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JIGGER'S SON/坂本サトル 『大丈夫』レビュー。ひとりじゃない 離れていても おなじ空の下いるから

‘93年にリリースされたJIGGER’S SONの『大丈夫』。
発売から30年近くたった今なお、ポジティブなメッセージと、心を鼓舞するメロディが胸を打つ、色褪せない名曲です。
恋愛という枠を飛び越えて、人生のアンセムとして、リスナーに愛され続けています。

大丈夫
JIGGER’S SON (ジガーズサン)

Lyrics & Music by 坂本さとる

離れていても そばにいても
君を見てる 君を見てる
きれいだと思う空はそこにあるかい?
僕はいつも空を見てる

ねえ
僕の出番がない想い出が増えたことを
悲しいことだなんて思わないで
君の空は君が広げるんだ

どんなに風が冷たくても 大丈夫
君の空は僕が見てる
君の願いはきっとかなうさ 大丈夫
君のために今できることは 歌うことだけだよ

大きな声で君を呼んだ時の
うれしそうなあの顔が好きだよ
小さかった僕らの上の空が
今 ふたり包むために広がる
ひとりじゃない 離れていても
おなじ空の下いるから

「会いたい」という言葉の代わりに 大丈夫
なぐさめるより勇気づけたい
僕はいつでも笑って言うよ 大丈夫
君のために 僕のために

JIGGER'S SON『大丈夫』

遠距離恋愛の応援歌として
リスナーの心を掴んだ『大丈夫』

坂本サトルさんが、大学時代にアルバイト先のスタジオで出会った仲間&実弟・坂本昌人さんと、’88年に仙台で結成したバンドJIGGER'S SON(ジガーズサン)

JIGGER’S SONは、’90年に「コロムビアレコード・アーティストオーディション全国大会」でグランプリを受賞。
’92年にシングル『お宝~大切な君だから』、アルバム『自画自賛。大切な君だから』の同時発売でデビューしました。

『大丈夫』は、1993年に発売されたJIGGER’S SONの3rdシングルです。
離れている恋人を想う、まっすぐで前向きな歌詞が、遠距離恋愛の応援歌として人気を博し、ヒットしました。

‘92年の2ndアルバム『おなじ空の下で』に収録された楽曲でしたが、全国からの反響を受けて急遽シングルカットされた、とのことです。
宮城県では、県内のフジテレビ系列のテレビ局、仙台放送でヘビーローテーションされ、この曲を知った方も多かったそうです。

筆者は特に、大サビのCメロ(♪大きな声で君を呼んだ時の~)からの盛り上がりが大好きです。この大サビを聴いた時の胸の高鳴りたるや。
たぶん、一生のうち何回聞いても、その度に胸が高鳴ると思います。最高ですね。

恋愛ソングという枠を超えて人生のアンセムに

遠距離恋愛ソングとしてヒットした『大丈夫』。
しかし、この曲は、災害時や、人生のシリアスな場面においても、リスナーを勇気づけ、存在感を発揮することが多々ありました。

例えば、サトルさんは、今まで2度ほど「お葬式で『大丈夫』を流しました」と言われたことがあるそうです。
一つは、喪主の方が「故人が空から自分たちをこういう気持ちで見守っているんじゃないか」と思ったから。
もう一つは、故人が生前に「この曲を自分のお葬式で流してほしい」と言っていたから、とのことです。

そして、2011年の東日本大震災の際、サトルさんは、被災地の各地の避難所で、『大丈夫』を歌い続けました。
坂本サトルさんの被災地復興支援と、10 for 10 TOHOKU「10年後の僕ら」|mamekichi41|note

また、気仙沼で被災したサンドウィッチマンは、JIGGER’S SONのファンということもあり、震災直後のラジオでは、たびたび『大丈夫』を選曲・オンエアして、被災地のリスナーを励ましました。
ちなみに、サンドウィッチマンは、単独ライブでも、幕前に会場でこの曲をかけているそうです。
サンドウィッチマン伊達みきおさんオフィシャルブログ

後述しますが、東日本大震災の避難所で歌ったり、震災直後のラジオでオンエアされたり、そのときの反響から、サトルさんの中でも、この曲は、発売当初とは違った意味合いをもつ曲として、特別なものになっていったようです。

2012年JIGGER’S SONが再結成
『大丈夫』をリテイク

JIGGER’S SONは2001年に解散しましたが、2012年に再結成。
その際、『大丈夫』をJIGGER’S SONのメンバーで再録しました。
その時のことをサトルさんは、こちらのインタビューで、以下のように述べています。

20年前(筆者注:2012年のインタビュー時から遡って)の『大丈夫』での「君」は恋人のつもりで書いていたけれども、歌っているうちにそれが子どもだったり親にもなる。「愛」は人間愛に広がっていく。歌う方がそういう思いで歌うと、聴き手にも伝わる。避難所でもたくさんライブやったりしたけど、必ず『大丈夫』を歌った。そういう状況で「大丈夫」って歌うのはどうかと思ったけど、“離れた人を想う歌”だから聞けばわかってもらえると思って。またその歌に意味が加わっていくんだよね。
20年経った『大丈夫』を入れたいと思った。限りなく元のアレンジのまま。キーもテンポもやっていることはほとんど同じ、演奏してる人も歌っている人も同じ。でも、20年でどれくらい変わっているのか、自分でもなんとなく思ってたしね。もう『大丈夫』は違う曲になってるって

せんだタウン情報machico編集長ブログより引用

『大丈夫』が普遍的に愛される理由

なぜ『大丈夫』は、今なお、私たちの心を励まし勇気づけてくれる、そんな魅力を放っているのでしょうか。
以下、筆者の所感になりますが、その理由と思うところを記載します。

①「君」への尊重と信頼が感じられるまなざし

筆者は、以下のフレーズが、この曲を、恋愛ソングの枠を超えた普遍的な名曲たらしめる、大きな役割を果たしているのではないかと考えます。

ねぇ
僕の出番がない想い出が増えたことを
悲しいことだなんて思わないで
君の空は君が広げるんだ

遠距離恋愛といえば、「会えなくて寂しい」「不安」「私を思い出して(忘れないで)」といったワードが思い浮かびます。
ところが、『大丈夫』の主人公は、恋人である君に対して、「僕の出番がない思い出が増えたことを悲しいことだなんて思わないで」つまり、君の思い出=体験に、主人公が不在であることを悲しまないで、と伝えています。
なぜなら、「君の空は君が広げる」ものだから。
離れている時間も、恋愛感情に囚われすぎず、お互いの場所で成長していこうよ、というメッセージが感じられます。

遠距離恋愛に対する強がりやポーズに聞こえなくもありませんが、言葉どおり純粋に受け取るならば、このフレーズから感じ取れるのは、相手へのまっすぐな愛と信頼です。
主人公の「君」に向けるまなざしの根底に、束縛的・依存的な恋愛観ではなく、個人への尊重と信頼がある。
そのため、歌われる「愛」が、恋人はもちろん、親子の愛だったり、友人や大切な人への愛、という風に、幾多のイメージに置き変えることができる。
そのことが、多くのリスナーの胸に響いて、勇気づけてくれるのだと思います。

②「空」という言葉によるイメージの広がり

『大丈夫』では、「空」という言葉が、多用されています。
自分たちの頭上にある、地球上の全世界とつながっている空。
「おなじ空の下」というフレーズだけで、相手とのつながりや、相手を思う気持ちを想起させます。

そして、歌詞を追っていくと、「空」は、歌の中でいろいろなイメージとして使用されていることがわかります。

「♪きれいだと思う空は そこにあるかい?」
空の見え方を通して、離れている君の心情を心配しているようです。君の目から見える空は、悲しみで曇っていたり、雨だったりしていないかと。
「♪僕はいつも 空を見てる」
空を見上げることで、君のいる遠く離れた場所とのつながりを感じ、また君の心情をいつも気にかけているよ、とも伝えているようです。
「♪君の空は 君が広げるんだ」
この空は、君がこれから見たり体験する世界、視野の広さ、だったり。
「♪どんなに風が冷たくても大丈夫
君の空は 僕が見てる」

君の空=恋人の住む場所、心情、これから進む世界など、さまざまな意味が含まれているようです。
「♪小さかった僕らの上の空が
今 ふたり包むために広がる
ひとりじゃない 離れていても
おなじ空の下いるから」

お互いを思う気持ちが、塞ぎ込んで狭かった視野を広げてふたりの世界を大きくしていく…等々、いろいろ解釈が広がりそうなフレーズです。

「空」という言葉が、聞き手のイメージを広げ、遠距離恋愛中の恋人から、亡くなってしまった故人まで、自分が置かれた状況に合わせて様々に解釈できる余地を生んでいます。
そのことによって、リスナーがこの曲を「自分のための歌」として捉えることができます。
それが、この曲がリスナーの心に寄りそうように聴かれる理由なのではないかと思います。

③前向きでエネルギッシュなバンドのアレンジ

主人公は、歌の中で、
「♪君のために今できることは、歌うことだけだよ」
「♪僕はいつでも笑っていうよ 大丈夫
君のために 僕のために」
と、実は、弱音?とも取れる言葉も吐き出しています。
離れている君にできることは、歌うことだけ。
それでも、恋人に対して、慰めるより大丈夫だよと勇気づけたい。
それは、君のためでもあるし、僕のためでもある。
主人公も、「大丈夫だよ」と言い聞かせることで、自分の気持ちを鼓舞しているのかもしれません。

しかし、サトルさんの明るくて力強いヴォーカルや、バンドのエネルギッシュなアレンジとプレイ、そしてJIGER’S SONの爽やかで純粋といったイメージから、こう言った弱音すら、ピュアな本音のように聞こえ、歌全体がポジティブに受け止められます。
大丈夫、ひとりじゃない、なぐさめるより勇気づけたい。
そういった前向きなメッセージが、ストレートに胸に届き、心を奮い立たせてくれます。

まっすぐ純粋なメッセージを、そのままリスナーに伝えられるのは、それこそバンドの魅力そのものと言えると思います。

なお、『大丈夫』のヒットにより、バンドの名を世に知らしめたものの、JIGGER’S SON=好青年でポジティブ、といったイメージが固定してしまい、当時はそれを払拭するのに苦労されたと、サトルさんはお話しされています。

④結論:歌詞とメロディと歌とバンドがかっこいいから

つまりそういうことです。

もし、若かりし頃に『大丈夫』を聴いていた方、懐かしさを覚えた方は、ぜひ、現在のJIGGER’S SONの『大丈夫』も聴いてみてください。

『大丈夫』(2012年ver.)は、
再結成したJIGGER'S SONのアルバム『SOUND of SURPRISE』に収録されています。

■JIGGER'S SON / SOUND of SURPRISE(ポストカード付き!) - 坂本商店 web Market (shop-pro.jp)

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