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モノではなく、人にお金をかける

「衣食住の何にお金をかけてる?」

よく行く飲み屋で、常連さんにそんな質問をされた。その常連さんはアパレル経営をしていて、いつもお洒落でダンディなおじさまだ。

「衣食住の中で衣は厳しい。衣はもう今後どんどん売れなくなっている。高い服を着たい人が減っていて、安くてそれなりに良い服でもう満足してしまっている。食と住は絶対なくならないもんなー・・・ところで、真央くんは衣食住の何にお金をかけている?」

自分の生活を振り返ってみると、すべて外食で済ませているので、ダントツで食にお金をかけている。でも衣と住はどうだろう。衣は月によって変動があるが、年間にならしたらおそらく同じくらいお金をかけているんじゃないかと思う。

そんな返答をすると、アパレルのおじさまは嬉しそうに「住と衣が同じくらいってイマドキ珍しいなー」「またセールの時は来いよ」と言ってくれた。そう、衣のお金の一部は、このおじさまのところで使っている。

何にお金をかけるか。自分の中での基準は明確で、モノよりヒトで決めている。

すべて外食で済ましているというと、よく某牛丼チェーンやコンビニなどを多用していると思われるのだけど、実はほとんど使わない。それよりも知り合いのお店に行って、牛丼の何倍もするかもしれないけれど、そっちでお金を使いたい。

それで見返りがあるとか、何かを期待しているわけではない。ただそれでも知り合いに使ってあげたい。その方が自分だけが満足できるのではなくて、顔が見えている方が満足感が2倍になる気がする。

一方多くの人たちは、それよりもいかに自分の満足感を高めるかにお金を使っている人が多い気がする。それは色々な情報が簡単に手に入るようになったからであって、お金を使ったあとの結果やリスクが見えやすくなっているからだと思う。だから飲食店に行くときは食べログを見るし、本を買うときはAmazonを使ってしまうのだろう。

もちろんその使い方が悪いとかではない。僕も映画を観る時は映画レビューアプリFilmarksのレビューを(ある程度)参考にしている。評価が高い物の方が総じて美味しいし、面白い。そうしやって舌や目が肥えていくだろう。だけど、多くの人が高く評価していることにだけ目を向けてお金を使っていると、人としての何かが失われていってしまうような気もしている。

好きだからお金を使う。だから観に行く。そうやって自分に言い聞かせながら観に行った映画が、今巷で酷評の嵐真っ只中の『大怪獣のあとしまつ』である。

人類を未曽有の恐怖に陥れた巨大怪獣が、ある日突然、死んだ。
国民が歓喜に沸き、安堵に浸る一方で、残された巨大な死体は徐々に腐敗・膨張を進めていた。
爆発すれば国家崩壊。この巨大怪獣を一体誰が、どうやって処理するのか―。

大怪獣と戦う映画は数合えれど、死んだ後にどうするのか、ということをテーマにした映画は珍しい。それこそ、現実世界で起きている未曾有の事態が終わったとしたら、そのあとにどんな世界になるのか。そういった見方も出来る分、この映画の射程距離は長く、多くの人たちの興味を引いたに違いない。

なぜこの映画がそこまで批判されているのだろうか。

予告編を観た時に、多くの映画ファンは庵野監督の『シン・ゴジラ』を思い浮かべたに違いない。『シン・ゴジラ』は、「もし現代の日本にゴジラが現れたらどうなるのか?」ということにテーマを置き、実際に国防省をはじめとした国家機関にリサーチを行って、より現実的に制作された映画だ。そのリアル性がウケ、非常に評価の高い映画になっている。

しかしこの映画は三木聡監督であり、彼の映画はシュールギャグをはじめとした高度な言葉遊びや、脈絡が無茶苦茶なストーリー展開がウリである。『シン・ゴジラ』とは真逆のテイストになることは、『図鑑に載ってない虫』『イン・ザ・プール』など、これまでの三木監督の映画を観てきた人ならすぐに分かることだ。

そして何を隠そう、僕は三木監督のファンである。彼の映画特有の言葉回しから「ものごとを別のことで比喩する面白さ」を学んだし、脈絡のない展開からも「一見つながっていないことも、こう見たら繋がるのね」と世界の見方を教わった。

おそらく「大怪獣のあとしまつ」はレビューサイトの評価だけを参考にしていたら、観ることはなかったと思う。しかし三木監督作品となれば観ないわけがない。ちなみに言うと、世間の酷評から合い知れず、むしろ前作よりも断然面白かった。

自分が好きな人たちにお金を使い続けることは、これだけたくさんの情報が出回っている中で難しいことに思う。それでも自分の感覚を信じてお金をかけることが、自分を豊かにしてくれるのだろう。

『大怪獣のあとしまつ』を観るときは、まずいくつか三木監督の映画を観てからにしてほしい。
『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』、『亀は意外と早く動く』あたりを観てからなら、本作の面白さが感じられると思う。

文章:真央
編集:アカ ヨシロウ 

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