見出し画像

大好きで大嫌いだった。

私が、好きなアーティストの話をすると

「そんなのの、どこがいいわけ?」

と必ず、けなしてくる。

私が誰かと一緒に楽しそうにしていると

隣で、いつも不機嫌そうに、悪態をつく。

帰ろうとすると

「俺より、あいつの方がいいわけ??」

と、絡んでくる。

いつの間に、私とあなたは付き合ったんですか?

って聞きたくなるくらい、独占したがる。


めちゃくちゃ才能があって実力もあって、

ライブでも一寸の狂いもなく演奏出来て凄いのに

いっつも、不安そうで、何かを怖がってて

誰かに認めて貰いたいのに

誰にも自分のことなんて分かるわけないんだ。って拒否してて

一体、どっちなん!って怒りたくなるくらい

不安定で、ぐちゃぐちゃで。

でもきっと、彼自身も、何を求めていて

何を欲しているのかが、わからないくらい

混乱してたんだなぁ。


私が求めていたのは、やっぱり安定で

彼が求めているものを

私が提供出来るのかな?と思ったりしたこともあったけど

彼が求めているものは、底なしで

もっともっと、自分を見て、自分を愛して

っていう、天下一品のわがままで。

そんな彼に振り回されるのが嫌で、そっと距離を置いて。


でもさ、きっと私自身が

その時は、誰かに認めて欲しかったし

誰かの胸の中で安心して、自分の存在を認められたくて

ホッとしたかったから、同じような物を求めている彼と

一緒にいることは、難しかった。

だって、お互いに求めてばっかりじゃ、どっちも埋まんない。

ただただ、その欠けてる部分を見つめあうだけになる。


でも、埋め合えなくても

その欠けた部分を見つめ合うだけの時間も

必要だった。だからこそ、ほんの一瞬だったかもしれないけど

一緒に過ごしたんだと思う。


彼の部屋の白い天井。

ベットサイドにあった、フィギュア。

アパートの階段。

飲み屋からの帰り道。

もう、どんどん記憶から薄れて行ってるけど

あの日私が、見たものと感じたことは

ちゃんと残ってる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?