素敵な文章を紹介したいと思います。

①エッセイ『Hey Jude』

初出は、2000年に出版されたサトルさんの著書『終わらない歌。』(バウハウス刊、現在は絶版)。

幼い頃、ご両親との思い出が描かれたエッセイです。
初出時はご両親ともにご存命でしたが、2012年にお父様が逝去され、上記ブログではエッセイの続きが綴られています。

書き出しからすごい。

若気の至りで連帯保証人の欄に実印を押してしまった僕の父は、20代にして身に覚えのない莫大な額の借金を背負った。
自己破産を免れるために、家、畑はもちろんありとあらゆる不動産が抵当に入れられた。
父はその数年前に列車の事故で父親(僕の祖父)を亡くし、バラバラになった遺体を線路上からひとつひとつ拾い集めるという惨状を経験したばかりだった。

坂本サトルエッセイ『Hey Jude』より

壮絶な出来事が淡々と書かれ、冒頭から引き込まれます。
全文はブログで読んでほしいのですが、一番好きな箇所は以下の部分。

1日が終わる。
ある日はたくさん売れ、ある日は売れなかった。
帰り道、売れ残ったリンゴと、いつ沈むかも知れない4人を乗せたハイエースは夕方の国道を家に向かって進む。
見えない明日。若かった父と母。何も知らずに騒ぎ疲れて眠る僕と弟。そしてそこに流れる外国の歌。
2人の子どもの親となった今、僕にはその頃の父と母の気持ちがわかる。
その時、父と母を支えていたのは間違いなく僕と弟だった。

坂本サトルエッセイ『Hey Jude』より

1日の終わり、日が暮れた道を走る車中の情景が目に浮かぶようです。
幼い子らが眠る車内は、リンゴの香りに包まれていたのでしょう。
この文章を読んだときに湧き上がる、胸を締めつけるような切なさ、そして温かさ、懐かしさ…。
本当に素敵な、素晴らしいエッセイだなと思います。

②これうま!だてうま!ブログ

TBC東北放送ラジオで放送されていた番組「あがLINE」との連動企画。
宮城の名物やメニューをサトルさんが食べ歩いた、全10店舗のレポートです(2013年11月~2014年4月)。
このブログほんとに大好きで、連載しているときオンタイムで読んでいました。
10店のレポート全部が秀逸。
サトルさんのユーモアたっぷりの文章がとっても楽しい。
なかでも、お店の背景や店主の人柄に関する文章はピカイチです。

一番好きなのはこれかなー。
「村上屋でづんだ餅」。名作。

③Graphic Edition of 蒼い岸に立つ

ソロ4枚目のアルバム『蒼い岸に立つ』(2005年)発売の際に企画された、自分で写真をセレクトできる写真集兼セルフライナーノーツ。
いわゆるアートブックです。

「Graphic Edition of 蒼い岸に立つ」

私は「メルカリ」で買いました(笑)。
(ありがとうインターネット!ありがとう出品してくれた方!)

このセルフライナーノートの文章が、びっくりするぐらいすべて名文でした。
あまりにも名文すぎて、年に何回か引っ張り出して読み返しています。

その中で私が一番好きな文章が、あとがきのような、最後のページに載っていた文章です。
一部引用したかったんですが、すべてが素晴らしすぎて、全文引用となってしまいました。(怒られたらひっこめます)

日々の生活の中での喜びと悲しみ、怒りと落胆、誰かを愛することの尊さと愚かさ、前を向いて歩くための知恵と発見。
これらを歌にして必要としている誰かに届けるのが僕の仕事なのだ、と思っています。そう決めたのです。自分で決めてしまったんだからしょうがない。
僕にとって「仕事」とは「社会においての役割」の事です。その役割を全うしようという気持ちは、ここ数年、日に日に強くなっていきます。
それは「腹をくくる」ということでもあるわけで、最近は我ながら肝が据わってきたような気がします。
人は年令を重ねる程に、自分だけで解決したり消化しなければならないことが増えてきます。他人に相談してもどうにもならないことというのは残念ながら確かにあるのです。音楽は、そんな時に心身を解放したり現状打破のヒントをくれたりする重要なアイテムです。つまり、年令を重ねる程、音楽はどんどん必要になっていくのです。しかし現状では年を取れば取るほど音楽に接する機会は減っていきます。それをなんとかしたい。
ライブの形態、作品の販売方法等、これからも試行錯誤は続くでしょう。もちろん「良い音楽を作り続ける」という大前提の約束を守りつつ。
これを読んでいるあなたが、僕のこれからの企みに面白がって付き合ってくれますように!

坂本サトル
「Graphic Edition of 蒼い岸に立つ」より

「誰かを愛することの尊さと愚かさ」。
これを書いたのがサトルさん38才のとき。
人生において音楽がなぜ必要かを明確に言葉にしているのも、清々しい覚悟を感じます。
そしてサトルさんの音楽人生が、このときから現在までブレていないのも感動してしまう。
この人の音楽に一生ついていってもいいかなーと思わせる文章でした。

このほか、「君にくらべれば」のライナーノートに記載された、

テレビを見てもネットを見ても新聞を読んでも、この世界には想像を絶する出来事が止むことなく起こります。
戦争で家族全員を亡くしてしまった男。彼の哀しみに比べれば僕なんて…と思うけれども、やっぱり悲しいときは悲しい。
感情は相対的なものではないのです。

坂本サトル
「Graphic Edition of 蒼い岸に立つ」
「君にくらべれば」ライナーノートより

「感情は相対的なものではない」という一文にも痺れました。

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サトルさんの文章をこうして並べてみると、改めて、言葉に対する誠実さが伝わってきます。
言葉遣いが正確で的確、それでいて個性的なのがすごい。

サトルさんの文筆家として才能、もっと注目されてほしいなーと思います。

●サトルさんの文章を楽しめるブログ『日々の営み』。
最近はブログをお休みされていますが、
過去の膨大なブログ記事から、
きらりと光る名文を発見するのもまた楽しいです。

●サトルさん執筆のメールが届く「サトルからのメール」。
いつも長文ありがとうございます!という気持ちになるほどの長文メールが届きます。
不定期。

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