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アンパンマンの手押し車

電車に乗ってると見ず知らずの駅に着いた。さっきまではよく知っている駅でよく知ったコンビニの横を通り過ぎていたのだが、霧に包まれ、ふと外を見ると見知らぬ駅に止まっていた。直観的に降りてはならないと思ったのだが、降りてみたくなった。それは堪えがたい好奇心によるものだった。
ホームに降りた途端、電車は、今だと言わんばかりに発車してしまった。まんまとしてやられた私は仕方なく駅をぶらつくことにした。その駅は沼の中にあった。田植えの時期に苗が浸るくらいにまで水で濡らしたあの地面を思い出した。茶色くじめりとした床の上にぽつんと線路とプラットフォームがあった。遥か彼方には1つ城が見える。もしかしたらラブホかも知れないが、おそらく城だろう。こういうところにラブホは無いと思うからだ。遥か彼方の城の周りには住宅街があった。日本家屋だった。
見渡しているとき、アナウンスがなった。
「電車が参ります、ご注意ください」
なんだろうと思ったらアンパンマンの手押し車だった。

それに乗ると、はひふへほ、と、ただ忠実に「は行」が音声として出されただけだった。

目が覚めると、ベットの上で寝ていた。

母が入ってくる。
「あんた、まだ寝てるの?早く起きなさいよ」


なぜ母だと思ったのだろうか、この女性は私の人生の、どの記憶を探っても出てこなかったのに。

その見知らぬ女性が私を懸命にベットから引きずり出そうとしている。電車に間に合わないことを口実に。

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