【読者】現代アート、超入門!

今日は読書記録です。

概要

書名 現代アート、超入門!
著者 藤田令伊
発行 2009年

タイトルのとおり、現代アートの超入門書です。著者の藤田氏はアートライターさんです。出発点は素人ということで、学芸員さんや研究者さんには書けない、素朴な視点から現代アートの捉え方を教えてくれる本です。

わからない、でいい

 この本を読んで、いいなと思ったのが、読者の素直な気持ちを肯定してくれるところです。素人が現代アートを前にすると

「なにこれ?」
「これのどこが名画?」

といった、現代アートを理解できないゆえにどうしても不可解な気持ちを抱くことが多いと思います。というか今の私がそういう状況です。キレイだな、とか面白いな、とか思う作品もあるものの、多くはその魅力が理解できません。でも、著者は本の中で何度も、わからなくてもいい、ということを説いてくれています。これまで私は現代アートが理解できない自分を少しカッコ悪く思っていましたが、この本のおかげで、そうだよね、わからなくていいんだ、だって本当に何を書いているかわからないんだから、と素直な感想を受け入れることができました。

現代アートの懐の深さを知る

 現代アート、という言葉で思い付く代表作品のひとつが、デュシャンの「泉」。はい、便器にサインをしただけの、あの作品です。この本ではなぜ泉が現代アートの代表作か、わかりやすく解説してくれました。「泉」は、アートを様々な既成概念、例えば「アートは本人が作ったものではなくてはいけない」等といったしがらみから解き放った作品なのだそうです。

そして、その既成概念から解き放ったおかげで、現代アートは何でもあり、になってしまったそうです。本で紹介された中で、個人的に一番衝撃的な作品が「ピス・クライスト」というものです。詳しくは調べてみてほしいのですが、な、なんと、自分の尿の中にキリスト像をいれて、アート、と主張しているそうなのです...これには驚きました。日本人的感覚だと、バチが当たりそうですよね。もちろん発表された国でも相当バッシングを受けたようです。
でもそんな作品も、アートです、と言い切ってしまえばアートになる。現代アートって概念広すぎるだろう...と思いました。いえ、現代アートとは、アートの概念を広げようとし続ける試みなのかもしれませんね。

お勉強も必要

 この本を読んで、現代アートはクラシックアート以上に、発表当時の社会情勢やアーティストの状況等、文脈を勉強していた方が理解しやすくなる、と知ることができました。例えば先述の「泉」が発表されたのは、第一次世界大戦の真っ最中である1917年です。こんな世の中、おかしい!という気持ちを込めて、デュシャンはアートの既成概念を否定する「泉」を発表したのだそうです。ただ便器だけ見ても、これがアート?としか思えませんが、そんな文脈があると知ると、なるほど、確かにアート、つまり自己表現のひとつと言えるなぁ、と思えてきます。このことを知って、世界史を勉強し直したくなりました。

わかりそうでわからない作品を大切に

 この本を読んで、これからの鑑賞に1番役に立ちそうだな、と思ったフレーズは、「わかりそうでわからない作品を大切にする」というものでした。

 魅力がよくわかる作品は自分が理解できる作品、ある意味で既に手中におさめた作品といってよいでしょう。それに対して、魅力が全くわからない作品は取りつく島がないので、今は自分の手に負えない、自分には認められない作品です。もちろん、魅力がわかる作品だけをずっと眺めていても良いです。が、わかる作品の範囲を少しずつ広げた方が、よりアート鑑賞も楽しくなるはずです。そのためには、わかりそうでわからない、つまりその魅力をもう少しで掴めそうな作品をよく見ていく、そして魅力がわかるものにして手中におさめていく、ということを繰り返すことが必要なんだ、と思いました。今の私で言うと、ピカソがこの「わかりそうでわからない」に該当しています。彼の静物画はカッコいいと思いますが、人物画はどうもまだ受け付けません。でも理解しようという試みは続けていきたいです。

まとめ

 現代アートって気になるけど、なんかわからないんだよなぁ、という人にはぜひ読んでもらいたい本です。とっかかりとして、とても良い一冊です。

以上

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