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空きっ腹で空騒ぎ

腹ペコたち

毎朝、乗馬公園の厩舎の扉を開けると、馬たちが一斉に顔を向けてくれる。きっと私の顔を見てがっかりなのだと思う。みんなが待っているのは別の人、餌をくれ、放牧地に連れて行ってくれる人だからだ。お腹空いたよ、という顔なのかな。とにかく期待の視線を集めてしまう。

様子が違う

今朝もいつも通り、愛馬をこの厩舎に連れてきて馬装をしようとしたところ、なぜか後ろに下がり、お腹のあたりを見ている。愛馬は無駄な動きをしないタイプで、馬装や手入れをするとき、ほとんど動かずじっとしている。が、今朝はやけに動き回り、明らかにいつもと違う。前掻きもしだした。丁度、乗馬公園で乗馬療育をしている方(馬たちが待ち焦がれていたひと!)で馬に詳しい方がいらしたので、いつもと違うんです、と意見を伺うと、「顔を見る限り、お腹は大丈夫そうだけど」とのこと。

何かを訴えている?

馬装を続けるも、一時もじっとしておらず、ブラシもかけられない。前掻きが激しくなったところで、こんな様子を見たことがない私は心配になり、お世話をしてくれているMさんを呼びに行った。Mさん、横に後ろに動いてはお腹のあたりを気にして振り返る愛馬の様子をじっと眺め、近くの馬房から乾草をひとつかみ拝借して愛馬の口元へ差し出してみる。すぐには食べなかったし、全部は食べなかったが、少しだけ口に入れて、食べた。「大丈夫。ちょっとイライラしてるけど、乗って大丈夫だよ」とのこと。馬装を再開するも、前掻きは激しくなるばかり。何か訴えていることは確かだが、私にはそれが何かがわからない。

アドバイス

この頃には他にも自馬の世話をしにきた方でいつも会う方がいらして、心配なら調馬索してから乗ったら? とアドバイスをもらったのだが、しばらく調馬索をしてないから不安、と言うと、20分くらい歩かせたら? と次なるアドバイスをもらい、馬装は諦め、競馬場のパドックみたいに大きな覆馬場の中を歩くことにした。

大丈夫かな?

洗い場の様子があまりにもカリカリソワソワしていたので、私を無視して走り出したり、引っ張ったり、立ち上がったりするのかな、とありそうなシナリオを少ない知識を総動員して考えつつ、その時はどうしたらいいのだろうと考えながら歩き出したのだが、拍子抜けするほど、いつもの感じで淡々と歩く愛馬。

大丈夫

最初は黙って歩いていたのだが、大丈夫そうだし、横に並んでこんなに長く歩くのは初めてだったので、だんだん黙っていられなくなり、色々と話しかけてみた。愛馬もリラックスして、大きく鼻から息を吹き出したりして、そのタイミングが私の話と妙に辻褄が合ってしまった時には、思わずこちらも吹き出してしまった。

話しながら歩くのが楽しくて、気づいたら30分経っていた。洗い場に戻るといつも通り、動かずじっとしている愛馬。一体なんだったんだろう?

空腹

軽く手入れをして放牧地へ放ち、その足でMさんのところに報告に行った。私はいつもと様子が違うだけで半ばパニックしてたが、Mさんは愛馬の飼葉の食べっぷり、水を飲む量、ボロの状態や量など、毎日観察しているから、いわばたくさんのデータ、統計値を持っているわけで、ここ数日の乾草の量を振り返ると、昨日はいつもより大分少なかったから、きっとお腹空いてイライラしてたんだよ、と話してくれた。なんだ、お腹が空いていただけ?? 

私一人の空騒ぎでした

厩舎に戻り、乗馬療育の方に、深刻な疝痛の時の様子ってどんななんですか? と聞いてみると、息が荒く、苦しそうになるとのこと。私は馬が疝痛になったときに居合わせたこともなく、いつもの様子といつもと違う様子という2種類のデータしか持ち合わせていなくて、判断がつかない、わからないから大騒ぎしたけど、周りの方々は経験値からもそんなに騒ぐ必要はないってきっとわかっていたのでしょうね。私の空騒ぎ、シェークスピアのMuch Ado About Nothingを一人芝居で演じた気分。まだまだ馬に関しても、愛馬に関してさえも、知らないことばかりであることを痛感した。


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