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短編小説「さすらいの暴飲王」

進めども進めども続く果てのない荒野。
ずいぶん昔、人類は自分たちの手で文明を破壊してしまった。大規模な戦乱は大地を焼き尽くし、酷い磁気嵐は空を飛ぶ自由さえも奪ってしまった。
それでも人類は逞しく生き延びて、あるとも知れない明日に向かって走り始めた。
砂、鉄屑、硝煙……砂、鉄屑、硝煙……旧時代の遺産はキャタピラを回しながら進み、力と鉄の塊だけが正義の新時代に咆哮を上げる。
荒れ果てた世界を旅するのは、賞金目当ての命知らずか暴力でしか生きる術を知らない悪党共、あとは頭のネジがぶっ飛んだイカレ野郎くらいだ。
今日も無事に生きていることに感謝しながら、祝福という名の酒を浴びて、鉛弾という歓迎を振る舞う。
ようこそ、砂と鉄だけの世界へ。
なんだって? 丸腰で来た?
安心しろ、そんなものなら砂の中にいくらでも埋まってる。 
涙と優しさを落としてきた?
残念だな、そんなものは金属探知機でも見つけられない。
腹を括れ、目を凝らせ、地面を掘れ。話は全てそれからだ――


なんて格好つけていた賞金稼ぎは、ボクタチと別れて3日後に死体になった。

ボクタチは荒野の掟に則って、彼の持っていたお金と武器と食糧、それと彼の愛した鉄クズを貰っていく。
荒野の落し物は誰かに拾われて、その誰かの生きる足しになり、その誰かが命を落っことした時に再び落とし物となり、また別の誰かに拾われる。荒野ではそうやって命を繋いでいくのだ。
ボクタチの乗っている荒野に場違いなフォークリフトも、そうやって誰かに繋いでもらった命そのものだ。

ボクの名前はフライデイ。かつて世界で一番幸せな人の多かった日の名前をつけられたロボットだ。

「ううぅ、頭いたーい……水のみたーい……」
そして操縦席で無様で情けなくてみっともない姿を晒している人間のクズが、ボクのご主人様のハナ様だ。

ハナ様は頭と肝臓が壊れているので、朝から馬鹿みたいにお酒を飲む。人間のカスだから毎日いつでもどこでも酒カスになる。
酒カスは酒を飲むしか能のないカスなので、太陽が真上に昇る頃には二日酔いになってダウンする。
フォークの上に積まれたコンテナの中の酒はいつの間にか空になり、コンテナの下に敷かれた鉄クズがかわいく見える程の人間のクズに成れ果てるのだ。

「酒カスは学習しない、脳ミソの代わりにウンコが詰まってる」
「フライデイ、水ちょうだい……」
「ハナ様は水もひとりで飲めないんだから、ママのおっぱいからやり直すといいよ!」

ボクは酒カスに水筒を持たせて、優しく口を開けさせて水を飲ませて、萎びた野菜くらいにはシャキッとさせる。
うめき声を上げながら上半身を起こす人間のクズを支えて、ハンドルを握らせたら立派なバシャウマの完成だ。
さあ、走れ、バシャウマ! ボヤボヤしてたら日が暮れるぞ!

「ねえ、フライデイ。次の街まで、あと何キロくらい?」
「たまには自分で計算しようね、ウスノロ! 次の街までは、あと100キロ弱だから、4時間もあれば到着するよ!」
荷物を積んだフォークリフトは遅い。ハナ様とドッコイドッコイなウスノロだ。
ハナ様はドッコイドッコイどころか、スットコドッコイだけどね!


4時間後――

ボクタチは荒野のど真ん中にある小さな集落に到着した。
ここに来るまでに、ならず者の襲撃を受けたり、旅商人を助けてあげたり、スクラップを拾ったりしたけど、あえて語るほどのことでもないニチジョーサハンジだ。
ハナ様がシートに座り過ぎて尻が痛いって泣いてるのもニチジョーサハンジだけどね。
もちろんそんなヤワなクズは放置一択だよ! ボクはガソリンに銃弾に食糧に、補給が忙しいからね!

「コックスコーム? ルースター、賞金500G、ピッコロ・ガッロ、賞金1500G……だれ?」
「新しい賞金首だね。聞いたことない名前だから、オコヅカイみたいな金額も納得だね」
ハナ様が見てるのは、壁に貼られた賞金首リスト。

荒野はどこまで行っても治安が悪いから、集落や街のみんなでお金を出し合って、悪い奴らに賞金を賭ける。街単位ではどうにもならないようなレベルの大物には、もっと巨大な組織から討伐報奨金が出るらしいけど、ボクタチは自警団じゃないからあまり詳しく知らない。
3000G以下はハナクソ、5000以上はナミ、1万を超えるとツワモノ、5万を超えるとバケモノという一応のランクも存在する。

「おい、そこの酒樽みたいなロボとまな板みたいな女! 誰の賞金がお小遣いだって!?」
リストを眺めているボクタチの横で、ニワトリのトサカみたいな真っ赤なモヒカンの男が、ダチョウみたいに足をドタバタとさせて怒ってる。すぐ怒る人間はカルシウムが足りないので、その辺の石でも齧ってればいいんじゃないかな。

ちなみに酒樽みたいなロボはおそらくボクのことで、ニワトリの言うとおりボクは酒樽にドーム状の頭と、先端がCの形をしたアームをくっつけた形状をしてる。どれだけ世界が荒れても酒樽だけはみんなから大事にされる、という開発者の心がけのタマモノだ。
まな板みたいな女はいうまでもなくハナ様のことで、首から下が地面に向かってまっすぐに伸びている、その平べったい形状からだ。オッパイは産まれた時に落としたに違いない。

「あー……あんまり大きい声出さないでくれる。こっちは二日酔いでさー」
「ニワトリはニワトリらしく朝だけ鳴いてたらいいよ! あとニワトリ語はわからないから、通訳を呼ぶといいよ!」
ボクタチが大声を出さないでと丁寧にお願いすると、ニワトリはなぜか顔を真っ赤にして怒り出して、手足をブンブンと振り回してる。3歩歩いても忘れないように、人間の言葉もちゃんと覚えて欲しいものだね。

「ふざけんじゃねえぞ、このポンコツとまな板!」
ニワトリが一丁前に腕なんか振り回して殴りかかってくる。足以外も使えるなんて賢いニワトリだね!
でもニワトリは弱肉定食だから、当然秒殺されちゃうよ!

ハナ様が腰から抜いたガリ勉のメガネくらいガラスの分厚い酒瓶でぶん殴られて、ニワトリが唐揚げの材料みたいにぶっ倒れて、空を見上げてピヨピヨと目を回してる。
このまま肉屋に卸してもいいけど、こいつはどうやら賞金首のルースターとかいうハナクソみたいだね。
コックスコームとかいう荒くれ集団のメンバーで、罪状は無銭飲食と置き引き。

「え? こいつ賞金首なの?」
「そうだよ、フシアナ! 目を見開いてリストを見るがいいよ!」
「あー、ほんとだー。500Gって、お酒何杯分だっけー?」
ちょっと目を離した隙にハナ様が、新しい酒瓶を空けてグビグビとお酒を飲んでる。

まったく困った酒カスだよ! ゲラゲラと笑う酒カスは放置だよ!
ボクは賞金首を換金するので忙しいからね!


酔っ払いと現実逃避の店、荒野の酒場タランボーラ。
この集落で唯一の、娯楽で飲食店で癒しの場で集合場所。ウサギ小屋みたいで立派な店で、棚には一生懸命かき集めた安い酒瓶が並んでて、テーブルとイスには夢も希望もなさそうな人間たちがだらしなく座ってる。

「いいかい、みんな! 今日はね、あのクソッタレのチキン野郎を捕まえた賞金稼ぎがゲストに来てくれてるよ! ねえ、お嬢ちゃん、名前は?」
「ハナでーす。好きなお酒は強いやつでーす」
すっかり出来上がった酒カスを囲んで、女店主と住人たちが盛大に宴を始めている。人間は酔っぱらうのと騒ぐのが好きだ、いい年して寂しがりなのかな。
「私はハピ・アワアワ、よろしくね! 今日は私の奢りだ、好きなだけ飲みな!」
「わぁーい!」
バカみたいにはしゃぐ酒カスの目の前に、ガンガンガンガンガンとカクテルを注がれたグラスが並び、とどめとばかりにドンとウィスキーの瓶が置かれる。
「みんなはこいつで好きなだけ飲めー! 今日の私はお代尽だ!」
そう言ってバカになった酒カスが賞金を豪快にテーブルに置く。全部で20人はいるから、きっと半分も残らない。酒カスは脳ミソも足りないけど、明日のお金も足りない。

ボクがあらかじめ食糧とガソリンを買ってなかったら、ここで野垂れ死ぬところだったね!
感謝しろよ、このトンチキ!

「こっちが私の相棒のフライデイ。かわいいでしょ? しかも、超優秀なんだよー。買い物もー、洗濯もー、給油もー、あと私が泥酔した時の操縦とかー、全部やってくれるの!」
「じゃあ、あんたはなにすんだよ?」
「えー? お酒飲んでるー!」

ハナ様がみんなにボクを紹介している。確かにボクは優秀でかわいいけど、ハナ様が指さしているのは店の酒樽でボクじゃないんだよね。頭だけじゃなくて目も悪くなったのかな! ガラス玉と交換したらいいよ!
「へぇー、フライデイって言うんだー。いい名前だね」
女店主のハピが、ボクにもたれ掛かって、でっかいオッパイを載せてくる。重たくてとっても邪魔だ。うちのマナイタ様に分けてあげたらいいよ!
「ねえ、フライデイ。聞いてる?」
「酒カス! そっちはお店の酒樽だよ!」
「ごめーん、間違えちゃった!」
ゲラゲラと笑いながら、足がもつれてすっ転ぶ酒カスを眺めながら、ボクはいつものことなので無視しておいた。だっていつものことだからね!

「で、フライデイとハナちゃんはどこから来たの?」
「えー、どこからだっけー? お酒飲み過ぎて忘れちゃったー!」
「荒野のずっと向こうだよ。今は戦車の墓場を目指してる」
戦車の墓場というのは、世界のどこかにある大量の戦車が眠っているって噂の場所で、ハナ様とボクの目的地だ。荒野は危険がいっぱいだ、少しでも強い戦車は喉から手が出るほど欲しい。ハナ様の喉から出てくる手は、アルコール臭がキツそうだけどね!

「表のヤバいフォークリフトはハナちゃんのかい?」
「むにゃー。おなかいっぱい……すやぁ……」
「そうだよ。前の街で訳あって貰った。改造したのは前の持ち主だよ。訳は話すと長くなるから、お前たちは覚えてられないからカツアイするよ!」
フォークリフトに積んだ機銃と大砲、それに操縦席の上に載せたクレーンは元からついていたものだ。荒野を旅する連中はなんでも乗るし、なんにでも武器を積む。バイクでもバスでも軽トラでもフォークリフトでもだ。

「戦車の墓場は知らねえけど、街道をまっすぐ進んだところに妙な戦車がいて、俺たち困ってるんだ」
「戦車! ようやく役に立つ情報が手に入ったよ! 酒カス、今すぐ起きて!」
酒カスは酒瓶を抱いたままグースカとイビキをかいて、だらしなく涎を垂らしている。まったく役に立たない酒カスだよ! ボクに捨てられないことを感謝して欲しいね!

集落から西へ街道を真っ直ぐ。
そこにコックスコームの拠点があって、さらに妙な形の戦車があるらしい。しかも連中はニワトリのくせに生意気にも街道を封鎖して、周辺の集落とそこから先への物流を独占したり、旅商人から関税を取ったりしているらしい。

「つまり、そいつらがなくなれば、酒がもっと届くってことね!」
いつの間にか目を覚ましていた酒カスが、テーブルの上に仁王立ちして、拳を天井に向けて振りかざす。
「よし! 私がいっちょ、ニワトリ退治してくるよ!」
「頼んだよ! あいつらが持ってる酒、好きなの持ってっていいから!」
「ついでに戦車も持ってっていいぞ!」
「やったー!」
酒カスを中心に、ハピと酔っ払いたちがわーわー騒ぎながら、みんなで拳を振りかざしている。酔っ払いはすぐ仲良くなる、一致団結するのもナッツを割るより速い。きっと脳ミソの作りが同じレベルだからだね!


翌朝、ボクタチ、正確にはボクと泥酔してアクセルとブレーキの区別もつかない酒カスは、フォークリフトに乗って街道をひたすら西へ。
旅のお供は昔のウィスキーとありったけの銃弾と砲弾、それとショットガンを背負ったバイク乗り。
そう、酒場の女店主もニワトリ退治に一役買って出てくれたのだ。こういうのイチレンタクショーって言うんだよね、頑張って働け、足手まとい!

「えー、ハピさんも来てるの? だいじょうぶー?」
酒カスが一人前の人間みたいに心配してるけど、泥酔した酒カスに比べたらどんな人間も一人前だから大丈夫だと思うよ!
「私もあいつらには煮え湯を飲まされてるからね! 今度は鉛玉を飲ましてやろうって寸法さ!」
「怪我しないようにねー。まあ、危ないと思ったら逃げたらいいよ」
その通り。マケイヌは危なかったら逃げるといいよ!

ボクタチ+1が街道を進んでいると、向こうから砂煙を上げながらジープと数台のバイクが爆走してくる。
重力に逆らう1メートルのトサカがシンボルのコックスコームのお尋ね者! 賞金首1500G、ピッコロ・ガッロ! ちょっと大きめのハナクソだね!
ハナクソの分際で、助手席と後部座席に胸がデカいだけの女を何人も乗せてる。ボク知ってる、タダレタ関係って言うんだよね。

「あれー、戦車じゃないじゃん。って、いきなりぶっ放してきた!」
「口より先に手が出る、ニワトリのマナーはご立派だね!」

ジープの前方に載せた機銃が火を噴く。
当然、こっちも負けじと機銃を連射して応戦する。
足は向こうの方が速いけど、武器はチャチな7ミリ口径の機銃がひとつ。だけどこっちは魔改造フォークリフト、小回りなら犬よりも利く足回り。
それに、機銃こそこっちも7ミリだけど、大砲はカビ臭い37ミリのご立派様。
撃ち合って負ける要素はないね! 操縦席のノーコンが外さなければだけどね!

「とりあえず撃つよ、フライデイ!」
「ノーコンは無駄弾でもなんでも好きなだけ撃つといいよ!」
「おりゃー!」
37ミリがトイレの酔っ払いみたいに砲弾を次々と吐き出す。
1発目はジープの側面をヤスリで削るように通り抜けて、2発目はストレートに銃座を吹き飛ばした。ピッコロ・ガッロは即座に飛び降りて走って逃げて、3発目を叩き込まれたジープは爆発炎上。ジープの丸焦げとただれ女たちのローストの出来上がり。

「てめえ! ルースターだけじゃなく、女どもまでやりやがって! 覚えてやがれ!」
腹を空かせたニワトリみたいにドタバタと地面を蹴るピッコロ・ガッロを、後から追いかけてきたモヒカンの群れが拾って、そのまま無様に引き上げていく。チキンにはお似合いの逃げ方だね!

「もう忘れたよ! こっちは酔っ払いなんでね!」
「酒カスの記憶力はお猪口だからね! 余計な名前を覚えるゆとりなんてないよ!」
ボクはアームを突き出して、ハナ様は中指を立てて、ピッコロ・ガッロと部下たちに向ける。
後ろに控える女店主もゲラゲラと笑いながら中指を立てて勝ち誇ってる。お前はまだ何もしてないけどね!


「こいつらはさあ、うちの店で働いてたんだよ。だけどバカだから、ピッコロ・ガッロの女になって楽して暮らそうとしたんだよね。ピッコロ・ガッロも元々は私たちの仲間だったんだ。だけど賞金首リストに載ってたイノプネヴマとかいう超大物の悪党共に憧れて、あっという間に小悪党のリーダーになんてなっちまった。ほんとバカだよ……」
女店主が焼けこげたジープに酒をぶっかけて、ローストになった女たちに、安酒同然の価値の祈りを捧げてる。

「イノプネヴマ……なんか聞いたことあるような?」
「無茶苦茶ヤバい連中で、酒瓶1本盗むためでも町ひとつ平気な顔して滅ぼすって噂だよ」
「嫌な酒飲みだねー。私、絶対仲良く出来ないなー」
あっちも酒カスとは仲良くできないと思うよ。大物悪党と仲良くしてもらおうなんて、ハナ様はミノホドシラズだね!

「こいつらも悪党目指してたから、死んだところで正直ざまあみろなんだけど、死んだ後くらいは優しくしてあげないとね」
「あーん、もったいない」
酒カスは情緒もヘッタクレもない飲んだくれなので、ジープから滴る安酒を見つめながら、思わずベロを出している。
その意気だ。もう少しでハウスも出来ない野良犬と同レベルだよ!


「お酒無くなっちゃった……」
焼けジープの前でへたりこんでる酒カスと、なんだかしんみりしてる女店主には悪いけど、敵襲はまだ終わってないよ! お粗末な人生を終わらせていいなら、そのままでもいいけどね!
フォークリフトに積んだレーダーからサイレンが鳴り響く。高熱源で馬鹿でっかい鉄の塊のお出ましだよ!

ボクタチの目の前に、バカみたいにでっかくてマヌケが作ったみたいな、素晴らしくもみっともない戦車が現れた。

それはまるで両側から車輪でサンドイッチしたみたいな形で、さらに両側からドラム缶と鉄のドーナッツを押し付けたみたいな、ひどく滑稽でみっともない姿のイカレタ戦車だった。
大昔にどっかの国が開発したパンジャンドラムって失敗兵器を両側にくっつけた頭のおかしい戦車だ。

「おい、酒樽にまな板! それにハピ! 俺たちが荒野の果てから命がけで盗んできた、このビッグドーナツ号で踏み潰してやるぜえ!」
「見て見て、フライデイ! なんか変な戦車が来たよ!」
パンジャン戦車を指さしながら、ハナ様がゲラゲラと笑う。
笑うと失礼だよ! 真実は時にニンゲンのみみっちいプライドを傷つけるんだから!

「笑っていられるのもそこまでだ! いけ、パンジャン!」
パンジャン戦車の向かって右側のパンジャンドラムが高速で回転して、そのまま地面に射出されて、ギュルルルと砂と石飛礫を巻き上げながら、ボクタチ目掛けて走ってくる。
「フライデイ! 急速旋回!」
「もうやってるよ、ウスノロ!」
ウスノロがハンドルをぐるぐると回しながらフォークリフトを旋回させて、そのままアクセルを全開に踏んで、無理矢理かつギリギリで回避した。
つもりだったけど、フォークの先端にわずかに掠って、パンジャンドラムとの重量差で思い切り弾き飛ばされる。

「被害報告! フォーク損壊、右前輪脱輪、左前輪損傷! 機動力は半減、大ピンチだね!」
「私の三半規管も大ピンチだよ……うおぇっ…うげろげろぶぇぶぼぉぉ……」
操縦席にしがみついていたゲロ未遂女が、大きく頭を揺られたせいでゲロ女に進化してる。みっともなさでいえばレベルカンストしちゃってるね!
「ゲロビッチャ! 体当たり来るよ! ボクだけでも助けてよ!」
「うえぇぇー!」
パンジャン戦車が無理やり車体をぶつけてきて、フォークリフトが宙を舞う。ボクは車外に投げ出されて、くるっと回ってシュタッと着地する。ボクは頭だけじゃなくバランスもいいんだ、高性能だからね!
操縦席のゲロ袋はフォークリフトと一緒に宙を舞ってるけど!

宙を舞うフォークリフトの天井から、クレーンのフックが放り投げられて、残ったパンジャンドラムに絡みつく。そのまま紐のついたボールみたいに空中を2回も3回も弧を描いて回って、遠心力で引っ張られて外れたパンジャンドラムの軌道を大きく歪めながらルートを180度変えて、ありったけの砲弾と銃弾で押し込んで戦車にぶつけ返して、戦車が宙を舞うくらいのド派手な爆発を起こす。
フォークリフトも地面をグルグル転がって木っ端微塵のスクラップになったけどね!
でも、ゲロ袋にしてはいい仕事したよ! きっと砂に埋まった後で花が咲くと思うよ!

ひっくり返った戦車のハッチから飛び出したピッコロ・ガッロのトサカを、上からグリッと踏みつけて、上から下まで真っ赤な血反吐袋が割れた酒瓶を突きつける。
「あーあー、酔いが醒めちゃったじゃんか!」
「なんで生きてんだよ、まな板女!?」
「いーや、死にかけだよ。フライデイ、もうすぐ死ぬと思うから、あとよろしくね!」
そう言い残して割れた酒瓶を押し付けて、ピッコロ・ガッロのモヒカンをニワトリみたいに真っ赤に染める。やったね、これで立派なニワトリになったね! あとはチキンカツにでもなればいいと思うよ、グズのマケチキンだけど!
ピッコロ・ガッロの隣でぶっ倒れる人間のクズ、その横でくたばるニワトリのクズ。ステキな光景だね! こういうのエモいって言うんでしょ!


ボクは変な戦車なんかにやられた人間のクズを拾って、戦車の上に寝かせて、スカスカな頭と色気のないおなかに電極をぶっ刺す。
「え、あんた何やってんの?」
「見てわかんないかな? 蘇生だよ! ふつーの人間は生き返らないけど、この死にぞこないは特別製だから!」

困惑する女店主を下がらせて、ビリビリと電流を浴びせる。全身をドタンバッタンさせながら、プスプスと煙を上げて、ゆっくりと死にぞこないが目を覚ます。
「いやー、今回こそ死ぬかと思ったよ」
死にぞこないから生き恥にレベルアップしたハナ様は、頭に刺さった電極を引き抜いて、グビグビと酒瓶を飲み干して、
「あーもー、服もめちゃくちゃだし、フォークリフトも壊れちゃったし、今日はやけ酒だ!」
そう言って次の酒瓶に手を伸ばして、水でも飲むようにグビグビと流し込んでいく。
それでこそ酒カスだね! そのまま飲まずにドブに捨てた方がマシだと思うよ!

「あのさあ、生きててよかったって思ってるんだけど、なんで生きてんの?」
「えーと……なんでだっけ? お酒飲み過ぎて忘れちゃった!」

酒カスは度重なる電気ショックと、度重なる暴飲暴食で記憶が飛んでるから、なにもわからないのも仕方ないね!
ボクは知ってるけど、みんなには秘密だよ! はした金で口止めされてるからね!


結構昔、荒野の果てに頭のおかしい悪党がいた。
そいつは頭がおかしいから、
頭だけは最高で倫理観は最低な博士とか、
腕は最高だけど人間性をドブに捨てた武道家、
なにもかも終わってる天才詐欺師、
コンマ1秒で家族を裏切れる賞金稼ぎ、
金さえ積めば何でも許してくれる保安官、
名前が上がるならと銃弾の雨にでも降られる目立ちたがり屋、
といった、ゴミみたいな連中と手を組んで、自分たちの体を改造して、あっという間に世界最強で世界最悪の荒くれ集団を結成した。

それから、全員がお互いよりも友よりも家族よりも、心から愛して信頼している飲み物から【イノプネヴマ】って名前を付けた。

だけど揃いも揃って頭がおかしいクルクルパーしかいないから、ものすごくクダラナイ理由で仲間割れを始めた。
グラスに注がれた酒の量が多いとか少ないとか、そんなバカみたいな理由で殺し合いを始めて、そして中でも一番頭のおかしい奴が、ある日1台の頭のおかしい戦車を作った。

「見て見て、フライデイ! これであいつらを根こそぎボコっちゃおう!」
「なんでこんなにバカみたいでマヌケな、素晴らしくもみっともない戦車が思いつくのかわからないけど、人間のクズにはピッタリだと思うよ!」

まあ、人間のクズはその後、色々あって記憶も地位もすべてを失って、ホンモノのゴミクズになったんだけどね!


1週間後――

「ほら、ハナちゃん! ばっちり仕上げてやったぜ!」

ボクタチはあれから折角手に入れた戦車に乗らない手はないよねってことで、タランボーラの女店主と集落のみんなに手伝ってもらって、街道の向こうの街まで壊れた戦車とスクラップと鉄クズを運んだ。みんなが奴隷みたいに汗水たらしてくれたおかげで、みっともない戦車はアリエナイ感じに仕上がったよ!

「エンジンは旧時代の時代遅れの頑固オヤジ御用達のV12メテオをダブルで! 装甲盛り盛りの重装戦車の両サイドには説明不要の荒野の暴走王ことダブルパンジャン! さらに戦車本体にもアタッチメントで大砲から鉄球までなんでもアリなロマン仕様だ! カラーリングはとびっきりキュートなピンクの荒野迷彩! どうだい、最高だろ!?」
改造屋のオヤジが熱く語ってる。
ボクはこういうヒトリヨガリな熱いオヤジは大好きだよ! こいつとなら臭くてうまいガソリンが飲めそうだね!

「よくわかんないけど、いい感じに仕上がってるならいっかー」
酒カスは戦車を眺めながら、のんきに酒を飲んでる。
これだからモノを知らないバカチンはダメだね! ボクの御主人様なんだから、お酒以外のことにも興味を持って欲しいな!
「……牽引用のトレーラーに大砲からナニから積んでおいたから」
ほら、オヤジもテンション下がって嫁にオアイソされた時みたいな顔してるよ! 今すぐ土下座したほうがいいと思うな!
「……頑張って改造したんだけどなあ」
ほら、オヤジが泣きそうになってるよ! 今すぐ励ましの言葉を掛けてあげるべきだと思うよ!
「えーと、壊れちゃったらごめんねー」
それはトドメって言うんだよ、このスットコドッコイ!

「よっ、ハナちゃん。もう行っちまうのかい?」
「あ、お酒だー! くれるのー?」
女店主が餞別の酒瓶を抱えてる。義理堅くて素晴らしいね! そこの人間のクズに、カカトのカサカサを煎じて飲ませたいくらいだよ!
「ねえ、ハナちゃんさえよければずーっと居てもいいんだよ。その場合は店の酒が1週間で無くなっちゃうけどね」
「でしょー。私はハードドランカーだから、お金とお酒がたくさんいるんだよねー。だから色んなところを旅しないと飲みっぱぐれちゃうわけ」
女店主が呆れた顔で笑いながら、酒カスに酒瓶を手渡す。そんな上等な酒はもったいないよ! 酒カスには密造酒がお似合いなんだから!


「じゃあねー! また来るからー!」

戦車のキーを刺して、ドドドドドドッとエンジンが産声を上げる。
「さあ、出発しよっかー。フライデイ、戦車の墓場ってどこにあるんだっけ?」
「世界のどこかだよ! 昨日も説明してあげたよ!」
「えー? そうだっけー? 昨日は出発祝いだって朝からお酒飲んで……あとは忘れちゃった」

ボクの名前はフライデイ。かつて世界で一番幸せな人の多かった日の名前をつけられたロボットだ。
そしてご主人様の名前はハナ様。殺したって死なない、救いがたい酒カスだよ!


(続く)


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短編を書きました。
私はメタルマックスシリーズが好きなので、メタルマックスみたいな話を書きました。オマージュもレアメタル玉くらい盛り盛りです。えへっ。

やめて! 石を投げないで!

ハナとフライデイがフォークリフトに乗ってるのは、フォークリフトに機銃つけたらかっこいいなって思ったからです。
そのあとパンジャン戦車に乗ることになったのは、パンジャンドラムがくっついてたら頭おかしいなって思ったからです。

やめて! パイナップルを投げないで!