【映画】グリーンブックを見て

今日は映画レビューです。

概要

表題 グリーンブック
監督 ピーター・ファレリー
出演 ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ ほか
公開 2018年アメリカ

主人公のイタリア系アメリカ人・トニーは、粗野で下流階級(といってもそこまで貧しいわけではなく自宅もある、下の上くらい)の白人男性です。職を失ったことから、黒人の天才ピアニストのドクター・シャーリーが中南部を回るツアーの運転手を勤めることになります。
・白人、下流階級、教養はない、愛情に囲まれて育つトニー
・黒人、金持ち、インテリ、孤独なドク
という全く違うバックグラウンドを持つ二人が、旅を通じて交流を深めます。実話がベースの物語です。
なお舞台となる1962年のアメリカは、公民権法が制定される前です。さらに、ドクがツアーを回る中南部は黒人への差別が激しい地域です。トニー自体も黒人には差別的思想をもともと抱いていました。


※以後、ネタバレを含みます

ミッドサマーへのアンサームービーとなった

 この映画を見たとき、分かり合うとは、やっぱりこういうことだよなあ、と思わされました。何もかも違う二人。はじめは話も合わないし、トニーの粗野な行動で諍いが起きたりもします。それでもツアーを回るためには一緒に行動せざるを得ません。そんな中で、ちょっとしたこと(ケンタッキー州でKFCを食べることとか)を通じて二人の距離は縮まっていきます。また、あるとき、ドクの孤独があらわになるシーンがあります。そんなドクを目の前にして、トニーは何も言いません。ただ、一緒にいます。
 はじめはもちろんぶつかり合う。けれどそれでも同じ時を過ごす。相手の抱えきれない悲しみや苦しみには、ただ寄り添う。私たちひとりひとりは皆違う人間だから、誰の苦しみも悲しみも肩代わりしてあげられない。ただ、孤独じゃないよというメッセージをそばで示し続ける。その繰り返しによってのみ、私たちは信頼という繋がりで結ばれることができるんだろう、と思えました。
 このツアーは実際にあり、二人は終生友情を育んだということも素晴らしいと思いました。人間はどんなにバックグラウンドが違っても分かり合える、ちゃんと結ばれて生きていけるんだ、と、二人に教えてもらいました。

 このグリーンブックを見る前に、ミッドサマーを見て、「耐えきれないほどの強い悲しみを持つ人をどうケアすればよいのか?」ということをちょうど考えていたところでした。ミッドサマーでは、主人公の悲しみはホルガ村の共同体にすべて絡めとられ、主人公は完全にホルガ村の一部となることで映画が終わりました。主人公の心の傷は癒えたかもしれないけど、これって外から見たら不気味でしかない、これでよいのだろうか…?と思っていたのです。そんなときにこのグリーンブックに出会えて、答えをもらえたような気分になりました。

激しい人種差別

 私にとっては「誰かと分かり合うこと」がこの映画のメインテーマだったのですが、黒人への差別についてもテーマの一つだったのかなと思われます。ドクはバーで絡まれたり、警察に捕まったりします。ピアノの演奏で招かれている場所ですら、汚いバックヤードを楽屋として提供されたりもします。つい50年前、自分の親や祖父母の時代には、こういうことが普通だったんだなあと素直に驚きました。そのことは悲しいですが、数十年で時代は変わるんだな、と希望も持てました。今は黒人のハリウッドスターやスポーツ選手、表には出てきませんがきっとインテリ層もたくさんいますし、肌の色が違うカップルも全く珍しくありません。ドクはつい最近、2010年代まで存命だったようですが、時代は変わったなあ、と思ったかもしれません。
 露骨な差別をしてくる相手にも真摯に、品位をもって対応することを信条としていたドクですが、ツアーの最後の最後でついに反旗を翻します(もちろん品位を持って)。その後予定していた白人向けの会場でなく、黒人が集うバーで演奏し、会場を沸かせたのは痛快でした。

二人の関係性

 また、全く何もかもが違う二人が、良い影響を与え合うところもすごく素敵だなと思いました。
 トニーは粗野ですが、イタリア系らしく、感情を素直に出して、美味しいものを食べて、というシンプルな人生の楽しみ方を知っています。先にも少し書きましたが、ケンタッキー州でケンタッキー・フライド・チキンを食べるシーンで、フライドチキンを素手で食べたことのないというドクに、いいから食ってみろ、と食べさせます。ドクは美味しさに少し驚きます。そんな素直な生きざまにドクも少し感化されていたような気がします。
 また、ドクはトニーの発音を直そうとしたり、妻への手紙の文面を考えてあげたりと、運転をしてもらっているお礼なのか、色々と面倒を見てあげていました。発音については匙を投げるトニーでしたが、手紙の文面は指導を受けているうちに、最初よりずいぶん良い内容のものが書けるようになりました。
 こんな、それぞれの良いところが相手に影響されあう関係性、いいなと思いました。

まとめ

 いまのところ、2020年に見た映画では1番好きです。これまで見た映画の中でも、5本の指に入るくらいです。映画館で見なかったことを後悔し、レンタル代金しか払わないのが申し訳なくなるくたい良い作品でした。
 ぜひ、いろんな人に観てもらいたい作品です。

以上

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