まんまるなみだ

2021.8.25~ 詩/音楽/写真

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2021.8.25~ 詩/音楽/写真

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最近の記事

詩「まぶた」

涙から涙が生まれて絶え間なく あなたがかなしみを流すとき まぶたは鋭いナイフで負った傷口のように 痛々しかった 涙から涙が生まれて絶え間なく あなたがよろこびを流すとき まぶたは羽化したばかりの蝉の抜け殻の裂け目のように 清々しかった

    • 詩「いつのまにか」

      ミリバールはいつのまにかヘクトパスカルに変わり 空気は肺に取り込むものじゃなくて 顔色をうかがいながら読むものになっていた カロチンはいつのまにかカロテンに変わり あなたの名字は 聞き慣れない響きのものになっていた ビルマはいつのまにかミャンマーに変わり 僕はといえば、これまで流してきた涙の分だけ 身軽になっていた

      • 詩「瞬き」

        瞬きで会話するホタルのようにあなたと 瞬きでわかりあってみたかった 羽撃きを覚えたばかりの小鳥のようにあなたと 瞬きで飛び立ちたかった 何者でもないわたしたちはあの夏 何者でもありたかった 何者でもないわたしたちはあの涙 何かしらの意味を持たせたかった

        • 詩「寿命」

          味のなくなったガムを 噛み続けている 説得力のなくなった涙が 流れ続けている 横顔が 夕陽に照らされた朝顔のように萎れている 花の寿命は一日だけれど あなたの寿命はまだ続くのだけれど

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        • なみだのある風景
          271本
        • モノクロスクエアな風景
          40本
        • 音楽を着がえる
          14本

        記事

          詩「ゼロ」

          ウソ泣きは五回目で罪悪感がゼロになる そのたび涙の塩分濃度は薄まり、とはいえ純水になるわけでもなく 失恋は五回目で喪失感がゼロになる そのたび傷心旅の移動距離は延び、とはいえ恋に臆病になるわけでもなく 夏は上書きされるたび暑くなり 私は上書きされるたびゼロになる

          詩「武装」

          反論されないよう理論で武装し 他国の脅威に対抗するため核武装する 自信のない自らの見栄えがよくなるよう肩書きで武装し 相手を傷つけたことだって武装した涙で許しを請う 嫌気のあとからゆるやかに光が差すような そんな武装解除をねがいます

          詩「改竄」

          学区か校区か、体育座りか三角座りか 通信簿か通知表か そんな小学校のころの呼び方の違いで 盛り上がる それより あなたが友達に何て呼ばれていたとか どんなとき泣いたのか気になるけれど 思い出なんて都合よく改竄してしまっ たから都合のよい記憶しか残っていな いと笑う それから あなたがどんな夏休みを過ごしたとか 花丸をもらった理由など気になるけれ ど 記憶なんて都合よく改竄してしまって 夕方の落雷の音は小学校のころ以来だ と盛り上がる

          詩「信用しない」

          唯一無二の という言葉は信用しない 信用してね という言葉も信用しない 無機質な記号と化し 色や温度を失った言葉が 路上に転がっている夏 間違いない という言葉は信用しない 愛している という言葉も信用しない ぼくのために流したわけじゃない 夏を潤すきみの涙のみ 信用してもいいと思った

          詩「信用しない」

          詩「溺れる」

          水に溺れるな 酒に溺れるな 涙に溺れるな いつか蒸発し 消えてなくなる ものに 愛に溺れたい 恋に溺れたい 夏に溺れたい いつか終わり 消えてなくなる けれど

          詩「はみ出してるもの」

          ごぼうと長ねぎがレジ袋からはみ出してる フランスパンとセロリをエコバッグからはみ出させたかった帰り道  夕焼け 邪と作為的な感情が涙袋からはみ出してる フランス映画の愛あふれる場面で自然に涙を流したかった帰り道  三日月

          詩「はみ出してるもの」

          詩「没落」

          きれいごとばかりじゃないのはわかっている 白を黒と言わなきゃならないことだってある 表情を失い歪んだ笑み浮かべる人が沢山いる 腹話術の人形のようで見ていると悲しくなる 操っているようで操られていてさみしくなる ガラス玉から涙が流れるばずなんてないよね ラムネの瓶で揺れるビー玉の方が感情豊かで 没落してゆく世界を滲む視界で見渡す夏の日

          詩「スコール」

          やがて虹を連れてくるスコールのように感情をほどいて泣くわたしは 我慢できる痛みでナースコールなんて押さない 見たくない世界をスクロールして画面から消して平静を保つあなたは 室内プールで疲れ知らずのクロールを披露する

          詩「スコール」

          詩「崩壊」

          腹筋は崩壊しないし 涙腺も崩壊しない 感情が震えれば仰々しくなく笑い 縺れることなく泣く 建物は崩壊するかもしれないし 家族も崩壊するかもしれない でも世界は崩壊しないだろうし 不安は煽られないだろう お好み焼きをひっくり返すように 言葉をひっくり返してみればいい 崩壊しそうになったら 感情を解放してみればいい

          詩「根拠」

          根拠のない まかせて と 根拠のない 大丈夫さ に 根拠のない 自信を携え 根拠のない 初恋をする 根拠のない 涙を流して 根拠のない 朝を迎えた それでもさ もとになる 理由を問う ている時間 は、もった いないよね

          詩「目的」

          物干し竿にぶら下げられた烏よけのCDと、地面に倒れた猫避けのペットボトルが輝きを失い、役割を放棄している庭のある家の、引き出しにしまわれた写ルンですの中で現像を待つぼくの笑顔は引きつっていなかっただろうか。 もう飽きた。いつまでも死んでいたいわけじゃない。 すべてが満たされたお花畑から川にかかる橋をわたって、光ある生。やさしさを押し付けられて、押し花のようにならぬよう夏を真似て笑い合い、大切な人からいちどだけ美しい花束をもらって大号泣するんだ。

          詩「躊躇」

          泣くまい 泣き出す まい 躊躇に 躊躇を 重ねる 涙が一粒 サイダーの泡 に落ち 躊躇なく 泡が包み込み おしまい