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静かな感動

誘われて、昨夜は映画を観に行った。浦河に唯一ある映画館、大黒座で今上映している「荒野に希望の灯をともす」というドキュメンタリーだ。

2019年12月に何者かに襲われ、亡くなった日本人医師、中村哲氏のことはニュースで流れ、知っている人も多いと思う。著書も多数ある。

が、TVで流れる映像は短く、私も何度か見て、凄い日本人がいたのだなぁと思い、その活動や功績などを心に留め、名前を記憶はしていた。

今回のこのドキュメンタリーは20年に渡る断片的な記録や未公開の映像をつなぎ、著書からの言葉を引用したり、実際のインタビューを挿入したりして、より全体的な流れ、何が発端で、何を見て、何を考え、どう行動し、それがどんな結果となったのかが、より現実として迫ってくる。

何を見たのか

例えば、アフガニスタンの医療の悲惨な状況を私はきちんと想像できなかった。ハンセン病患者の治療にあたる中村氏の映像が出てくるが、まともに見ていられないような症状を私は今回初めて目にしたが、中村氏はこれに毎日毎日向き合ってどう治療すべきか、自問自答を繰り返す。治す、治療を施すと言う医療的な観点だけでなく、患者がその後どう生きるか、生きていかれるかと言う視点や、死期を遅らせる、苦しみが続くことをどうとらえるかと言う角度でも考えていた。

またスマホの情報網など無いに等しい場所で、人づてに聞いて何日も瀕死の子供を抱いて歩いて到着した診療所には、同じような状況の人々が溢れかえり、順番を待っている間に子供がなくなったりするのも毎日のように中村氏は見ていた。助けたいのに助けられない。医師として日々どんなことを考えただろう。

このドキュメンタリーで中村氏が見た全てを見ることはできないけれど、その一端に映像で触れることで、この一人の医師の決意がどれだけの年月を経て、どれだけ深く考え、固まったのかが伝わってくる。

何が起こっていたのか

しかも抵抗や反対もあれば、戦争、干ばつ、難民、洪水など、状況が常に変化し、必ずしも良い方向に向かうわけではない。知らなかったことだが、診療所を開いた地域で大干ばつがあり、2世帯を残して人々が職や食べ物を求めて、生き残るために去って行き、診療所が不要になったりもしている。

希望

用水路を作ったとは聞いていたし、完成した用水路の映像も見たことがあったが、構想の段階で、どれだけ荒涼としたところだったかまでは知らなかった。かつて水田があったと言う場所も、干ばつで砂漠のようだった。そこに水が引かれ、人々が帰農しに戻ってくるようになり、木々が生い茂り、小麦が実り、人々の、特に子供たちの顔つきや目の輝きが変わってくる。まるで何か熱が伝わってくるような感覚で、希望を感じた。

日本でも精力的に

中村氏は日本に帰国すると、募金活動のために全国で講演を行っていた。その映像も出てくる。実はほぼ隣の静内にも講演で来たことがあったそうだ。その事実1つ取っても、おそらく短かかったであろう帰国の期間に、どれだけ精力的にどれだけの移動をしながら、全国を回ったかが想像できる(普通静内まで来ることはないと思う。人口わずか2万人なんです、静内は。空港からも遠いし、どこでもドアもないわけだし)。

その結果、集まったお金があったからこそ、重機が買えたり、医療品や薬品、食料などが買えたのだと思う。一人の人がたくさんの人々を巻き込むパワーも感じた。

悲しみ

そしてそんな風に精力的に活動する中、10歳の息子さんを脳腫瘍で亡くしている。その後、用水路ができて、その水で遊ぶ同じ年代の子供たちを見つめ、いるはずがないのにそこに我が子がいるような気がする場面があった。深い悲しみが伝わってくる。

病床の横にいて支え、見守るのも親の愛情だけど、それができなくても、そばにいられなかった分、見てろよ、(用水路を)完成させて弔ってやると誓うのも、また親の愛情に違いなく、天国にいる息子さんは、きっとお父さんのことを誇りに思っているのではないかと思う。

喜び

しかし何と言っても心洗われる場面は、現地の人々が、生きるために傭兵になっていたりした人々がたくさん集まって、自分たちのために、子供たちのために、手作業で力を合わせて用水路の工事をし、完成させるところだ。その作業に中村氏自らも参加していた。完成後、中村氏も満面の笑みを見せていたし、皆に心から感謝されていた。

だけど、作って終わりではなく、その後、洪水の被害にあって壊れたものをまた直したりするのだが、それを現地の人たちが自分たちでできるようにしていることがすごいと思った。中村氏亡き後も、現地の人々、特に中村氏のそばで活動した人々が、別の堰を完成させている。脈々と活動が続いている。

観終わって、ちょうど用水路に初めて水を流し入れた時のように、何かこう静かに満たされて行く、決して急激な感情とかではなく、乾いた土地に水が染み込むような感動を覚えた。

浦河の大黒座で2月18日まで上映しています。





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