海の見える丘(ハンターハンター 二次創作)9話

 15歳のとき、山崎は義務教育を終え、エスカレーター式で高校に移行するか選択を迫られた。ここから先は奨学金となり、将来返済しなくてはいけないと説明された。
 とはいえ、行くところはなく、中卒で出来ることも限られるため、先生からは強引に移行を勧められる。断る人間はほぼいない。

 この時点で、一応、形上は自立したことになる。このとき、国が預かっていた山崎の持ち物が返却された。国に育てられた山崎は、自分のものなんて何も持っていなかったが、赤ん坊のとき、親が山崎に持たせた持ち物は、国は処分することができず、倉庫に15年間眠っていた。

 倉庫から出されたボックスには、山崎が握りしめていたぬいぐるみと、現金3万円と、一枚の写真が入っていた。
 ぬいぐるみは赤ん坊の山崎のよだれがついていたのか、カビだらけになっていた。現金は綺麗に残っていたが、写真は古くなり、黒ずんで一部が見えなかった。

 写真には海の見える丘の上でワンピースを着た笑顔の女性と、細身で長身の男性が写っていた。女性はお腹が大きく見える、妊婦のようだ。
 写真は黒く劣化してしまい、男性の顔が見えなくなっていたが、胸の開いた白いシャツからは、左の鎖骨の下あたりにダルマの刺青が見えていた。

 おそらく両親の写真。自分が生まれる前に撮られた物だろう。

 両親の情報はこれくらいしかないが、学校の先生が、自分を引き取りに行った役所の人間と知り合いらしく、母親は出産直後に亡くなっていると教えてくれた。

 顔の見えない父親は、今もヘブンにいるのかもしれない。特に会いたいと思ったことはないが、自分のルーツがなんなのか、ずっと分からずに生きて来た感触がある。

 ヘブンは島といっても一人の人間を探すには広い。たぶん何もなく今回の旅は終わるだろう。

 ただ山崎は、写真に写る海岸の地形、太陽の位置、特徴的なデザインの灯台を手がかりに、写真が撮られた場所を特定した。

 街の郊外にある、見晴らしもいい海岸沿いのレストランから歩いて3分のところだ。

 見つけたときはもう日が落ちそうだったのですぐにホテルに戻った。

 もしかしたら、あのレストランに父がいるのだろうか?そんなことも考えた。
 見つけたところで、どうしたらいいのか分からないのだけれども。

 翌日は霧生の手がかりがないか街に出た。途中、京平の試合でも観に行くか考えつつ、うどん屋でうどんを食べていると刑事さんが入って来た。
 刑事さんは帰り際、ひとつ情報を教えてくれた。

刑事 「そうだ、街を仕切っているヤクザがいるって話しましたよね?警備と賭博を仕切っている。一応色々調べたんですが、トップの素性が全く分かりませんでした。組長の名前すら分からない。不気味なもんです。見たことあるって言うチンピラが何人かいたんですが、写真すら手に入りませんでした。
 ただホントかどうか分かりませんが、ひとつだけ手がかりがありまして」

 刑事がひとつだけと言いながら人差し指を前に出した。山崎はその指越しに刑事の顔を見た。

刑事 「その組長、ダルマの刺青を入れているそうです」

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