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防波堤として

何年か前の笹井宏之賞に応募したものです。このまま眠らせておくのはあまりに私と歌が可哀想だったのでここに置かせてください。


村すらも滅ぼせないのね魔王さま ふたりでしようよ世界征服

人を殺すのはつらいね魔王さま ふたりでしようよ投身自殺

あの花の名前を教えて魔王さま ふたりでいこうよ川の向こうへ

傷ついてばかりだったね魔王さま きっと今度は大丈夫だよ

足元でバタバタうるさい余所の子を蹴飛ばす 覚める 夢でよかった

君だけは何も間違ってなんかない その憎しみもぜんぶただしい

しわしわになった不織布おしこんでわたしほんとうこわかったのよ

できるなら全てを憎みたかったね はやくしにたい(つよくなりたい)

ステンドグラスの隙間にいる天使 聖母マリアを流し目で見る

「まともな人のほうがよっぽどこわいよ」と赤靴残しそのまま落ちた

泣かないでジョバンニ 君は悪くないきれいなものだけみたかったよね

ぼくだって死にたくなんかなかったと泣いてるカンパネルラの隣

よだかさえ悪口言われて死んだのに人は歴史から学びやしない

頑張っていてもだめになることもあるのよ やさしくおしえてあげる

絶頂と号哭の狭間でにぎりこむ爪が刺さってとてもかなしい

世界中誰も悪くないのならよかったのにね ごめんなさいママ

もうすこしこどもだったら街中でしゃくりあげても許されたのに

絶対に取られたくないから薬指へし折っといたざまあみろばか

「『優しい』の『優』が名前につく子ってだいたい優しくないよね」 「それな」

傷口をわざわざ開いて唾つける夜だってある こっち見んなよ

ひとりでも立ち上がれること知っている 早く世界はわたしにあやまれ

二枚貝みたいな合掌 息が出来ないのはここが海底だから

黒檀の長髪ゆっくり確かめてゆっくりなでる なんでもできる

あたたかいふとんのなかでくるまって こわかったよね いたかったよね

明け方に背中丸めて親指の第1関節ちぎって食べる

人の痛みがわかるきみだって今までずっと痛かったよね

シルバニアファミリーの赤ちゃんの耳を塞いで俯き怒号に耐える

つかれたねえ寝ててもいいよ次に目が覚める頃にはぜんぶよくなる

死にたいと言い出せないで笑ってるあなたの爪をやさしくなでる

生花だと知らない間に枯れるから造花でいいのと穴に差し込む

さざなみのほころびの中に飛び込んで救いなんて何度も いらない

「夢でみる海はほんとに美しく、ここで死にたいと思いました。」

本当は全部怖くて痛くって仮面の下で泣いてるピエロ

いつまでも言/癒えない傷をにぎりこむ よごれたくない、よごれたくない!

思想ごと愛してください 銀匙でキウイの中の星空すくう

それじゃあね、また会いましょうね、元気でね、無数の痛みを数えましょうね。

ゆめのなか 大きなバケモノこわいけどちゃんと逃げるから抱きしめてよね

もう二度と醒めたくないな『じゃあずっといなよ、ここにはママはいないよ』

傷つけた後に一人で泣いている あなたの思想になりたい正午

望まれて生まれてきたから望まれて死にたいうそですママありがとう

もしぼくが魚だったら泣いたとてバレないのかな 5月の湖

あたたかい湯船に浸かる 魚なら死んじゃうね私ひとでよかった

らんちゃんへ あなたにあげたあの言葉返してください おなじかたちで

さも平気そうなあなたの横顔に(やさしくきれいだ)触れたかったよ

本当は大丈夫じゃない君だけどたぶん一緒に逃げてはくれない

願わくばこのさみしさがきみまでも蝕むことがありませんよう

もういいよ 鬼は帰った でておいで あなたは十分護ってきたよ

わたしたち天使だったのに「いらない」と言われちゃったね。ころしちゃおっか。

大丈夫わたしにまかせて はじめから世界におまえの居場所はないわ

神おらぬ月に生まれた君だけど つよくなりたくなかったのよね


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