毒母と配偶者の狭間で

続きです。

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「生まれてくる子どもはあのお母さんには関わらせたくないし、俺の気持ちとしてはもう会いたくない。それくらい傷つけられた」

主人の心は折れてしまっていました。

「縁を切れっていうこと?」

「強制するわけじゃないけど、このままじゃどこかでそうなってしまうと思う」


母親のことはずっと恨んできました。でも、心のどこかで認めてもらいたい、孫だって楽しみにしていそうだし、親孝行になるんじゃないか。そんな甘い考えでいました。


小さい頃から母親の機嫌で無視や罵倒されることが続いていたので、私は主人の痛みにも寄り添えなくなっていました。私ならまだ我慢できる、私ならこれくらい耐えられる。そういう価値観を持ってしまっていたのです。

母親が主人にしたことはもちろん嫌なことだし、私も大切な人が暴言を吐かれてヘラヘラしていられたわけではありません。あの態度はおかしい、と父に想いを伝えてみたこともありました。ですが、どれだけ母親のことをおかしいと非難してみても、私も結局彼女の娘だという事実は消せません。

彼女に植え付けられた価値観は、私に人の痛みすら感じられないようにしていました。いや、それすら人のせいにしすぎで、もともと私が冷徹な嫌な人間だっただけもしれませんが。


親と縁を切ったところで、私のこの嫌な人間性が変わるわけではない。子どもにだってきっと嫌な言い方をしたり支配しようとしたりするだろう。だって、私は「普通の育ち方」をしていない。どこかで歪んでしまった。

主人は、私がことあるごとに「普通は」「周りのみんなは」と言うことをいつも注意してくれました。

普通なんて誰が決めるものでもないよ。

周りのみんなと比べなくていいよ、まめちゃんはまめちゃんのままでいいよ。


でも、私は明らかに「普通」の育ち方をしていない。ずっと、ずっと生きにくい。

育て方もわからない。自分の持つサンプルで声かけなんかしてしまったら、子どもはきっと歪んで辛い思いをするだろう。


縁を切るのは親ではないのかもしれない、と思いました。

目の前にいる配偶者と別れるほうが、被害者をこれ以上増やさないですむんじゃないか。

私には拒否しようが取り繕おうが毒の血が確実に流れているわけで、たとえ私の親と縁を切っても主人や子どもを傷つけ続ける未来は変わらないと思いました。


それなら、主人と別れて子どもを生んで、どこかに預けるなりとにかく私と関わりのないところに子どもを避難させるほうが、主人にとっても子どもにとってもきっと良いことに違いない。私はおとなしく実家に戻って毒の処理を頑張ればいい。


考えているうちに、なんで私はこんな親のせいでこんな目に遭うんだろうという気持ちになってきました。

こんなことになってもまだ私は自分のことだけしか考えられないような最低な人間で、恥ずかしくて消えたくなりました。

いっそ死ねばとも思いましたが、お腹の中で何も気づかず生きている子どもを道連れにするのは違うなと、私の中にもどうやら微かな母性はあったようです。


自分の境遇を嘆き、子どもの未来に絶望し、結婚したことを後悔し、気がつけば私は子どものように泣きじゃくっていました。

感情がちゃんとコントロールできない。

主人は、「まめちゃんの親の問題とまめちゃんと結婚して一緒にいたいことは別。自分を責めたりしないで」と言ってくれましたが、私にはそれも追い詰められるように感じました。

こんな人間に温かい言葉なんてかけないでほしい。いずれ絶望して捨てるなら今捨ててほしい。

「これからも一緒にいるんだよ」

という言葉に、私は返事ができませんでした。


一緒にいたってどこかで親と縁を切らなくてはいけない。

親と縁を切らない私は役立たずだ。

私は親と縁を切りたいのか?

散々母親には傷つけられた、でも果たしてそれだけだったか?

この人の痛みもちゃんと分かってあげられないのに、それは家族だといえるのだろうか?

一緒にいたいと私が望む権利なんてないじゃないか。


AC特有の黒か白かはっきりさせないとと自分を責めてしまうところ。

答えなんて簡単に出せない、いや、出すべき答えは決まってるのに出すことを戸惑っている最低な私。


もともと一人で平気だ、強いから私は大丈夫だ。と暗示のように思い込んできたのですが、それは実家という、母親さえ怒らせなければ衣食住は補償されるぬるま湯の中にいたからだと気づきました。


親と縁を切り、主人と別れたら、私は住むところもスキルも何もなくこの社会に放り出される。

可愛いとも思えない子どもももれなくついてくるのかもしれない(もっとも、こんな母親ではろくに育てられないと親権は主人に渡るのかもしれない)。


考えることもめんどくさくなってしまいました。

ボーナスステージだなんて思い込んでいたのはとんだ間違いで、壮大な罰だった。


愛情をもらえるからと、毒のくせに欲張ったからだ。

こんな人間だと、ずっと気付いていたのに、隠し通せるだなんてずるいことを思って結婚したからだ。


「今回は諦めて、お父さんと、私とは違う素敵なお母さんの間にもう一回行ってあげてよ」


お腹の子どもに話しかけてみた。

茶番だ。情けない。