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それは今だけのこと。

いおりがゆわちゃんに惹かれるのは必然だ。
本人はなんで気になるのかわかってないみたいだけど。
だって、ゆわちゃんはすごく素朴だから。
見た目はそうじゃないけど、感覚はすごく素朴。
どうやったらそんなに風になれるのって、思っちゃうくらいに。
嫉妬なんて飛び越える。

いおりが惹かれるように、ゆわちゃんも惹かれてる。
それは、たぶん、いおりが折れないから。頑固。
折れてるように見えるけど、しなってるだけ。
反発させないで吸収して、飲み込んでる。
そういう、いおりの人間性の本質みたいなところに惹かれてる。

いおりは、それを無意識に認めたくなくて、ゆわちゃんを遠ざけようとしてる。
遠ざけるのは意識的に。

ゆわちゃんは本来は合うはずの波長が、なぜか合わないから、困惑してる。
どうすればいいのかわからないみたい。
手応えがなくて、折れそうになってる。

似てるんだよ。

ゆわちゃんが求めてるものは、自分にもあるのに、それには気づかないから。
知らず知らずのうちにまた引き寄せられてる。
磁石だ。

2人は、SとN。
惹き合うのは、自然なこと。

いおりが、わたしを好きなのは、ひとつには“特別”を切望してるから。
関係性自体もあるけど、わたしに対してそう感じてるから。
わたしのことを特別だと勘違いしてるから。
もちろん、わたしは特別だけど、それは人とは違うってだけの意味しかない。
人とは違うなんて、当たり前。

それは、すべてわたしにとっては普通なこと。
たまたま“いおりが特別だと思うこと”を、わたしがいっぱい持ってただけ。
でもこれも、いおりはわかってない。
自分がなぜわたしのことを好きなのか。
たぶん、言っても認めないけど。
自分が特別を求めてて、わたし自身を求めてたわけじゃないなんて。

ただ、わたしにとっては真空に漂うノイズみたいな奇跡の思い違い。

わたしが、わたしでよかったって心から感じれる休符のひとつ。

もうひとつは、水と魚だから。

水はわたし。
わたしはいおりなしでも生きていけるから。

さかなはいおり。
いおりはわたしなしでは生きていけないから。

いおりがこの世界に同調していられるのは、わたしというチューナーがそばにあるから。
ないと、いおりはこの世界に波長を合わせられない。

死にはしないだろうけど、見えなくなってしまう。

それくらいに、脆く危うい。

それはわたしがいおりから離れない理由でもある。
わたしが必要だってことが、わたしをいおりから離さない。

死なないようにとか、そういうのはない。
ただ、わたしのことが必要なんだってことが、わたしの心を離さない。

わたし達は関係性も、そのあり方も歪だ。

わたしは、魚が他にもいれば、一緒に泳がしてあげる。

今はいおりだけだけど。

それは今だけのこと。

1秒先なんて、誰にもわからない。

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